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昼休みの教室は、少し息がしやすい。
授業中よりもざわついていて、
誰も一人ひとりを気に留めない時間。
その雑音の中に紛れていれば、
僕は“普通の誰か”でいられる。
……はずだった。
席に座ったまま、ぼんやりと机を見つめる。
視線を上げなくても、分かってしまう。
(……また、だ)
世界が、少しだけ歪む。
音じゃないもの。
言葉になる前の感情。
胸の奥で揺れている、本当の気持ち。
楽しそうに話しているクラスメイトの輪から、
微かな疲れと苛立ちが滲んで見えた。
(楽しそう、なのに)
仲が悪いわけじゃない。
嫌い合っているわけでもない。
ただ、無理をしているだけ。
その事実が、
静かに胸を締めつける。
知りたくなかった。
見えなくてよかった。
――千里眼。
遠くを見るための力なのに、
僕の場合はいつも、人の内側ばかりを映し出す。
「霧夢」
名前を呼 ばれて、肩が跳ねた。
「一緒に食べない?」
気遣うような笑顔。
優しい声。
……その奥。
(断られたら、気まずい)
見えてしまった感情に、
胸の奥が、じくりと痛む。
「……ありがとうございます」
小さく頷いて、立ち上がる。
隣に座る。
会話に混ざる。
同じ時間を過ごす。
それなのに。
(分かり合えてない)
相手のことが分かってしまうからこそ、
自分のことは、何も言えなくなる。
「霧夢って、静かだよね」
悪意のない一言。
「……そうですね」
曖昧に笑う。
“本当はどう思ってるの?”
その言葉が来る前に、
心が、一歩後ろに下がる。
フードの中で、
視界が少しだけ揺れた。
(……見ない)
これ以上、見ない。
そう決めたはずなのに、
世界は、やけに鮮明だった。
誰かと一緒にいるのに、
ひとりぼっちみたいな感覚。
それが、
いつの間にか日常になっていた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
助かった、と思ってしまった自分に、
少しだけ、嫌気がさした。
(この力がなければ……)
そう考えて、
すぐに打ち消す。
力がなくても、
きっと僕は、同じように黙っていた。
だからこれは、
力のせいじゃない。
僕自身の問題だ。
教室に戻る途中、
背中の奥が、微かに熱を持った気がした。
(……まだ、大丈夫)
そうやって、
今日も自分に言い聞かせる。
見えてしまうものから、
目を逸らしながら。