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春の風が少しだけ暖かくなり始めた頃。
高校一年生になった こまわりこま と 音ノ乃のの は、いつものように並んで登校していた。
「ののー! 急がないと遅れるぞー!」
朝日みたいなオレンジ色の髪を揺らしながら、こまが大きく手を振る。
その隣で、ののは少し眠たそうに目を細めた。
「……こまが早すぎるだけです」
「えー? 青春はスピード勝負だぞ!」
「意味わかんない……」
そう言いながらも、ののの口元は少しだけ笑っていた。
二人は小さい頃からずっと一緒だった。
近所に住んでいて、幼稚園も、小学校も、中学校も同じ。
こまは昔から太陽みたいな存在で、静かなののをよく外へ連れ出していた。
泣き虫だった頃のののを、こまはいつも守ってくれた。
だから、ののにとって“隣にこまがいる”のは当たり前だった。
――でも。
高校一年になってから、その当たり前が少しずつ変わり始めていた。
☆
放課後。軽音楽部の部室。
ギターを抱えたこまは、楽しそうにコードを鳴らしている。
キーボードの前に座るののは、楽譜を見ながら静かに音を重ねた。
二人の音は、不思議なくらいぴったりだった。
演奏が終わると、部員たちから拍手が起きる。
「やっぱこまとののコンビ最強!」
「付き合っちゃえばいいのに〜!」
その言葉に、ののの手が止まった。
「っ……!」
こまは笑ってごまかした。
「ないない! ののは家族みたいなもんだし!」
――家族みたい。
その言葉が、ののの胸に小さく刺さる。
「……飲み物、買ってきます」
静かに席を立ったののを見て、こまは少しだけ困った顔をした。
☆
自販機の前。
ののは缶ミルクティーを握りしめながら、小さくため息をついた。
「家族、か……」
わかっていた。
こまに悪気なんてないことくらい。
でも、“幼なじみ”のままではいられない気持ちが、確かに胸の中にあった。
すると後ろから足音がした。
「のの!」
振り向くと、息を切らしたこまが立っていた。
「急にいなくなるなよ。心配した」
「……別に、大丈夫です」
「大丈夫じゃない顔してる」
夕暮れの光が、こまの緑色の瞳を優しく照らす。
その顔を見ていると、ののは胸が苦しくなった。
「……こまは、ずるいです」
「え?」
「優しいから……期待しちゃう」
こまの表情が止まる。
ののは俯いたまま、小さな声で続けた。
「家族みたいって言われるたびに、“女の子”として見てもらえてないんだなって……思っちゃうから」
静かな沈黙。
遠くで吹奏楽部の音が聞こえる。
こまはしばらく黙っていたが、やがてゆっくり口を開いた。
「……俺さ」
「?」
「ののに彼氏できたら、たぶん嫌だ」
ののが目を見開く。
「他のやつと笑ってるの見たら、めちゃくちゃモヤモヤするし」
「それは、幼なじみだから……」
「違う」
こまは真っ直ぐののを見た。
いつもの軽い笑顔じゃない。
真剣な顔だった。
「俺、多分ずっと前から、のののこと好きだ」
風が止まった気がした。
ののの心臓が、大きく鳴る。
「でも、今の関係壊れるの怖くて……言えなかった」
夕焼けの中で、こまは照れくさそうに笑った。
「だから、その……もし嫌じゃなかったら、幼なじみじゃなくて、“彼氏”になりたいです」
ののはしばらく固まっていた。
けれど次の瞬間、顔を真っ赤にして俯く。
「……返事、遅いです」
「え!?」
「私の方が……ずっと前から好きだったのに……!」
その瞬間、こまは目を丸くしたあと、思いきり笑った。
「まじ!? 両想いじゃん!」
「声大きいですっ!」
恥ずかしそうに怒るののを見て、こまは優しく頭を撫でた。
ののは少しだけ驚いたあと、そっとこまの制服の袖を掴む。
夕焼けに並ぶ二人の影は、もう“ただの幼なじみ”ではなかった。
コメント
5件
あ"…バタン(←てぇてぇ過ぎて尊死!
あ〜〜〜!!待ってこれ最高すぎました……!😭💕 「家族みたい」って言われて傷つくののちゃんの気持ち、すごくわかって胸がギュってなったのに、最後にこまが「彼氏になりたい」って真剣な顔で言うのずるすぎます!!二人とも何年も想い合ってたの尊すぎてもう…。夕焼けのシーン、頭撫でるところで完全にやられました。次の話も絶対読みに行きます!!