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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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②桐生百合香
今日は相良さんと芽生ちゃんの結婚披露宴。
雄相会に縁のあるメンバーで唯一〝私だけが堅気〟ということで、二人から招待状が届いた。
本当は、ここにいるみんなを呼びたいんだろうな? と思う。
だけど裏の世界と決別した相良さんに、そんなことは出来ないし、『雄相会』の面々もそれは心得ている。
千崎雄二に、「俺たちの分まで祝ってやってきてくれ」と頼まれた時は、喉元まで出かかった『一人で行けって言うの?』という言葉を寸前のところでグッと飲み込んでにっこり笑顔で「任せて」と言ってしまっていた。
いつもそう。
私は……彼が極道の世界と堅気の世界を天秤に掛けて、堅気の私ではなく、組の息がかかった雪絵さんを結婚相手に選んだ時から、大好きな雄ちゃんに、何一つ本音を言えない女になってしまった。
――本当は雄ちゃんと結婚したい!
そう言いたかったくせに、『日陰の女でいいからそばに居させて?』だなんて都合のいい女を演じて……。
結果的に雄ちゃんの心をいつまでも縛り付けて、雪絵の心を壊す悪女になってしまった。
***
出がけに、『雄相会』のみんなが私に向かって深々と頭を下げてきた。
「百合香さん……俺たちの分まで、二人の門出をしっかり見てきてください」
その言葉に、何だか胸が詰まった。
託されたご祝儀袋は、私一人が参列するには多すぎる額面のお金が入っている。きっと、相良さんと芽生ちゃんには、〝みんなからの〟お祝いだって分かるはず。
本来ならみんなの想いを届けるべきなのは『姐さん』と呼ばれる雪絵さんであって、私じゃない。
でも、雪絵さんは私と違って正式な『雄相会』会長・千崎雄二の妻だから……だから今日はこちらの世界とは決別してしまった相良さんの式には出られないの。
私は半端者の扱いだから……ギリギリグレーゾーンってことで式に参列できる。
お祝いに行けるのは喜ばしいことなのに、皆から託された気持ちに〝貴女は極道じゃないから〟って意味も潜んでいそうで心が痛む。
(私、本当は、どっちの世界に身を置きたいの?)
胸の奥でそう自問自答しながら、私は控えめな青いオケージョンドレスに身を包み、会場へ向かった。
***
雄ちゃんは今日、『葛西組』の組長さんから呼び出しを受けていて私を送っていくことが出来ないって言われた。代わりに佐山くんが会場まで送り迎えをしてくれるみたい。
佐山くんは相良さんがまだ組長さんをしていたころ、芽生ちゃんの運転手をよくしていた若い男の子だ。芽生ちゃんは彼のことを〝ぶんぶん〟と呼んで懐いていたっけ。
一見怖そうに見えるムスッとした雰囲気の子だけど、根は真面目で誠実。でも、私は正直この子が苦手だった。
だって……。
「俺は百合香さんはさっさと千崎さん……あー、えっと……カシラとは決別して、全く別の場所で、新しい恋に生きるべきだと思っています」
会場に着いて車を降りる間際、ボソリと吐き捨てるように告げられた言葉は、彼の本音。
きっと私のことを不憫に思ってくれているの一割、残りの九割は雄ちゃんの奥様――雪絵さんのことを気遣う心から出たセリフだと思う。
私が雄ちゃんのことを好きな気持ちと、雪絵さんへの罪悪感の間で揺れ動いている気持ちに気付いている佐山くんは、私に雄ちゃんの前から姿を消せって言いたいんだろうな。
***
「百合香、今日は新しい店のオープン前で忙しいトコ、わざわざきてもらって悪かったな」
「私しか来られなかったから」
「そうだな」
そんな会話のあと、タキシード姿の相良さんがフッと力を抜いたように笑うから、私は思わず息を呑んだ。
(あの相良さんが……こんな柔らかい表情をするなんて)
かつての『相良組』組長の、どこか張り詰めた雰囲気はそこにはなくて、大企業さかえグループの跡継ぎとして人前に立つ、堂々とした姿があった。
だけど、ひとつだけ変わらないものがあることに、私は気づいてしまった。
芽生ちゃんを見つめる眼差し。あれだけは組長さんをしていた頃の相良さんも、今の相良さんも全然変わっていない。
いや、むしろ……全てを投げ打っても彼女のことを選ぶという覚悟が定まった分、彼の面差しには〝大切な彼女との未来を守り抜く〟という気概が加わって、以前より生き生きしているように見える。
それは、雄ちゃんにはないものだ。
そして、芽生ちゃん。
純白のドレスを纏った彼女の笑顔は、見ているだけで胸が熱くなるほど眩しい。
影に身を置いて本心を押し殺して後ろめたさに塗れながら愛されている私にはない、光の下で真っ直ぐに生きている女性の顔。大好きな男性を誰憚ることなく愛し、その人からも惜しみない愛情を受けている揺るぎない幸せに満ちた笑顔がそこにはあった。
私とは違う芽生ちゃんが羨ましくて、切なくて、どうしようもなく胸が締め付けられてしまう――。
気が付けば目尻から勝手に涙がポロリと落ちてしまっていた。
披露宴の折、芽生ちゃんがふいに私へ視線を向けて、小さく会釈した。
「今日は……ありがとうございます、百合香さん」
その真っ直ぐな瞳に、私は一瞬言葉をなくして……それでも笑顔を作って何とか会話を引き継ぐ。
「……芽生ちゃん、どうか、幸せになってね」
(私の分まで)
胸の奥からぽろりと零れ出そうになる本音を押し殺して、ギュッと芽生ちゃんの手を握った。
その瞬間、何故だろう。目の前の芽生ちゃんが「ぶんぶん」と呼んでいた彼――佐山文至くんの顔が浮かんだ。
私が、芽生ちゃんの手を握ってしまったことを、彼から咎められているような気持ちになってしまったのは、佐山くんの中に雪絵さんを不幸にする私のことをよく思っていない気持ちが多分にあるのを嫌になるぐらい理解しているからだろうな。
私だって同じだ。雪絵さんを不幸にする自分のことが嫌いでたまらないんだもの。
佐山くんは私が連絡すれば、きっと迎えに来ないと思う。いや、もしかしたら私を乗せて、雄ちゃんの手が届かないどこか遠くへ連れて行ってくれるかも。
逃げたところで罪悪感も、後ろめたさも消えはしないけれど……それでもこの先も続いていく雪絵さんの苦しみを取り除くことはできるかもしれない。
芽生ちゃんの幸福を祈りながら、もしも今日、私の手の中へ芽生ちゃんが抱えたあのブーケが落ちてきたら……その時は――。
(雄相会のみんなの想いは、私がここへきたことで、ちゃんと伝えられたと思うから……私の役目は終わったよね?)
日陰に身を置く私も、雄ちゃんから離れたらいつか日の当たる場所で芽生ちゃんみたいに笑うことが出来るかな?
グラスを静かに置いて、私は心の中で小さく吐息を落とした。
全てはブーケ次第。
たくさんライバルはいそうだからきっと……私は今夜も結局、今までと変わらず雄ちゃんの腕の中へ収まるんだろう。
でも、もしかしたら……。
私の視線に気がついた芽生ちゃんが、ブーケをギュッと握り直してにっこり笑った。
END(2025/09/09)
コメント
3件
このシーンをよむと、何も知らないブンブンが百合香さんに余計な事を言ったから「ブンブン、何も知らないのに余計な事を言わないでよ💢」って思ったのよね😔
このシーン、『それぞれの幸せ』で、ゆりかさんが下関へ行く前にあった! こちらではブーケの行方がぼかされていたんだ!と思いつつ。 ゆりかさん、色々としんどいね(涙)
ゆめかだよ🌸第63話読了~! 百合香さんの心中、しんどすぎるよ……😭「私の分まで幸せになってね」の祈りとブーケ次第の決意がもう切なさ爆発。相良さんの柔らかい笑顔、芽生ちゃんの眩しい笑顔…みんなの祝福の裏で一人きりで悩む百合香さんの姿が胸にグッとくる。キャラたちの関係性がちゃんと息づいてるのが凄い✨幸せを願わずにはいられない…!