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ラウラの里帰りから数日後。俺は今まで以上に仕事に邁進した。

あの日、ラウラの過去を知った俺は、抑えがたい怒りに襲われた。

両親を失って一人になってしまったラウラを攫い、ろくな世話もせずに奴隷として売り飛ばした悪人。奴は万死に値する。


……しかし、腹立たしいのはその悪党だけではない。

奴隷商という犯罪者を見逃していた政治にも問題がある。


奴らを厳しく取り締まって撲滅できていたなら、ラウラがあんな目に遭うこともなかった。

村の者が助けてくれるか、孤児院に入るかして、奴隷として売られるなどという悪夢とは無縁だったはずだ。


以前、チェルニー孤児院へ視察に行ったときも、ラウラは子供たちが幸せに暮らしていることに心底安堵していた。


ラウラは心の優しい娘だ。

子供たちが自分と同じような理不尽な目に遭えば、きっと酷く胸を痛めてしまう。

そして、その度に過去の辛い記憶も思い出してしまうだろう。


俺はラウラにそんな思いをしてほしくない。

ラウラの心を守りたい。


そのためには、未だに影で活動しているらしい奴隷商を壊滅させなければ。

さらに悪徳孤児院もすべて暴き出して、運営を正さねばならない。


これは現在の第二王子の身分でも十分実行できることだが、国王になればさらに強力に押し進めることができる。


今の俺は、ただ漫然と兄の上に立ち、この手で国を率いたいと思っていたあの頃とは違う。

必ず為したい確固たる目標がある。


日々の仕事にも、これほど真剣に向き合うのは初めてかもしれない。

さらに知識をつけるために徹夜までして勉強するなんて、以前の俺では考えられなかった。


(──ラウラの存在が、俺を変えてくれたんだ)


彼女のことを思うだけで、みるみるやる気が湧いてくる。


(そろそろ、ラウラの出勤の時間だな)


ちらりと時計に目を向けたところで、ちょうどラウラの愛らしい声が聞こえてきた。


「イザーク王子、デニスさん、おはようございます」

「おはよう、ラウラ」

「ラウラ嬢、おはようございます」


窓から入ってきた風で、ラベンダー色のドレスの裾が揺れる。

今日の装いも可憐なラウラによく似合っていて、とても可愛い。


ついじっと見入ってしまいそうになるのを我慢して、俺はラウラに今日の仕事の連絡を伝える。


「今日からしばらく人の出入りが多くなるかもしれない。ちょうど今、孤児の支援を強化するために諸々調査を進めていてな。騎士に報告を頼んでいるんだ」

「分かりました。孤児の支援ですか……素晴らしい取り組みですね!」


ラウラが嬉しそうに顔を綻ばせる。

その笑顔を見られるだけで、俺は何日でも徹夜できる気がする。


「今日もよろしくお願いします」


ラウラの明るい声に力をもらい、さて俺も仕事を頑張ろうと思ったそのとき。

コンコンと扉をノックする音が聞こえた。


「第三騎士団所属のフリードルと申します。イザーク殿下に報告書を提出しに参りました」

「入れ」


早速、報告書が上がってきたようだ。

俺が入室を許可すると、フリードルと名乗った若い騎士は部屋に入って一礼し、俺に報告書を手渡した。


「ご苦労だった。下がっていいぞ」

「はっ」


フリードルが敬礼して踵を返す。

そのまま部屋を出ようとした彼は、ふと扉のそばにいたラウラのほうに目をやると、なぜか驚いたように「あっ」と声を上げた。


「君はあのときの……!」

「えっ? あ、あなたは……」


フリードルとラウラは、まるでお互い顔見知りのように言葉を交わす。

……一体どういう関係だ?


「お前たちは知り合いなのか?」


俺の問いにフリードルが答える。


「はい、先日僕が運んでいた書類が風で飛ばされてしまったときに、彼女が拾うのを手伝ってくださったんです」

「……ラウラが?」

「ラウラさんと仰るんですね」


ラウラの名前を聞いて、フリードルが嬉しそうに笑う。

……しまった、名前なんて呼ぶのではなかった。


「この間は名前を聞きそびれてしまって……。ラウラさん、僕はコンラート・フリードルといいます」

「あ、ラウラ・カシュナーです」

「ちゃんとお礼をしたくて、ずっとあなたを探していたんです。またお会いできてよかった」

「えっ、私は書類を拾うのをお手伝いしただけですよ。そんなお礼をしていただくほどのことでは……」


ラウラの言う通りだ。

書類を拾う手伝いをしただけで礼だなんて、やりすぎだろう。早く帰れ。


「いえ、急いでいたときで本当に助かりましたから。それに、ラウラさんの優しい言葉にも、なんだか救われたんです」

「え……?」

「今度、改めて会いに来ますね。ではまた」


そう言って、コンラート・フリードルは今度こそ部屋を出て行った。


俺は、奴から受け取った報告書をぐしゃぐしゃに丸めて投げつけたい衝動を懸命に堪える。


(は? またラウラに会いに来るだと? デレデレしやがって、職場を何だと思ってるんだ)


その罵倒が自分にも当てはまることは無視をしつつ、俺は扉のほうを向いたままのラウラに声をかける。


「ラウラ、隣の部屋の片付けを頼めるか?」

「あ……はい、分かりました!」


ラウラが隣室に入って扉を閉めた後、俺は声を潜めてデニスを呼ぶ。


「殿下、どうされましたか?」

「コンラート・フリードルについて調べろ」

「……かしこまりました」

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