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2
ねこ(=^‥^)
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それでも。
悪くない。
そんな気がした。
「よつむー!」
二階からルカの声が響く。
「なんだ」
「変なの見つけた!」
嫌な予感しかしなかった。
案の定。
数秒後には子供達がどたどたと階段を駆け下りてくる。
「見て見て!」
「変な絵!」
「宝かも!」
「それはない」
即答した。
だが。
子供達に引っ張られ二階へ向かう。
しゆらもシエルを抱えたまま付いてきた。
問題の部屋は建物の一番奥だった。
小さな書斎。
机。
本棚。
そして。
壁一面に描かれた大きな紋章。
「……これは」
思わず足が止まる。
しゆらも目を細めた。
「知ってるですか?」
「知ってる」
正確には。
文献で見たことがあった。
人間領の外で活動する魔物組織。
その中でも最大規模と言われている集団。
地下研究所にいた頃は噂程度だった存在。
「夜哭きの森」
俺は小さく呟く。
ルカが首を傾げる。
「なにそれ」
「魔物達の自治領だ」
「自治領?」
「人間に支配されない集落」
部屋が静かになる。
子供達が顔を見合わせる。
そんな場所があるなんて知らなかったのだろう。
しゆらも少し驚いていた。
「本当にあるんですね」
「俺も見たことはない」
文献だけだ。
存在するかもわからない。
その時。
肩で寝ていたシエルが突然顔を上げた。
耳がぴくりと動く。
次の瞬間。
壁の紋章へ向かって小さく鼻を鳴らした。
「……?」
そして。
ゆっくりとその前へ歩いていく。
傷だらけの小さな体で。
壁の前に座り込む。
まるで。
そこを知っているみたいに。
「シエル?」
しゆらが呼ぶ。
だがシエルは答えない。
代わりに。
壁の下を前足で掻いた。
コン。
乾いた音が響く。
空洞。
俺はすぐ近づく。
壁板を外す。
すると。
中から古びた木箱が現れた。
部屋が静まり返る。
子供達がごくりと唾を飲む。
ルカなんか目を輝かせていた。
「宝!?」
「だから違う」
そう言いながら箱を開く。
中に入っていたのは。
金貨でも宝石でもなかった。
一枚の地図。
そして。
一通の手紙だった。
手紙の最後にはこう書かれている。
――もしこの場所を見つけた者が同胞なら。
夜哭きの森へ来い。
我らはまだ滅んでいない。
俺は無言で手紙を見つめた。
しゆらも。
ルカも。
誰も喋らない。
静かな部屋の中で。
初めて。
研究所の外にある世界が。
確かな形を持って現れた。
「……夜哭きの森」
ルカが手紙を覗き込む。
「ここ行くの?」
「わからん」
正直な答えだった。
手紙がいつ書かれたものかもわからない。
今も存在している保証もない。
だが。
他に当てがあるわけでもなかった。
「予紬さん」
しゆらが地図を見つめる。
「少なくとも、ここにいた人達は私達と同じだったんですね」
壁の紋章を見る。
半魔。
魔物。
人間社会から外れた者達。
この家も、元はそういう連中の避難所だったのかもしれない。
「……かもな」
その時だった。
ぐぅぅぅぅぅ……
妙に大きな音が響く。
部屋が静まり返る。
全員の動きが止まった。
そして。
ゆっくり視線が集まる。
「……」
しゆらだった。
顔だけは真顔。
だが耳が少し赤い。
数秒の沈黙。
その後。
「しゆらお姉ちゃん、お腹鳴った」
子供の一人が言った。
「鳴った」
「聞こえた」
「結構大きかった」
次々と追撃が飛んでくる。
しゆらは真顔のまま首を横に振った。
「違います」
「絶対そうじゃん!」
ルカが即座に突っ込む。
「違います」
「いや今のしゆらだろ!」
「違います」
「二回言った!」
子供達が吹き出した。
しゆらの耳がさらに赤くなる。
だが本人は最後まで認めなかった。
「……お腹空いたのか」
俺が聞く。
しゆらは少しだけ視線を逸らした。
それから観念したように小さく頷く。
「……少しだけ」
「さっきと全然違うじゃん!」
ルカが笑う。
子供達もつられて笑い出した。
さっきまで重かった空気が一気に崩れる。
「ご飯!」
「お腹空いた!」
「肉食べたい!」
「魚!」
「パン!」
「それはない」
即答した。
好き勝手言っている。
その時。
ぐぅぅ……
今度は別の音が響く。
全員が振り向く。
ルカだった。
「……」
「……」
「……偶然だから」
誰も信じなかった。
結局。
その日の議題は夜哭きの森ではなく夕飯になった。
「なんか探してくる!」
ルカが飛び出そうとする。
「待て」
首根っこを掴む。
「ぎゃっ」
「お前一人で行くな」
「でもお腹空いた!」
「だからって死ぬな」
その横で。
しゆらは地図を眺めていた。
そして。
小さく首を傾げる。
「予紬さん」
「なんだ」
「この辺」
地図の端を指差す。
川の印。
そして小さな文字。
『狩場』
「……」
俺は少し目を細めた。
この家の近く。
歩いて行ける距離だ。
「行ってみるか」
ルカが飛び上がる。
「ご飯!?」
「まず確認だ」
「ご飯!」
話を聞いていなかった。
結局。
俺、しゆら、ルカの三人で狩場を見に行くことになった。
子供達は家で留守番だ。
「なんでボク達だけ?」
「お前を放置すると勝手に付いてくるからだ」
「否定できない……」
否定しろ。
森の中を進む。
地図通りならそう遠くない。
しばらく歩くと。
小さな開けた場所へ出た。
川が流れている。
草も多い。
獣道もある。
「いるな」
地面を見る。
新しい足跡。
数も多い。
狩場という表記は間違っていなかったらしい。
「食べられそうですか?」
しゆらが聞く。
「お前その聞き方やめろ」
「?」
本気でわかっていなかった。
その時。
ガサッ。
茂みが揺れる。
全員が振り向く。
飛び出してきたのは小型の魔獣だった。
鹿に似ている。
だが額から角が二本生えている。
「いた!」
ルカが叫ぶ。
その瞬間。
魔獣が逃げた。
「……」
「……」
「……あ」
「お前な」
ルカが耳を伏せる。
「ごめん」
完全に逃げられた。
その時だった。
隣のしゆらが静かに前へ出る。
「しゆら?」
返事はない。
ゆっくりしゃがむ。
地面へ触れる。
そして。
何かを見つけたように立ち上がる。
「こっちです」
歩き出す。
迷いがない。
数分後。
再び足跡。
折れた草。
削れた樹皮。
「……」
俺は少し驚いていた。
追跡が異常に上手い。
「わかるのか?」
そう聞くと。
しゆらは首を傾げた。
「普通では?」
「普通じゃない」
ルカも頷く。
普通じゃない。
そして。
数分後。
川辺で水を飲むさっきの魔獣を見つけた。
「いた……」
ルカが感動している。
しゆらは少しだけ得意そうだった。
本当に少しだけ。
「予紬さん」
「ん?」
「褒めてもいいですよ」
「調子乗るな」
「少しだけです」
珍しく自分から言った。
俺は思わず吹き出す。
「ちゃんと役に立ってる」
その言葉に。
しゆらは一瞬固まった。
それから。
耳が少し赤くなる。
「……そうですか」
嬉しそうだった。
その瞬間。
肩の上で寝ていたシエルが目を開く。
そして。
魔獣を見るなり。
ぺろりと舌なめずりした。
コメント
1件
ああ、読んだよ。今回のエピソード、すごく良かった。特に「夜哭きの森」の紋章が出てきた瞬間、一気に世界観が広がった感じがしてぞくぞくした。シエルがまるで知ってるみたいに壁の前で鼻を鳴らす場面、切なくて胸にきたな…あの子にもきっと過去があるんだろうね。 それから狩りの場面でしゆらが「普通では?」って首傾げるところ、すごく好き。本人にとっては当然のことなのに、周りから見ると異常に有能で、でもちょっと得意げになる姿にほっこりした。最後のシエルの舌なめずり、次が気になる!