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ロビーの空気は、少し乾いていた。
ひろは、支給ブキの確認をしながら、恒の足音に気づいた。
振り返ると、そこに恒がいた。
……恒。
一瞬、呼吸が止まった気がした。
でも、顔には出さなかった。
前より背が伸びてる。
動きも、しっかりしてる。
声のトーンも、少しだけ落ち着いてる。
恒が近づいてくる。
ひろは、自然に視線を合わせた。
「……久しぶり。」
それだけ言うのが、精一杯だった。
本当は、もっといろいろ言いたかった。
“会えてよかった”とか、“来てくれてありがとう”とか。
でも、言ったら全部ばれる気がした。
僕が、あの夜からずっと恒を待ってたこと。
恒がいないと、何も意味がなかったこと。
だから、言わなかった。
ただ、いつも通りにふるまった。
髪が短くなってることも、
声が少し低くなってることも、
右耳が聞こえづらいことも、
全部、気づかれないように。
恒は、何も言わなかった。
でも、目だけは、昔と同じだった。
あの目を見て、少しだけ安心した。
恒は、変わった。
でも、恒は恒だった。
それだけで、
今日という日が、少しだけ救われた気がした。