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◻︎桃子発見!
実家に帰り、納戸に押し込められた雑多なものを引っ張り出してあるモノを探す。
___確かここにあったはず
父が亡くなってしばらくしてから、不要品をまとめていたときに捨てるのを忘れていたもの。お菓子の空き缶に、チョコレート菓子の当たり券や、珍しい切手、古い証明写真などごちゃごちゃしたものがある中に、ソレはあった。輪ゴムで留められたその束をそっと持ち出し、バッグにしまっておく。
ぴこん🎶
誰からかのLINEが届いたようだ。
《愛美先輩、お久しぶりです!お元気でしたか?》
元の職場の後輩、野崎百合に連絡を入れていたことを思い出した。私より四つ下で、結婚はしたけど今もバリバリで働いているらしい仲良しの後輩。
〈いきなりごめんね。部屋の片付けをしてたら、みんなの写真が出てきて、懐かしくなってLINEしてみたの〉
ホントは別の理由だけど。
《連絡、うれしかったですよ。この前、課長に愛妻弁当作ったでしょ?課長、うれしそうに食べてましたよ》
〈あ、あれね!子どものお弁当のついでだったんだけど〉
《いいんですよ、照れなくても。ホント仲良しなんですね》
どうやら職場ではまだ、離婚の気配は出していないようだ。
〈また、遊びにきて。職場の子も連れてきていいから〉
以前からたまに、職場の人たちがうちに集まってバーベキューしたりすることがあった。こんな時は、夫と同じ職場だったことがメリットになる。
《わかりました。今度は新しい子を連れて行きますね!課長に憧れてるって子もいいですか?》
〈うちの人に憧れるなんて信じられないんだけど〉
《課長モテますからね。でも先輩と仲良し夫婦なので心配ないですよ!課長から名前聞いてませんか?斉藤桃子っていうんですよ》
___ビンゴ!!
予想していた通りで、思わずガッツポーズが出る。
〈ごめんね、うちの人、職場のこと何も話してくれないから聞いたことないの。でも、そんな話も聞きたいから、是非また遊びに来てね〉
《はい、ありがとうございます♪》
___やっぱり、職場の女だった
交友関係が広くはない和樹のことだから、そんなことだろうと思ったけど。
___……にしても、範囲狭すぎだわ
我が夫ながら呆れた。私との離婚のあと、どんな顔して桃子と一緒になるつもりなんだろう。周りの目というやつは、何も考えていないのだろうか?それほどまでに桃子にご執心ということか。
若い女相手に、鼻の下を伸ばしてると思うと気持ち悪い。想像したら精神的によくないと奈緒が言っていたことがよくわかった。
百合とのLINEのあと、すぐに奈緒に連絡を入れる。
〈見つけた!同じ職場の女だった〉
《わかった。じゃあこっちもそろそろ動くね》
〈よろしく!〉
秘密のミッションをクリアすべく動き出す奈緒。エージェントにでもなった気分だ。奈緒はきっと、私が望む以上にやってくれる気がしている。
私はここで少し、夫にメッセージを送ることにする。“勢いで家を出てきたけど、やっぱりもう一度考え直したい”と伝える。あくまでも私は離婚したくないという立場を見せておくために。
〈今後のことについて、ゆっくり話したいんだけど。子どもたちもあなたに会いたがってるし〉
《今後?愛美はどうしたいんだ?》
私がどうしたいかを訊いても、どうせ離婚するつもりなんだろうと思いながらも、一応考えておいた返事をする。それは心とは裏腹だけど。
〈私は子どもたちのためにもやり直したい。だから、もう一度会ってちゃんと話したい〉
なんて返事をしようか考えているのだろうか。そこでやり取りが止まった。
しばらくして返事があった。
《僕はもう疲れた。すまない、1人にしてくれ》
___そうきたか
あくまでも桃子との関係は出さずに、性格の不一致を理由に離婚をしたいのだろう。それは何のためにだろうかと考える。
私が桃子に慰謝料を求めることを避けるため?桃子を守るため?
「はっ!馬っ鹿みたい」
思わず声に出る。まだ素直に“好きな女ができました、別れてください”って言われたほうがこっちはスッキリするんだけど。夫は自分の保身とプライドのために、そこは最後まで認めないつもりだろう。そう考えると更に腹が立つ。
「おぼえてろ!まとめて捨ててやるから」
娘には使わないように注意する罵詈雑言を言ってしまう。
そんな本心を隠しつつ返事を打つ。
〈どうしてもダメなの?私はまだ納得していないのに。でも、一度きちんと話したい。娘たちのためにも〉
《わかってる。娘たちにはできるだけのことをする》
___はぁ?だから私には?
こらえろ、私。ここで爆発なんかしてやらないんだから。落ち着くために深く息を吸った。そして返事を打つ。
〈子どもたちのために、精一杯の父親としての義務を果たしてくださいね〉
《わかっている》
ギリギリと歯軋りをしたい気持ちを抑えて、話し合うために会う約束をする。
___別にもう会いたくもないんだけど
腹が立った勢いのままに、不動産屋へ足を運ぶ。家の査定をしてもらうためだ。まだ20年ほどのローンがあるけど、売った方が得かどうかを確認しておくために。
その後は、ハローワークに行って私でも働けるところを探してもらう。たいした特技もなくこの年齢では、できる仕事は限られているけれど、自立するためなら文句は言わない。
娘たちのため、いや、自分のためだと思うと気合いが入った。