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そのとき私はすぐにでも結月にどういうことなのか聞けば良かったのかもしれないけど、きっと結月は話す気が無かっただろう。
あのときは顔を合わせることが出来なくて聞けなかったけど、すぐに聞いていればそれこそ状況は変わっていたのかもしれない。
何にしても、結月は私の為に怪我をしてまで先輩に何かを約束したようで、私はその後先輩と関わることは無かった。
その代わり、あの夜から結月は変わった。
両親がいるときは、比較的いつも通り。
二人の前では普通に、仲の良い義理の姉弟。
学校でもそう。
至って普通な関係。
変わったのは二人きりになったとき。
結月に無理矢理犯されたあの夜から暫く経った深夜、両親が寝静まった頃に結月は私の部屋を訪れた。
驚いたけど声を上げることは出来なくて、状況判断をしようとしている私のことを押し倒すと、手で口を塞いでこう言った。
「――これからは俺が抱きたいときにお前を抱く」と。
それには一瞬耳を疑った。
良いわけがあるはず無い。
だけど、私は拒否することが出来なかった。
それがいけなかった。
「いいよな? もう初めてじゃねぇんだし。それにお前だって、本当は期待してんだろ? 今こうして押し倒されてんのに抵抗しないんだから」
「……っ」
別に期待しているから抵抗しなかった訳じゃない。
本当は嫌がりたかったけど、出来なかった。
先輩とのことを知ったあの日から、
結月は何故私の為にそんなことをしたのかが気になっていたことと、
こんなことをするのは気まぐれでも嫌がらせでもなくて、
何か理由があるからなんじゃないかと、思いたかったから。
「それとも、反論ある?」
結月が口を覆っていた手を離してくれたので、私は「……ないよ」と一言だけ口にする。
それには結月も驚いていた。
きっと、私がハッキリ「嫌」と言って断るとでも思ったのかもしれない。
「随分余裕なんだな? やっぱ期待してんじゃん」
「……だって、嫌だって言っても、聞いてはくれないんでしょ? また強引にするんでしょ?」
「…………」
「だから、私に拒否権なんてないじゃない」
「あっそ。それじゃあ俺は好きにさせてもらう。嫌だって泣いても絶対止めてやらねぇよ?」
「……分かった。だけど、約束して欲しいことがあるの」
「何だよ?」
「お母さんたちには絶対、バレないようにして。それと、こんなことをするのは、私が高校を卒業するまで」
「親にバレないのは分かるけど、何でお前が期限を決めんだよ?」
「だって、ずっとって訳にはいかないでしょ? それに私、高校卒業したら家を出るつもりでいるから、必然的に終わりになる。だから、言っただけ」
「……あっそ。まあいいや。お前が卒業するまではまだ一年以上ある。その間存分に楽しませてもらうから、覚悟しとけよ――姉貴」
「……っ」
興醒めしたのか、その日は私の身体を求めてくることは無かった。
何故私はあのときあんなことを言ったのだろう。
きっと断ることは出来たし、
結月だって本当は、
私が拒否すると思っていたのかもしれない。
だけど、私は受け入れた。
どうかしていると思う。
でもね、
あの日、
私の為に先輩と喧嘩をしたって知ったあの日から、
私は心の片隅には、結月がいた。
だからこそ、
拒否出来なかったのかもしれない。