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展開早すぎて草
それから私は兄と一緒に招待客に挨拶し、バルコニーに逃げた。
どうしてもこんな大勢のパーティーは苦手なのである。
私は手すりに軽く手を置き、夜空を眺めた。
私のちょうど目の前に、三日月が浮かんでいる。
それは淡い黄金色を放っていた。
その周りに散らばる星屑は、まるでひとつひとつが光のように、きらきらと輝いている。
きれいだ。とても。ため息をつきたくなるほど美しい。
その時だった。
「リリアーナ」
後ろから、耳に馴染みのある低い美声がした。
ゆっくり振り返ると、やはり彼だった。
私は彼に微笑む。
「ルウィルク様」
彼は微笑み、私の方に歩み寄ってきた。
今日も今日とて彼はかっこいい。今日は深海色の上質そうなジャケットとズボン、私がプレゼントしたあのクロスタイを留めている。つまりは、私と同じ色にまとめているのだ。
彼は私の隣に来ると、口を開く。
「全く……、何でそんなにかわいいんだ」
どこか拗ねたように、怒ったように彼は言った。
その言葉に、私はすっかり顔を赤くさせてしまう。
「……え?」
彼は言葉を続けた。
「そんなかわいかったら、他の男に取られるかもしれないだろ。あと、俺以外に気安く笑顔を向けるな」
彼は、はああぁぁぁぁぁぁぁ、とそれはそれは大きなため息をつきながら、私を抱きしめる。
「お前のかわいさなんて、俺だけが知っていれば十分だ」
彼は、私の肩に顔をうずめた。
……顔が熱い。湯気がたちそうだ。
彼の珍しい行動に私は戸惑ってしまう。
……だめだ。これ以上は私が持たない。
私は彼の身体を引き離し、彼の両手を握った。
「ルッ、ルウィルク様。踊りませんか?」
心臓が未だに鳴り止まない。
私の突然の誘いに、彼は目を見開く。
そして、おかしそうに少し笑った。
「ル、ルウィルク様……?」
くつくつと笑う彼に、ときめいている自分がいる。
すると、笑いが収まったらしい彼は口を開いた。
「普通逆だろ」
普通逆……?どういうことだろう。
と、彼は私に手を差し伸べる。
「俺と踊ってくれ」
ああ、そういうことか、と遅すぎる理解をした。
私は彼に心からの笑みを浮かべ、差し伸べられた手に、自分の手を重ねる。
「喜んで」
私のその声を合図に、私たちはワルツを踊り出した。
と、踊っている最中、気づいたことがあった。
……どういうことだ。彼のリードが、去年よりも上手になっているんだが。
去年だけであんなに上手かったのに。
すると、私の少しの不機嫌に気づいたらしい彼が口を開く。
「どうかしたか?」
「いえ……、何も」
私は俯いたまま言葉を返した。
と、踊り終わる。
私が彼から離れ、バルコニーの手すりに掴まろうとすると彼に引き寄せられた。
驚いて目を見開く私の唇に、彼は口づける。
「…んっ……」
ああまただ。逃げられない口づけ。
私は抗えないまま彼に口づけられた。
何度も角度を変えられ、ついばむように、長い口づけ。
しばらく耐えていたが、さすがに息が苦しくなり、私は彼の胸を叩く。
当然のごとく彼はびくともせず、むしろ私の後頭部と腰を押さえる手を強めた。
「……んー…んんっ……んっ……」
だから、本当にもう息が続かないんですってば!と訴えたい。
と、やっと唇が離された。
「ぷはっ…はぁっ…はぁっ……」
彼は前に倒れてしまう私の身体を受け止め、そのままぎゅっと抱きしめる。
息を整えた私は、頬を膨らませ彼から顔を背けた。
「……もう。誰かに見られていたらどうするのですか」
すると彼は目を見張り、かと思うと少し怒ったような顔をする。
「お前が、踊っている時に俺のことを一度も見ないからだろ」
彼の言葉に私は、確かに、と納得してしまった。
「……それはごめんなさい」
と、私は顔を上げる。
すぐそこには、彼の白皙の美貌があった。
そして驚く。
彼は、いつにもまして真剣な顔をしていたのだ。
彼は私の身体を離す。
「ルウィルク様?」
首を傾げる私に、彼は手を差し出した。
と、彼の手から紅色の薔薇の花束が生まれる。
「まあ」
私は目を見開いた。
「十六歳の誕生日おめでとう。受け取ってくれ」
私は反射的にそれを受け取り、彼に微笑む。
「ありがとうございます」
嬉しい。嬉しくて嬉しくて仕方ない。
すると彼は、覚悟を決めたように口を開いた。
「リリアーナ。俺と結婚してくれ」
彼のその言葉が、一瞬理解できなかった。
けっ……こん…?
その言葉を理解した途端、私の目から雫がぽたぽたと零れ落ちる。
「っ!リリアーナ…?」
彼は目を見開き、私の手を包み込んだ。
「ご…、ごめんなさい……」
私は涙を拭いながら、必死に口を開く。
「……よ……よろしく…、おねが…い……します……」
私のその言葉に、彼は驚いたように目を見開いた。
そして私の身体を痛いくらいに抱きしめる。
「ありがとう……」
その温かい存在を、私は抱きしめ返した。