テラーノベル
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夏が俺を朦朧とさせるから
📢「あぢー、」
そう言って赤シートをぱたぱたと上下させ、その微かな風に靡く紫から白にかけた襟足。
汗ばんだ首元で白く輝く水滴はゆっくりと細いその筋を辿って、白いシャツに沈んでゆく。
📢「…あにみてんだよ、」
あまりにも見つめすぎたのだろうか。
不満そうな表情のまま、ずいっと顔をコチラに近づけて、その宝石のような黄金色の三白眼で見つめてくる。
🌸「…いや、ぼーっとしてたわ」
📢「あっそ、ぉ…」
欠伸をしながら返事をする姿が愛おしい。
目の端に残る涙の跡が綺麗で、そのあと俺から外された視線の先まで輝いて見える。
🌸「…アイス食いたくね」
暑さからだろうか。
返事はお互いいつもよりワンテンポ遅れていて、でも、それが心地よくて。
📢「…あり、」
🌸「…あぢぃ、」
ミンミンと煩い蝉の鳴き声と、ジリジリと丸出しの首元やら腕やらを蝕むような紫外線。
白くて華奢な君の腕は真っ赤になっていた。
📢「だーら言ったろ暑いって…」
🌸「言ってなかったろ、」
特段意味のある会話なんてできなくて、
でもそれも楽しかった。君となら。
📢「やばいえぐ涼しい、」
🌸「ならとっとと入れ、お前だけ涼しむな」
コンビニの玄関口で立ち止まる君。
側から見たらなんて邪魔で迷惑な奴なんだろう。としか思わないんだろうけど、誰も彼を見ることなく、俺を見つめる。涼しさに感動して目をキラキラさせる君の可愛さを見て、全員何も言えなくなっているんだろうか。なんて馬鹿らしいことを考えてた。
📢「…」
無言で俺の持っているカゴに自分が食べたいんであろう甘いものを次々に入れていく君。
あらかた入れ終わってから、アイスコーナーに行き、これも。と言わんばかりに箱アイスを手に取る君。
🌸「馬鹿かw」
そんなやりとりが愛おしかった。
📢「ごちそーさんでーすw」
🌸「利息付きな」
📢「何ぱー?」
🌸「1日につき10ぱー、」
📢「ヤクザかよw、友達免除は?」
🌸「ないっす笑」
友達免除は。
📢「あ゛〜、でたくない」
🌸「多分お前より俺の方が出たくない」
📢「あ?俺の方が出たくねえに決まってんだろ」
🌸「いーからでろってw、」
📢「うわ蝉うるさ」
🌸「うわがちやんけ、」
📢「お前くらいうるせえな」
🌸「いやこないだの夜n」
📢「あ゛?」
🌸「…っす、ー」
📢「わかりゃいいんだよわかりゃ、」
🌸「…っふ、」
📢「何笑ってんだよ、」
そう言って軽く頬を膨らませる。
もう少しかわいい態度で振る舞えないのか。なんて悪態をつくこともあったけど、君のそういうところがたまらなく愛おしくて。
学校の近くの公園に来て、木陰で涼んで。
夏休みらしい雰囲気に包まれた中に何人ものガキが鬼ごっこやらかくれんぼやら楽しそうにしている中、そこそこ柄の悪い見た目の高校生フタリ。明らかに異物。非日常感。
📢「…あいすうんめえー、」
🌸「な、がちでうまい」
📢「…、なあ、らん」
🌸「…どした?」
珍しく真剣な表情。
溶けかけのチョコチップが今にも滴る瞬間。
📢「…も、俺のこと忘れてもいーぜ」
🌸「…は、?」
📢「…愛してたよ」
そう言ってから今まで見たことないくらいふんわりと笑った君を見て、知らない、いや、知りたくない、認めたくない、認められない、そんなことを思い出してしまいそうだった。
あの夏。正確に言えば昨年の夏。
8月12日の真夏日。
補修が長引いた俺を待っていた君が、
熱中症のまま運転していた軽トラックに轢かれた。意識不明の重体。
握られたスマートフォンの画面は、俺へ送ろうとしてたのであろうメッセージ。
「すきだからはよこい」
そのまえのトークはくだんねえ俺からのお願いごとで。
🌸「…馬鹿なんじゃねえの、まじで」
あの日、俺が補修じゃなかったら、
もっと急いで君の元に行っていたら、
こんなくだんねえLINEなんかしなかったら、
どこかでこんな話を聞いたことがある。
御神籤を引くとき、どこから運は働いているのだろうか。
ここのおみくじを引くと決めた瞬間?
おみくじに手を突っ込む瞬間?
これだと決める瞬間?
開封する瞬間?
でもそのどの瞬間にも、そうなるための理由がある。ここのおみくじは大吉が出やすいからここのをひこう!これなんとなくザラザラしてるしこれにしよう!とかね。
なんていうふうに、全ての事象は決定された必然的なものなのだとしたら。
なぜいるまなんだろう。
なんでだろう。
なんで。
必然的な終わりのくせに俺にとっては偶発的であまりにも破滅的な事象で、
🌸「…らしくない、」
俺もお前も。お前は、俺がいなくても大丈夫だと思ってた。俺が傷ついてても、特になんも思わないんだと思ってた。そういうとこも好きだった。でも、違った。めそめそしてる俺の前に、化けて出て、らしくないこと伝えて、「愛してた」なんて。
「おにーちゃん、」
🌸「…ん、?」
「あいす、溶けてるよ?」
🌸「…ああ、いいんだ。」
「どうして?」
🌸「…アイスだって、誰にも食べられたくないときがあるだろう?」
「…そうなの?」
🌸「うん、」
「じゃあ、おにいちゃんさっきから1人でにこにこして、何話してたの?」
🌸「…さあ、夏の暑さにやられてたのかもしれない」
ミンミンと鳴り止まない蝉の声と、ジリジリと俺の身体を蝕む紫外線、俺を包む夏らしい雰囲気と、滴る水滴。
事故というには、あまりに残酷で
恋というには、あまりに大きすぎて
愛してたなんて地獄のような耳心地。
それでもいいから、
🌸「もういっかい、化けて出て、」
らしくない。俺はずっと。
夏の暑さが良くないんだ。
俺を、いつも朦朧とさせるから
コメント
37件
桃紫だぁ!!!!夏っぽい感じで最初あたりとかもう絡みが尊すぎて…でも途中から切ない系に大どんでん返しされて…(? まじで先がよめなくて読んでてめちゃめちゃ面白いすぎます💕
ほんとに桃紫大好きなんです嬉しいです😭♡ なんか表現ぜんぶが儚くて感情移入すごかった、、 友達免除は。ってことは恋人免除はしてくれるみたいで最高です🫶🏻🫶🏻✴︎
最初の会話が尊すぎて、ハピエンだと思ったら、最後めっちゃ切なくて、目飛び出しそうになりました👀🙄 この物語の紫さんの口調めためたに好きです😭🙌🏻🩷なんかだるそうな感じというか🫶🏻 「誰も彼を見ることなく、俺を見つめる」ってそういう事ですか胡桃さん😭😭💞 握られたスマホの画面が、桃さんへ送ろうとしてたメッセージ画面なのほんとに切なすぎますよ😭♡ 投稿お疲れ様ですᐡっ ̫ ᴗ ̳ᐡ