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コメント
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読ませていただきました。日々の暮らしの中にある、ささやかな言葉や仕草、沈黙さえも愛おしそうに書き留める彼の視点がとても心地よかったです。特に窓辺の彼女を「花に似ている」と表現するあたり、その距離感と見つめ方に作者様の繊細さを感じました。最後の桜の下の願いには切なくも温かい気持ちになりました。続きが気になります🌷
四月七日 水曜日
︎︎
今朝、珍しく彼女は早くに起きて来た。いつも平日の朝は、大抵僕が朝食を作っている頃にようやく目を覚ますのだが、最近は花粉症が悪化しているせいらしい。うざったそうに顔を顰めながら目を擦る彼女が可哀想で、仕事の帰りに市販薬を買ってくるよ、と伝えた。
︎︎ 朝食も、今日は彼女が作ってくれた。メニューは普段の僕のものとあまり変わらない。でも、彼女の目玉焼きは僕のよりも固焼きで、少し塩っぱい。僕は彼女と出会った頃から、あの朝一番に目を覚ましてくれるような目玉焼きを口にすると、自然と頬が緩んでしまう。朝に弱い彼女の朝食は、こうしてたまにしかお目にかかれないせいかもしれない。
︎︎ 夕方、仕事を終えて帰って来ると、玄関まで芳しい香りが漂って来て、彼女が夕食を作ってくれていると分かった。エプロンを着けてキッチンに立つ彼女の背中に「ただいま」と声をかけると、油の弾ける音の中で少し声を張って「おかえり」と返してくれる。そこで僕が「何を作っているの?」というふうに尋ねると、決まって彼女は「なんだと思う?」と聞き返してくるのだ。今日僕は「野菜炒め」と答えた。彼女は振り返って、悪戯っぽい笑顔で「ざんねん。生姜焼きだよ」と言った。今晩は外してしまったが、そんなことよりも僕は、彼女のあの勝ち誇った笑顔が嬉しかった。彼女が夕食を担ってくれた日にだけ挑戦できるこの小さなクイズ大会が、僕はいつも楽しみで仕方がない。
四月十八日 日曜日
︎︎ 今日の彼女は、ずっと窓のそばにいた。僕が目を覚ました時には、すでに窓辺のロッキングチェアに腰掛けて、静かに外の雨模様を眺めていた。時折雨の日に、そうしてひとり物思いに耽る彼女の横顔は、どこか花に似ていると度々感じる。その瞳や肌に雨の色が映っているのが、まるで彼女自身が雨に紛れた一輪の花のようで、その姿が視界に入る度に、僕はしばらくの間見つめていないと気が済まない程だ。
︎︎ 僕は今日、溜め込んでいた本を読んで一日を過ごした。彼女は彼女で変わらず雨を眺めている。こうした日には、彼女の声は聞くことができないけれど、それでも僕にとっては全く退屈ではない。例えば、読書の合間にふと彼女の横顔を見ると、格好は変わっていなくても、仕草のひとつが違っているのだ。目を伏せていたり、頬杖をついていたり、ほんの少しだけ口角が上がっていたり。そういう彼女のいくつもの表情を見ていられる限り、僕の人生に飽きというものは来ないのだろう。
︎︎ 夜、彼女に「ホットミルクを淹れようか」と尋ねると、彼女は頷いてくれた。このやり取りが習慣になったのはいつからだったか。こういった日の彼女は決まって一口も食事を摂ろうとしないので流石に見るに忍びないものだったけれど、どうやら僕の作るホットミルクだけは彼女のあの心に受け入れられるらしいと知った時は、ひどく安堵したものだ。僕は、冷えた窓辺にいる彼女のためにミルクを温めるあの時間が、その日の中で最もうれしい。
︎︎ それから夜が更け、カップが空になっても彼女はやはりあそこから離れられなかったので、零時頃に僕が「もう寝ようか」と声をかけた。今日も、いつも通りの一日だった。
四月二十九日 木曜日
︎︎ 今日は、昼前に起きてきた彼女が「久しぶりに外へ出かけたい」と言うので、二人で桜を見に行くことにした。大きな桜並木がある少し遠くの公園へ行こうと提案すると、彼女は張り切って二人分の弁当を作ってくれた。
︎︎ それから電車に乗り、昼過ぎに公園に着くと、桜はまだ散りきらずに綺麗に咲いており、はしゃぐ彼女と手を繋いで並木道をゆっくりと歩いた。風が吹く度、桜の枝が揺れる音が騒めいたり花びらが舞い散ったりするのを、彼女はあちこち指さしながら楽しそうに僕に教えてくれた。僕はその姿を見られただけで、一緒にここへ来てよかったと心から思えた。
︎︎ それから並木道を抜けた先には、桜の木々に囲まれた広い緑地があったので、そこのベンチに座って二人で弁当を食べた。そのときに、彼女は僕にこんな話を聞かせてくれた。
︎︎ 桜の木の下には、死体が埋まっている。木はその養分を吸い上げて、あのような綺麗な花を咲かせている。そして、その桜の美しさのあまり、人は皆魅せられ、盲目になるほど夢中になり、最後には孤独になってしまう。昔の人は、この満開の桜を見てそんなふうに考えていたのだ、と。僕は彼女の語ったそのストーリーに、最近読んだ二つの桜の小説が思い当たった。彼女はきっとそれらを混同したのだろうけれど、それでも、偶然に新しく生まれたその話を、彼女だけの作品だということにしておきたくて、僕は何も言わずに聞いていた。
︎︎ その後家に帰ると、彼女は疲れてすぐに寝てしまった。それから夜に、僕は彼女の眠るベッドの縁に腰掛けて、そのあどけない寝顔を見ているうちに、ふいに昼間の彼女の話を思い出していた。そして、こんなにも、あの桜だって及ばないほどの彼女が、ただこうして彼女のままでいてくれるのなら、僕は喜んでその下の死体にでも養分にでもなるから、これからも彼女に夢中でいさせてほしい、などと、馬鹿みたいだが本気でそう願ってしまった。
#教科擬人化
あーもんどなっつ
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⟡¦れあ¦⟡ ⇝ 不定期
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#オリジナルストーリー