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それは告白としてはあまりにも静かだった。
放課後
誰もいない音楽準備室。窓から差す光が、埃を浮かび上がらせている。
二人は向かい合って立っていた。
沈黙。
先に口を開いたのは雲雀だった。
「……奏斗」
呼ぶだけで胸の奥がわずかに温かくなる。その感覚がいつからあったのかはもう思い出せない。
「……俺」
雲雀は、言葉を選ぶように一度目を伏せた。
「たぶん、奏斗のこと……好き」
淡々とした声。揺れも、照れもない。
それが、余計に重かった。奏斗は息を止めた。
『……たぶん?』
冗談めかして返そうとして失敗する。
雲雀は小さく首を振る。
「……“好きやった”が、正しいんかも」
過去形。奏斗の胸がぎゅっと縮む。
『……どういう意味だよ』
雲雀は自分の胸に手を当てる。
「……前は」 少し間を置いて。
「奏斗の声したら世界が……ちゃんと、ここにあった」
『……今は?』
奏斗が聞く。雲雀は、正直に答えた。
「……音としては、聞こえてる」
一拍。
「でも、前みたいに “触られへん” 」
奏斗は理解してしまう。声を減らした。
距離を取った。依存を断ち切ろうとした。
その結果――
雲雀の “好き” が音片として保存されてしまった。動かない。更新されない。過去の感情。
『……それ、僕のせいだ』
奏斗が呟く。
「……たぶん」
雲雀は否定しない。
沈黙。
雲雀がぽつりと言う。
「……やけど」
視線を上げる。
「奏斗の声が嫌いになったわけじゃない」
『なのに?』
「……やのに、今の俺は」
言葉が途切れる。続けると壊れる気がした。
奏斗は一歩近づく。
『……ねえ』
声を少しだけ大きくする。
『僕の声、聞いてる?』
「うん」 雲雀は、はっきり頷いた。
『じゃあさ』 奏斗は苦笑する。
『それでいいんじゃない?、笑』
雲雀の眉が僅かに動く。
「……よくない」
初めて、はっきり否定した。
「……前は」
雲雀は目を伏せたまま続ける。
「奏斗の声で、俺は……怖いって、思えた」
奏斗は息を呑む。
「それって」
「……生きてる感覚やったんやと思う」
静かな声。
「今は……それが、よく分からん」
奏斗の中で何かが決定的に崩れた。守るつもりだった。距離を取れば、雲雀は楽になると。
でも――
奪っていたのは、“感じる力”のほうだった。
『……ごめん』
奏斗が言う。雲雀は首を振る。
「……謝られたら、困る」
『……なんで』
「……俺、奏斗を責めたいわけじゃない」
それが、一番残酷だった。
その夜
雲雀は、布団の中で考える。
「(……好きやった)」
過去形。それが、一番しっくりくる。
悲しくない。ただ、静か。
奏斗は自室で声を出す。
『雲雀』
何度も。録音もせず、誰にも届かせず。
喉が痛くなるまで。
『……なんで残す方向間違えたんだよ』