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ネリスは昔から、美しい見た目をしていた。儚げな顔立ちに、透き通るような瞳。どこか異国の雰囲気を持ち、静かに微笑む姿はまるで絵画の中の少年のようだった。
だからこそ、彼に向けられる目はいつも特別だった。
「ネリスくんって、なんかカッコいいよね!」
「頭良さそう!」
「運動もできそう!」
初対面の人たちは、口をそろえてそんなことを言った。ネリスは嬉しかった。期待されることが誇らしかった。けれど、それがすぐに苦しみに変わることを、彼は何度も経験していた。
「あれ? なんか思ってたのと違う…」
小学生の頃、クラスでリレーの選手に選ばれたことがある。足が速そうだから、と先生に推薦されたのだ。ネリスは緊張しながらも、期待に応えようと全力で走った。
結果――派手に転んだ。
膝をすりむき、砂まみれになったネリスを見て、周囲の反応は一変した。
「……あれ? ネリスって、そんなに運動神経よくないの?」
「速そうな見た目してるのにね。」
そう言われてから、次第に彼に寄ってくる人は減っていった。
同じことは勉強でも起こった。テストで名前を漢字で書くのを忘れたり、答えが全部ひらがなだったりしたせいで、先生に苦笑されることが増えた。
「ネリスくんって、なんかもっと賢いのかと思ってた。」
「勉強できる感じするのに、意外とポンコツなんだね。」
その「意外とポンコツ」という言葉が、ネリスの心にじわじわと染み込んでいった。
期待されて、失望される。
近づいてきた人が、少しずつ距離を取っていく。
そんなことが繰り返されるうちに、ネリスは「期待されること」が怖くなった。
「頑張らなきゃ。期待に応えなきゃ。」
「ネリスくんって、なんか特別な感じする!」
そう言われるたびに、ネリスは必死に期待に応えようとした。
運動が苦手でも、苦手じゃないフリをした。
勉強が分からなくても、分かっているフリをした。
ドジをしても、「わざとだよ」と笑ってごまかした。
だけど、無理をすればするほどボロが出て、また周りの人は離れていった。
「ネリスって…ちょっと鈍臭いよね。」
「最初はすごいと思ったのに、なんか期待外れだったな。」
その言葉を聞くたびに、ネリスの心はすり減っていった。
本当の自分を見せたら、誰もいなくなってしまう。
だから、もっと頑張らなきゃ。期待に応えなきゃ。
そう思い続けることしか、ネリスにはできなかった。
そして、今。
高校に入ったネリスは、相変わらずポンコツだった。ドジを踏むことは日常茶飯事だし、期待に応えようとすればするほど空回りしてしまう。
だけど、彼のそばには鈴がいた。
「ネリス、また財布忘れたの?」
「……うん。」
「もう! しょうがないわね。でもさ、そんなに気にしなくていいんだよ?」
鈴は、ネリスに期待しすぎることもなく、失望することもなかった。ただ、いつも通りの彼を見て、笑ってくれる存在だった。
「……俺、昔から期待されるの苦手なんだよね。」
「そうなんだ。私の横では、いつも通りでいていいよ。」
鈴の言葉に、ネリスは初めて少しだけ肩の力を抜くことができた気がした。
期待に応えられなくても、誰かがそばにいてくれる。
それだけで、ほんの少しだけ救われた気がした。
その後鈴といつも通り過ごしているうちにそのままの自分でも仲良くなってくれる人が増えたのだ。
「鈴ちゃんと付き合えなくてもいい。友人のままでもいいんだ。鈴ちゃんといれるならなんでもいいや。」