最近暇さえあれば俺が犬のとこに通うもんだからどうも若井が不貞腐れている
ある日
「今日は俺も行く!から!」
って鼻息を荒くし突然そう言ってきた
きっと俺があんまりにも若井を相手にしなかったからだろう
別に俺はいいけど…
若井は感情を表面に出すもんだからわかりやすい
犬相手にジェラっている
施設に着くと俺は職員さんに挨拶し
いつものように室内に入り犬のとこに行く
「おはよ」
俺はそう言って既にゲージから出してもらっている犬に寄りそいいつもの様にわしゃわしゃと顔をかいてやる
犬は嬉しそうに目を細めるが若井が近づいて来ると途端に固まり若井をガン見した
「あー、この子人見知りだからさ…」
「へえ…」
若井は座り込み目線を合わせ犬をじっと見る
「初めまして…」
って若井が言う
犬は若井と目を合わせ離さない
そんな若井もずっと目を合わせてる
なんだろう…二人は通じあってんのか
若井はそっと犬の鼻先に右手を出し匂いを嗅がせる
犬はくんくん、と鼻を動かし匂うと急に牙を剥きその手を噛んできた
「え…っ!」
見ていた俺も噛まれた若井も傍にいた職員さんも大きく声をあげた
犬はすぐに数人の職員さんに取り押さえられ若井は処置をしてもらうも噛まれたその場には血がいくつか落ちていた
若井は必死に謝る職員さんに
「大丈夫です、俺こそすみません 」
と手を押さえ逆に謝っている
呆然としている俺に若井は
「噛まれちまった」
と言って右手を見せ俺に心配させまいと笑っていた
*
その後若井は病院へ直行し治療を受けたが骨には異常なく直ぐに家に帰れた様だった
良かった… 本気で焦った
犬は厳しい処分は免れたものの地方に飛ばされる事となった
俺は…犬に簡単に会いに行ける様な状態ではなくなってしまった
でも最悪な事態ににならなくて良かった
生きているならきっと会える
その日の晩にぶらっと若井宅に寄ってみた
「ほい、差し入れ」
「マジで?やったぜ」
途中適当に買ってきた数点のスイーツの入った袋を差し出す
噛まれた右手には包帯が巻かれ痛々しく見えたが思ってたより元気そうで安心した
俺は顔だけ見たら帰るつもりだったがせっかくだしちょっとだけ家に上がることにした
俺がいつもの様に定位置になっているソファーに座ると若井はキッチンへと行き紅茶を入れる準備に入る
「あの時さ」
若井が茶を入れながら言う
一気に室内に紅茶のいい香りが充満する
「頭の中で声が聞こえたんだ…俺の顔の前に手を出してって..」
犬がそう言ったのだろうかどうかはわからない
「不思議だよな」
若井は紅茶と俺が持ってきたスイーツを乗せたトレーを上手に持って来ると俺はそれを取る
一口飲むと若井が隣に座る
俺はカップをテーブルに置くと若井に体を寄せ肩に頭を乗せた
「…マジで心配した」
俺は目を閉じ体重をかけた
大袈裟かもしれないがその時は若井が死んでしまうんじゃないかと思った
俺はパニクって何も出来なかったがとにかく不安でいっぱいだった
若井も肩に乗せた俺の頭にもたれる
「なんか無事っぽい」
若井はそう言った
そう会話した後に俺は惜しみつつも直ぐに若井宅を出た
その後若井は高熱を出したようで次の日のスタジオには来なかった
*
若井不在だった次の日にスタジオでりょうちゃんといつものように談笑をしていると遠くに若井の姿が見えた
「あ、もう大丈夫なのかな」
ってりょうちゃんが言う
「来るって言ってたから大丈夫と思う」
今朝そう連絡があったとこだ
そんな若井はまっすぐこっちに向かって来る
「おはよう…」
俺がそう言おうとしたとこで無言で正面から抱きしめられた
強く強く噛み締める様に抱きしめられると
「ごめん…ごめん」
と言う
若井は昨日の事を言っているのだろうか
高熱だったんだろ?
それはどうしようもない事だから別にいいんじゃないのか
だがどうも様子がおかしくて俺は戸惑ってしまった
「若井…?」
俺がそう呟くと若井はビクッと体を震わせた
「…やっと呼んでくれた」
そこでやっと若井は抱きしめていた手を解いた
「会いたかった…」
若井は切ない顔をし俺を見つめると両手で俺の頬を包み大勢の人がいる前でキスした
周りには俺らが付き合っている事を一切公表言ってなかったものだから 一斉にざわついたのを感じつつ俺はそれを止められなかった
20250221
コメント
1件
やばいこれめっちゃ好きです ꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱⋆⸜♡⸝⋆