「もしかして、協力って一緒に戦う…ってことですか?」
俺は彼女が協力してくれるというワードに非常に困惑していた。
本来であれば古龍である彼女が共に戦ってくれるのであればとても心強い。
これ以上ない戦力なのだから。
しかし今の彼女は治療を受けたばかりで本調子ではない。それに今の状態であのドラゴン・イクシードの攻撃を受けてしまえば次こそ本当に命を落としてしまう可能性がかなり高いと思われる。
せっかく助かったのにそんな危険なことさせるわけにはいかない。
親しい間柄ではないにしろせっかく助けたのだからそれは…
俺が彼女の提案を断るため声をかけようとする。
すると彼女は俺の言いたいことが分かっているかのような表情で俺の言葉を遮った。
「言わなくてよい、十分分かっている。もちろん今のわしは満足に戦えるような体じゃないことは承知の上だ」
「なら、どうやって…」
俺が不思議そうに彼女へと尋ねると彼女はおもむろに片手を取り出す。するとある程度の魔力を手のひらに込め、そしてその魔力を凝縮してふわりと魔力球にして空中へと現出させた。
「わしの魔力、つまり力の一部をお主に託そうと思う」
「魔力を…?」
俺はその言葉を聞いて尚更心配になる。先ほどまで死にかけていたのにそんな状態で俺に魔力を譲渡するなんて危険じゃないのだろうか…
「あの、無理はしないでくださいね。まだ完全に怪我も治っていないのに…」
「それは大丈夫だ。お主のおかげでもう死の窮地は脱した。あと少し休めば多少の魔力を渡したところであまり影響はない」
そうなのだろうか…?
まあ本人がそういうのであれば大丈夫なのだろうが心配だ。
「ドラゴン・イクシードを倒すのに協力していただけるのはとてもありがたいのですが、そこまで無理しないでも…」
「ええいっ!お主は本当に心配性だな!!!黙って受けとっておれ!!」
「は、はい!すみません!!!」
彼女は呆れた顔で大きくため息をつく。
けれどもどこか嬉しいそうな様子にも見えるのは気のせいだろうか。
「分かりました、ありがたく頂きます」
「ああ、貰っておけ」
俺と彼女は自分たちの会話が面白く、互いに見つめ合って笑いをこらえきれずに吹き出した。凍えるようなこの雪山の洞窟の中で何だかこの時は温かな空気を感じていた。
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「ところで一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「ん?なんだ?」
俺たち三人は古龍さんの魔力が回復するのと外の吹雪が収まるのを待っている間、魔晶石によって作った疑似暖炉を囲ってゆったりと休息を取っていた。先ほどまでは誰も一言も発さずに温まっていたのだが、どうせならこの古龍さんともっと話をしてみたいという俺的には意外な気持ちが浮かんできたのだ。
「先ほど私に魔力…古龍さんの力を渡してくれると仰ってましたけど、どうしてそこまでしてくださるんですか?」
「…そうだな。というかそれよりも」
一瞬真剣な表情でこれから力を貸してくれる理由を話してくれるのかと思いきや突然目をきりっとさせてこちらを指差して睨んできた。
「その『古龍さん』という呼び方なんなんだ?」
「えっ、その…では何と呼べば?」
「先ほどちゃんと名乗ったのだから名前で呼べばいいじゃないか」
確かにさっき彼女はちゃんと自己紹介していたけれど。
『古龍族、アンシエンデグラス』…だっけ?
人の名前にケチをつけるわけではないけれど、この名前言いにくいんだよね。
「すみません、アンシエンデグラスさん。覚えてはいるんですけど…」
「何だ、わしの名前に文句でもあるのか?」
「いえいえいえ!!!とんでもない!!文句ではなくてですね、少し…い、言いづらいといいますか…」
俺は気まずさのあまり彼女の方から少し目をそらしてしまった。
そうして数秒後、恐る恐る彼女の方へと目を向けると先ほどもみた呆れた顔でこちらを見ていた。
「なら好きに呼ぶがいい。お主の呼びやすいように呼べばいいだろう。しかし種族名はなしだ!」
「あっ、はい!分かりました」
そうして俺は必死に呼び方を考える。
アンシエンデグラスさんだから…
アン?いや、それだと知り合いと被るな。
デグラス?ちょっと区切り方が変か。
んん…….あっ!
「……シエン。シエンさんはどうですか?」
「シエン、か。まあお主がそれでいいならいいだろう」
何だか素っ気なく興味がないみたいな反応を見せてはいるが少しばかり口角が上がっているのを俺は見逃さなかった。こんな反応しながらもシエンという呼び名を気に入ってくれているみたいで良かった。
「それでシエンさん、どうして私たちに手を貸してくれるんでしょうか?」
「あっ、ああ。そういえばそうだったな。理由か、理由は単純だよ」
「単純?」
「そうだ、わしもあやつの存在が邪魔だからだ」
まあ考えてみればそうか。ここに昔から住んでいると言っていたから、彼女にとってもあのドラゴン・イクシードは住処を荒らす外敵なのか。
「まあ自分の住処を好き勝手に荒らされているということにも腹が立つが、それ以外にも理由はある」
「それ以外の理由ですか?」
「ああ、お主も言っていただろう?あやつのせいで周辺の生態系が崩れて人族にも影響が出始めていると」
俺はシエンさんの口から意外な言葉が出てきて少し驚いていた。
まさか他種族、それも人族のことが理由に含まれるとは。
「おい、何か勘違いしていないか?人族を守りたいとかそんな理由じゃない。あやつがいなくなった後もわしの穏やかな生活を守るためだ」
「どういうことですか?」
「わしはこの山でのんびりと穏やかに暮らしていたいのだ。そのために周辺の人族の村には『この山に住み着いている古龍を怒らすと災いが降りかかる』という噂を流しておいたのだ。そのおかげでわしの住処周辺にちょっかいをかけてくる人族は誰もいなかった。しかし今回の件で冒険者がこぞって竜を退治するために押し寄せて見ろ、わしの穏やかな生活が送れなくなってしまうではないか。だからこそわしも早急に今回の一件を速やかに解決する必要があるのだよ」
シエンさんの話を聞いて俺は非常に共感することが出来た。
かくいう俺もある程度のお金を稼げたら静かなところで穏やかな暮らしを送るというのが夢だ。
そういう部分で俺は彼女の気持ちが痛いほど分かるのだ。
「なるほど、穏やかな生活の尊さは私も痛いほど分かります!だからこそ私も出来る限りシエンさんが穏やかな生活を再び送れるように協力させていただきます!!」
「お主っ!この偉大な理由を分かってくれるか!」
俺たちはキラキラと輝かせた目で互いを見つめ合って固い握手を交わす。
何だか俺と彼女はかなり好みの似た同類のような感じがする。
彼女とはもっと仲良くなれそうだ。
そんな二人で盛り上がる脇でセラピィはスヤスヤと寝息を立てて眠っている。
そこは気温もテンションも寒暖差が激しい空間となっていた。
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それからしばらく経ち、ついに洞窟の外の猛吹雪が収まってきて粉雪程度になっていた。これなら山頂にもすぐに行くことが出来るだろう。
それにダメージも魔力も回復して準備も万端である。
さらにドラゴン・イクシードの対策も考え得ることはある程度考え尽くした。
さて気を引き締めていきますか!
「ではユウトよ、準備はいいか?」
「ええ、いつでも大丈夫です!」
互いに見つめ合って息を整える。
シエンさんは自身の手をこちらへと向けて目を閉じる。
「では今からわしの力の一部を譲渡する。ユウト、絶対に勝てよ」
「ええ、もちろん」
そう言うと彼女の手から強烈な光が発せられる。それは次の瞬間には洞窟の中を一面光で包み込み、そうしてまた次の瞬間にはその光が次第に俺を中心として収束していく。
「…さあ、行ってこい」
「行ってきます!」
《条件を満たしました。称号『古龍種の加護』を取得しました。》
コメント
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続き楽しみに待ってますꈍ .̮ ꈍ 応援してます⊂(◉‿◉)つ