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「それでは、ルールやマナーを守り、文化祭を最高の思い出にしましょう」

そう言って文化祭の挨拶を終えるのは、生徒会長である桐谷怜きりたにれいだった。

彼女は正義感が強く、曲がったことを好まず、素直ではない性格だ。

そんな性格の彼女は、世間的には嫌われて当然の存在。実際、生徒会長になったばかりの彼女の性格を見た人間はあまり好んではいなかった。

けれど、周りの生徒や自分たちはもう高校生なのだ。 ある程度性欲を知ったばかりの義務教育を卒業した猿である男子共は、会長を犯し尽くし、その体を暴いた。

純粋だと勘違いして、その純粋さを自分たちだけのものにしようと。

会長は自分の地位を守るために、教師にはそのことを言っていない。きっと自分の両親にも言っていないのだろう。

それを利用してか、行為は毎日のように行われ、2、3人の男共が寄って集って、嫌がる会長1人相手を無理矢理犯している。

けれどそいつらはきっと、性処理道具とは思っていないだろう。会長に恋をしているわけでもなさそうだが。体だけなのか、心なのかは分からないが、狙われているのは確かだ。

でもきっと、私もそれは同じだ。

会長が欲しい。

あんなに完璧で、真面目で嫌われやすいのに、脆そうな会長の心を私で満たしてみたい。

あわよくば心だけではなく__________。









初めの頃はなんとなく眺めてるだけだった。

前期生徒会長になったばかりの会長を、1年生の頃から、なんであんな言い方をして嫌われている自覚がないんだろうとばかり思っていた。

私は1年生だけれど、会長は2年生だ。

先輩にこんな言い方をして失礼だとは思うけれど、自覚してないんだなと思いつつ、特別興味があったわけではないけれど、不思議な感覚で見ていた。

「校舎内を走ってはいけないと小学生の頃から教わっていないんですか?」

そう言って、凛々しい視線を相手の男子生徒2人に向ける会長。

教科書とノート、筆箱を胸に抱えている。移動教室だったのだろう。

不機嫌そうに会長を見つめる私と同い年の男子生徒2人には目もくれず、会長は姿勢よく、真っ直ぐに廊下を歩いていった。

歩く度にその綺麗なボブヘアが弾んで揺れる。


不思議で仕方がない。

あれで嫌われる不安もないようで、ただただ意味がわからない。

本気で恐れていないのか、恐れながらも風紀を乱し、学校の評価に関わる生徒を注意しているのか。

高嶺の花とは違うけれど、なんというか、遥か上の、価値観などが一致しなさそうな遠い存在だった。

「お前また会長見てんの?」

同じクラスの思音しおんはそう笑いながら言い、机に手を着いて私を見下ろす。私を見下ろした思音の顔は苦笑いだった。

「…なんか不思議だなって」

「なにが?会長の?どこが?」

「いや、あれ」

そう言って私は、先程会長にお叱りを受け、それが気に食わず不服そうに愚痴る男子生徒2人を指さした。

「あー、なんで校舎内を走るのかってこと?」

「いや…校舎内走る行為自体は別にどうでもいいんだけど」

思音の勘違いを訂正しつつ、私は上の空で言った。

「あんな小学生みたいな注意する人、高校生でもいるんだなーって……」






「ワイシャツはしまった方がいいですよ」

昼休み、私が廊下で歩いていた時、生徒会室に入ろうとしている会長に、正面からそう言われた。

「…暑いので少しの間この状態で」

開いた生徒会室の扉を横から抑えながら会長は、眉間に皺を寄せ、つんざくような鋭い視線を私に向ける。

私も私で会長を睨み続けていると、会長の方が先に折れたようにため息をついた。

「…まぁ命最優先ですからね」

意外だなと思いつつ、そのまま横を通り過ぎようとしたら、でも、と会長は話を続けた。

「涼しい場所に着いたら仕舞ってくださいね。暑くないし、シャツを出す理由はないですよね」

それだけ言って生徒会室に戻ろうとする会長を真っ直ぐ見つめ、少し大きめの声で言った。

「学生の青春を無くすそういう発言、やめた方がいいですよ」

会長が振り向き目が合った瞬間、私は走って逃げた。だって会長はそのまま口を開いて何かを言いたそうだったから。そうなったら話が長く続いて面倒な気がしたから。

走っている私の背中に、会長が大きな声で言った。

「校舎内は走らないで下さい!!!!」

でも、私はその言葉を無視して走り続けた。






私は教室に戻ってから、イライラして仕方がなかった。

もっと良い言い返しがあったのに、あれしか返す言葉がなかったこと。学生の青春を奪うような行為をする会長のこと。色々なことに腹を立てている。

いつも通りの筈なのに、廊下や教室内に居る生徒達の会話のざわつきすらも腹立たしく感じてくる。それなのに、1部の机に何人が集まってギャーギャー騒いでいるものだから余計に腹が立つ。

「…お前顔に出すぎだろ」

その集団にいた思音と目が合い、機嫌の悪さに気が付いたのか、私の机まで来て話しかけてきた。

「……先輩とすれ違いざま、しょーもないことで注意された」

「先輩?…あぁ会長か」

1人で納得したように言う思音を無視して、私は話を続けた。

「別にシャツが出てたってどーでもよくない?それこそ青春でしょ。学生の個性でしょ」

「なにお前個性出す為だけにシャツ出してんの?」

「ノーコメ」

思音は私の話を聞いて呆れたようにため息をついた。どっちに呆れたのかは分からないが。

「学生は青春したいって思うのが当たり前だもんな〜。まぁどっちにしろ、会長もお前もどーでもよすぎだから、注意もその話も」

ああ、思音はどっちにも呆れていたらしい。それはそれで腹が立つ所だが、思音のどうでもいい、という発言を聞いて、なんというか、そんなような気がしてきた。

気が付いたらイライラがなくなって、胸のモヤモヤも晴れて冷静になっていた。生徒のざわつきも、今は気にならない。

「…ていうかお前、あそこで今オセロやってるんだけど、来る?」

さっき思音が抜けてきた集団を左手の親指で指さし、聞いてきた。

「…やろっかな」

私がそう言ってノリノリで立ち上がると、思音はその集団に対して大きな声で言った。

「おーい、藤田ふじたも入るってよー!」

「まじ!みずきちゃん入るって!」

集団の中に居る1人の女子がそう言うと、他の奴らも盛り上がり始めた。

思音は私の方を振り向いてニヤニヤ笑いながら言った。

「負けても知んねぇぞ?」

「大丈夫、私負ける自信何も無いから。頭使うゲームとか例えば…」

私も思音と同じように笑いながらそう続けた。

「心理ゲームとか」

私のその表情を見て、思音は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐまた笑って言った。

「…お前のそういうとこ本当に好きだよ俺」

「そりゃどうも」

私は集団の方に向かいながら思音を誘った。

「ほら、早く!」

そういうと、思音は少し微笑んだ。

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