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「帰れクソ鯖ァ!!!!!!」
「やーだねっ!」
「あ、芥川くーん!私の直属の部下にならないかい?」
「芥川にちょっかいかけるンじゃねェ!!!!!誰が認めるかァ!!!!!!」
「芥川君を部下にしたい」と云われた次の日から、太宰は任務が入っている時を除いて殆ど毎日のように俺(と芥川)の部屋を訪れるようになった。
芥川を部下にしたい太宰と、絶対に太宰なんかに芥川を渡したくない俺の、此の云い合いも、最早恒例になってきている。
因みに当の芥川はと云うと、俺と太宰はどちらも尊敬する先輩だと思っているらしく、如何すれば善いのか決めかねている様子だった。
おろおろしている芥川に、太宰がちょいちょい、と手招きをする。芥川は素直に太宰の方へ行ってしまった。
太宰は芥川の耳に顔を寄せたかと思うと、俺の方を見ながら何かを囁く。そして一言二言云ったかと思うとにこ、と満面の笑みを浮かべた。 勝利を確信した顔だ。
芥川が何かを決心した様な顔つきで此方に歩いてくる。然し、其の足取りは重い。
「中也、さん。あの、」
────嗚呼。
「僕は、」
其の先に続く言葉は。
芥川が太宰の野郎の部下になって暫く経った。なのに、全然慣れやしない。
一緒に居られるのは、訓練がない時と朝御飯を食べる時、そして寝る時のみ。朝御飯を食べ終わったら直ぐに着替えて太宰に引き渡さなければならない。少し前迄はずっと一緒だったのに。
そして、最近は更に一緒に居る時間が減った。青鯖に何か云われたのか、俺が厭になったのか、芥川が俺を避けるようになってしまった。此れは由々しき事態である。
例を挙げると、手が触れてしまった時。ビクッと肩が跳ね、すみませぬ、という謝罪の後、目も合わせずに、慌てて部屋を出て行ってしまうのである。此れを嫌いと云わずして何と云うのか。
机に突っ伏し、はあ……と深く溜め息をつく。
ガチャ、と部屋のドアが開く音がした。
「ほう、本当に酷いことになっておるのう」
「……姐さん……」
入ってきたのは姐さんだった。机に潰れている俺を見てくすくすと上品に笑う。
「中也や。お主の部下が心配しておったぞ。「この頃、ずっと上の空なんです」とな。………芥川が原因かえ?」
「芥川が原因、というか……まあ、はい……。太宰には不必要に嬲るなとは云ってあるのですが」
「……とうとう中也にも春が来たか…」
「急に何ですか姐さん……」
姐さんがよよ……と態とらしく泣き真似をする。問い掛けると、にまにまと笑みを向けてきた。其の生暖かい目線を止めて欲しい。
「中也も芥川も難儀なものじゃの」
「お主は他人に向けられている感情には善く気が付くのに、自分に向けられている感情には鈍いんじゃな」
「其れは、如何いう……」
「ふふ、私から云えるのは此処迄じゃ」
そう云うと、姐さんは踵を返して部屋を出ていった。冷たい廊下に姐さんの靴の音だけが反響する。
「………………春じゃのう」