「えっと…」
こんなに大きな守護者をここから出すなんて…現実味が余りにもなさすぎる。私2つ分くらいの大きな守護者は私とスカイを見つめたまま動かない。
〈真なる勇者たち,お前たちならできる。私は信じている。〉
そう言われた後から,この声は聞こえなくなった。スカイは声が聞こえなくなると守護者のもとに近づき,ゆすった。見ればわかる通り,どうにもならない。ポンポンと叩いてみるけどやっぱりなにも起きない。
「どうする?」
「さぁ。攻撃すればこの脆い体が潰れるだろうしな。それに…。」
スカイが辺りを見渡す。どんどん腐敗が進んでいっている。さっきまで光り輝いていた木々はもう真っ黒になっている。このまま腐敗が進めば強い魔物達が魔素を浴びにやってくる。この腐敗からは禍々しい魔素と悲しい…誰かの記憶が出てきている。その記憶は魔素が強くなるにつれて鮮明に映し出されていった。
「これは,あの守護者の記憶?」
試しに近づいてみた。
〈私の可愛い___よ。こっちへいらっしゃい。その可愛いお顔を見せて頂戴。〉
綺麗な木々と植物が入り乱れる洞窟に,女性が立っていた。顔は光で見ることができない。この女性はあの守護者だろうか。にしても,ぜんっぜん違う。一般の人間女性だし,声も違う。やっぱり違う人?
「誰…?」
女性は私を見つめて微笑んだ。私が見えている?
〈貴女も、おいでなさいな。〉
両手を広げて私を呼ぶその姿は女神のようだった。それはそうと、スカイの姿が見えない。あの記憶の裂け目に近づいたのはスカイも一緒だったんだけど。
「あの、貴女は一体誰なんですか?」
〈ふふ、私はカルミア。さぁ、いらっしゃい。〉
カルミアといった女性は私のほうへ近づいてきた。なんだろう,お母さんみたいな温かさだ。すごく,落ち着けて気持ちいい。
「___!_げ!___ろ!」
「…?」
スカイの声だ。どこからともなくスカイの声が聞こえてくる。どこにいるの?スカイ。早く出てきてよ。私一人にしないで。
「エ___!__ろ!」
なんて言ってるの。はっきり言ってよ。カルミアさんは変わらず笑顔で私を見ている。けど,何かがおかしい。さっきまでの温かみが…消えて行ってるの?
≪あの声を聴いてはならぬ。≫
別の声がした。カルミアさんの声と混じってへんなように聞こえる。
「カルミアさん!」
カルミアさんの顔が歪んでいく。この洞窟も,どんどん歪んでいった。カルミアさんは泣いているのだろうか,辛い表情が見える。私だって悲しい。あんなにきれいだった洞窟が闇に染まっていっているから。だからカルミアさんも泣いているのかな。
「エアリス!」
はっきりと聞こえたスカイの声。そっちに行きたいけどカルミアさんを置いていくわけにはいかない。崩壊しつつある洞窟の奥へと進む。私自身がここで死んでしまうかもしれない恐怖を抱きながらも私は嘆き悲しむカルミアさんのもとへと駆け寄った。そっと手をカルミアさんに差し伸べた。人を救うのなんて時間の無駄だと思っていた。けど,カルミアさんはどうしてだか助けたいと思った。
(お母様。)
何故だかその言葉が頭によぎった。あぁ,そうか。カルミアさんは…
「私のお母様,そうだったんですね。」
その瞬間,洞窟は今まで以上に美しい場所になった。スカイもいる。そしてあの守護者は居なくなっている代わりに石像があった。
「スカイ…。」
「エアリス。…もう,勝手に一人で行くなよ。」
「ごめんなさい。」
腐敗に包まれていく洞窟でスカイは逃げずに私のそばにいてくれたらしい。本当にスカイは優しい,今まで見たことがない人間だ。
「お母様。」
守護者がいた場所にある石像に近づいた。笑顔でこちらを見ているお母様の姿が見える。でも,どうしてお母様のこと,忘れていたんだろう。家族なのに。
〈エアリス。…いえ,真なる勇者たちよ。私の願いを叶えてくれて,ありがとう。〉
「ここから出すって,成仏の事だったんだね。」
〈えぇ,聞いたでしょう,あの声。あれに私は囚われていました。けどもう大丈夫。私の可愛いエアリスはこんなに良き彼氏(パートナー)と居るんですもの。安心しました。〉
スカイの顔が赤い。彼氏じゃない。ただのパーティー仲間です。確かに仲はいいけど,恋愛対象としては見てない。
「あ,あの。守護者様はエアリスのお母さん…なんですね?」
〈左様。〉
「人間だったんだな…。」
私はずっとエルフだと思い込んでいた。けど実際は違う。お父様がエルフで,お母様は立派な人間。人間は寿命が短い。もしかしたらお母様が無くなったのはずいぶん昔の事なのかもしれない…。
この洞窟にあるものは全て懐かしく感じた。私は覚えがないけれど,見た時,涙でいっぱいになる。
「お母様,どうしてお母様は囚われていたのですか。」
〈…裏切者の私が私自身を捕らえていた。エルフよりも寿命が短い自分が死期を悟った時,怖くなったのです。貴女がなく顔を見たくなかった。〉
悲しい顔をしていたのはそういうことだったんだ。
どんどん消えていくお母様に私は言った。
「もちろん悲しいけど,エルフも人間もみんな何時かはこの世から去る。だから思い出が煌びやかに輝くんだよ。」
〈…そうね。…エアリス,最後にいいかしら。〉
「うん。」
〈貴女と一緒にいれた時間は短かったけど,充実していたわ。貴女が幸せになりますように。〉
そして,お母様は消えていった。
to be continued→
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