テラーノベル
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突然マユキがトモエに話しかけた。
「トモエさん、わたくしたちの芸能事務所の名前がホワイト・リズムなのはどうしてか、分かってらっしゃるの?」
トモエは不意を突かれて口ごもった。
「はあ、そう言えば、代わった名前ですね」
「白を英語で何と言いまして?」
「ええと、ホワイトですよね?」
「では、拍子は?」
「え? あれ、何だろう。あはは、あたし英語は得意じゃなくて」
トモエが考え込んでしまったので、イオンが助け舟を出した。畳の上にあぐらをかいたまま、両手の拳で畳を、トントントトンという感じで叩いて見せながらトモエに言った。
「トモエちゃん、これだよ。何か言葉思い浮かばない?」
「ええと、リズム? ああそうか、拍子ってリズムって意味かな?」
「日本語と英語、つなげて考えてみなよ」
「白、拍子……アッ!」
トモエは大声で言った。
「ホワイト・リズムって、白拍子の英語訳なのか!」
マユキが相変わらずツンとした表情で言った。
「あたしたちのチーム名でもありますの。よく覚えておいてね」
ヒミコがホワイトボードを部屋の隅に押しやりながら言った。
「ほな、改めて自己紹介しときますかいな。トモエ、あんたからや」
トモエは畳の上で正座して他のメンバーに頭を下げて名乗った。
「御前崎友恵(おまえざき・ともえ)と言います。これからよろしくお願いします」
トワノが微笑みながら言った。
「あたしは御法坂(みのりざか)トワノ。トモエちゃん、分からない事あったら何でも訊いてね」
ナミネが言った。
「あたしは紫香楽(しがらき)ナミネ。こう見えてもあんたより三つ年上だから、そこんとこよろしく」
イオンがニコニコした顔で名乗った。
「ボクは阿留多伎(あるたき)イオン。まあ、がんばって」
マユキがトモエの顔を値踏みするような眼つきで言った。
「わたくしは冷泉院(れいぜいいん)マユキ。せいぜい早く慣れる事ね、足手まといにならないように」
狩衣を脱ぎながらウルハが言った。
「オレは厳島(いつくしま)ウルハ。久しぶりの新入りだ。鍛えてやるぜ」
最後にヒミコが立ったまま言った。
「ウチが事務所の代表取締役社長で、このチームのリーダーの朱雀大路(すざくおおじ)ヒミコや。さてみんな、そろそろ事務所に戻るで。トモエ、さっそくあんたには表の商売の雑用頼むわ」
事務所へ戻ると、ヒミコが数枚のメモ用紙をトモエに渡して、部屋の壁にかかっているホワイトボードを指差しながら言った。
「そのシフト表をそこに書き写しといてや」
トモエがホワイトボードの前に立つと、名前を書く欄がやけに小さいのに気づいた。
「ううん、これみんなの名前入りきれないよ」
トワノが駆け寄って来てトモエに言った。
「ああ、トモエちゃん。みんなの下の名前の頭文字書いとけばいいんだよ。左からその順番でね。うちの会社は年中無休だから、事務所にいつも一人は詰めとかないといけなくて、そのシフト表ね」
「ああ、それなら書ける。ありがと、トワノちゃん」
「じゃあ、また何かあったら言ってね」
トワノがその場を去り、トモエはまず名前の欄にマーカーで記入し始めた。
「ええと、ヒミコさんはHでいいわけね。ウルハさんがU、で、マユキさん、イオンさん、ナミネさん、トワノちゃん……」
名前の欄に頭文字を記入し終えた時、トモエは思わず息を呑んだ。左から横に並んだその頭文字は「HUMINT」。トモエは小声で独り言をつぶやいた。
「これって、さっきヒミコさんが言ってた……いや、ただの偶然だよね、これ。そうだと思うけど……」
コメント
1件
うわ、最後のHUMINTの並び、ぞわっとしましたね。さっきヒミコさんが言ってた「人間諜報」ってやつですよね? 偶然だと思いたいけど、このチーム名が白拍子(ホワイト・リズム)ってのも意味深で……。表の芸能事務所としての顔と、何か裏の仕事がある匂いがする。新入りトモエがこれからどう巻き込まれていくのか、続きが気になりすぎます。