常夜灯の光に、柳原の髪の毛が透けて見える。
その髪を撫でながら首筋に腕を絡ませる。
「将来、禿げそうですね」
言うと、
「うるさい。気にしてんだから言うな」
言葉とは裏腹に、ものすごく色っぽい目つきで柳原が答えた。
もう何十回と合わせた唇がまた、彩加のそれをついばむ。
少しジンジンと怠くなってきた。
明日腫れてるかもな。そう思ったら、トモキが大好きな唇の厚い怪人が頭に浮かび、ふふと笑ってしまう。
背中を強く抱きしめている手の一つが、前に回る。あばらを滑り、ブラジャーの上から撫でる。
「そういえばさ」
キスの合間に柳原が言葉を発する。
「お前、馬鹿な事言ってなかった?」
「……なん、て、ですか?」
こっちも刺激の合間に声を発する。
「“もうおっぱい要らない”とかなんとか」
「————ああ…」
それは彩加に優しくしてくれる美人な高野マネージャーと話しているときだった。
「彩加ちゃんって、結構胸大きいよね」
給湯で腰に手を当て、麦茶をがぶ飲みしている彩加に彼女は言った。
「遺伝なんです。邪魔なんですよね」
彩加がその旨を鷲掴みにするように揉んで見せる。
「もう授乳も終わったし、摘ってもいいんですけど」
「えー、もったいないよう」
スレンダーな高野は口を尖らせる。
「だって、乳がんのリスクはあるし、重いし、邪魔なだけですよ」
「————でもさ、おっぱいなかったら、さ」
高野は彩加に顔を寄せた。
「ーーー温泉入れないよ?」
想像する。
他人の女性同士、そんなに互いの身体をガン見するわけではないが、確かに隣の人の胸に膨らみがなかったら、びっくりするかもしれない。
「残しときます。温泉のために」
そう言って、2人で給湯室で笑ったのだった。
あのアホらしい会話を聞かれていたのか。
「ーーー残しとけよ」
「要らないんですもん…」
わざと言ってみる。
「要るよ。俺が」
期待どおりのことを言ってくれる上司の首に唇をつける。
夫の小さい手では包み切れなかった彩加の乳房を、柳原の大きな手は、いとも簡単に包み込んでしまう。
ブラジャーという厚い布と、ワイヤーを挟んでいるのに、その手の熱をはっきり感じる。
力強く揉まれると、自分の理性やプライドが、フニャフニャに解されていくように感じる。
また唇が合わさる。
柳原の意のままに顔を上に向けられ、深く舌が挿入されてくる。
あまりに奥を擦られ声が出る。
腰を強く抱き寄せられ、胸を解され、口を犯され、彩加はクラクラしながら柳原の肩にもたれ掛かった。
その首筋の向こうに、夏のボーナスで長女のハルカに買ってあげたばかりの勉強机が見える。
その脇には彩加の母親が買ってくれた水色のランドセルがかかっている。
来年から小学生だ。
ハルカは、部屋はいくら散らかしても、勉強机の上だけは絶対に散らかさない。
その事実が、買ってもらえたことの嬉しさを物語っていて、見るたび微笑んでしまう。
勉強机を見ていた彩加の瞳を追うように振り返った柳原がふっと笑って、また、また彩加の唇に口をつけた。
「———罪悪感?」
ぼやけた頭に、その単語は漢字変換されなかった。
ザイアクカン?何だっけ?それ。
「そんなの感じなくていいんだって」
腰に回っていた指でブラジャーのホックが外される。
「お前は今、“ママ”じゃねえんだから」
右手が一気にブラジャーの中に侵入してくる。
戸惑いと、少々強引に与えられる刺激で、声が出る。
「今夜は、女でいろよ。これ、上司命令な」
囁くような低い声と、威圧的な優しい言葉と、先端を引っ掻いた中指に、彩加は悲鳴を上げた。
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