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ひまなつは、なぜこんなことになったのか、頭を抱えたかった。

だが、今はそれすら許されない。股間にじわりと感じる圧迫感。冷や汗。身体が悲鳴を上げている。


「そろそろ限界か?」


机に肘をつき、笑みを浮かべるいるまの声が脳に響く。

いつものように意地を張る余裕はもうない。それでも、言葉では負けたくなかった。


「バ、バカかよ……! こんなくだらないこと……っ、誰が……!」


だが、声が震える。足はもじもじと交差し、握りしめた拳は白くなっていた。

無理もない。すでに、ひまなつは朝から水を1.5リットル飲まされ、トイレに行くことを禁止されている。始まりは、いるまの気まぐれのような一言だった。





「なつの我慢する顔、どんなふうになるんだろうな」


その言葉が引き金だった。


冷蔵庫のペットボトル、制限されたトイレ、いつの間にかロックされたドア。

すべては、いるまの計算のもとに進んでいた。

だが、ひまなつにとって本当に困るのは、身体の限界ではない。


「見ないで……っ、やめ……っ、目そらせよ!」


「なんで? 俺、おまえが壊れていくとこ見たいんだけど?」


顔が熱い。羞恥で、なのか、それとも違う何かでなのか、自分でもわからない。

膝を擦り合わせ、必死に押さえ込む。それでも限界は、じわじわと近づいていた。






「も、もう無理っ……! ほんとに、出ちゃう、から……っ!」


ついに、ひまなつが弱音を吐いた。


その瞬間、いるまの表情が少しだけ、ほんのわずかに優しくなった気がした。

だが、彼は何も言わない。ただ黙って近づいてくる。


じわり、じわりと、股間に熱がにじむ。


もう、だめだ。


ひまなつの両膝は震え、足元はすでに限界を訴えていた。壁に手をつき、必死に身体を折り曲げても、襲ってくる波は止まってくれない。


「はっ……ぁ、く……くるっ……」


声が漏れる。それすら抑えられないほど、緊張と羞恥が全身を支配していた。


「我慢してたんだなぁ……えらいじゃん?」


いるまの声が耳元に届く。優しさなんてない。けれど、その冷ややかな言葉すら、今は心に突き刺さった。


ぽた、ぽた――。


あ、と思った。ひまなつの体が反応していた。


「……っあ、や、やだっ……!」


小さな水音がフローリングに落ちる。止めたくても止められない。

ダムが決壊するように、熱が一気に流れ出す感覚。下着が濡れる音、足元に広がる水たまり、すべてが現実で。


「いやっ、みないで……っ、やだ……!」


ひまなつは顔を手で隠した。顔が焼けるように熱い。

でも隠しきれない。だらしない音も、情けない息遣いも、何もかも。


その瞬間だった。


ぽろり、と。


涙がこぼれた。ひとつ、またひとつ。感情が決壊していた。


「……っく、ぐすっ、や、だ……恥ずかしい、こんなの……っ」


崩れ落ちるように座り込むひまなつの肩を、いるまがそっと抱いた。

からかうことも、笑うことも、しなかった。


「……なつ、かわいい。俺の前では、全部見せろ」


その言葉が、ひまなつの涙をさらに誘った。


「バカ……っ、最低……なのに……っ、なんで……そんなの……っ」



ひまなつの震える背中に、いるまの手がそっと添えられた。

その手の温もりが、どこか冷え切っていた心をじんわり溶かしていく。



低くて、ほんの少しだけ甘い声。ふと、ひまなつの肩に顔を寄せる。


「俺は、おまえの全部を見たいんだよ。弱さも、強さも、恥も、涙も」


ひまなつは震える手で顔を拭いながら、ぽつりと呟いた。


「こんな姿、見られたくなかったのに……」


いるまはくすっと笑って、指先でそっとひまなつの顎を持ち上げた。


「見せてくれてありがとな。俺だけに、見せてくれたんだな」


甘く、濃密な空気がふたりの間に流れる。

ひまなつの瞳には、まだ涙の膜が光っていたが、そこには確かな信頼が宿っている。


ひまなつはわずかに震える唇をゆっくりと開き、そっといるまに寄りかかった。


「……いるまのばか…」


甘くて濃密な時間が、二人の距離を一気に縮めていった。




━━━━━━━━━━━━━━━



夜の静けさに包まれた部屋。

ひまなつは、いるまのベッドの隅で毛布を抱きしめるように眠っていた――ふりをしていた。


(……いるま、まだ起きてるよな)


そんなことを考えていた。心臓はずっと落ち着かない。眠れるわけがない。

お漏らしさせられたときから、身体が妙に熱を持っている。


ふと、背中に重みがのしかかった。


――ぴくん、と身体が跳ねる。


「……寝てんのか?」


低く、囁くような声。すぐ耳元で。

ひまなつは息を殺したまま、目を閉じている。鼓動が高鳴っていく。


いるまの手が、そっと肩から腕へと滑る。そのまま、腰のあたりに触れてきた。


(あっ……まじで……っ)


微かな動き。けれど、ひまなつの身体はそれだけで火照ってしまう。


「……可愛いな、お前。こうして何も言わずにされるがままになってるの、たまんない」


いるまの声が、まるで呪文のように心を揺らす。


……もう、無理だった。


「……いるま、」


ひまなつはそっと目を開けた。頬は赤く、目には熱が宿っている。


「……気づいてたくせに、あえて黙ってやってんの、……最低」


そう言いながらも、身体は拒まない。

いるまは微笑んで、ひまなつの額に唇を落とした。


「じゃあ、ちゃんと目を見て言えよ。『してほしい』って」


ひまなつの瞳が揺れる。


そして、唇が震えながら、囁いた。


「……して、ほしい。ちゃんと……おまえで、いっぱいにして」


その言葉を聞いた瞬間、いるまの目が一瞬だけ揺れた。

いたずら好きなドSの顔ではない。

そこにあったのは、真剣で、どこか切なさすら滲むような眼差し。


「……後悔すんなよ」


「しない。……したくても、もうできないくらい、好きだから」


その一言で、完全に崩された。

いるまの唇がひまなつの唇に、迷いなく重なった。


深く、甘く、絡め取るように。

キスはただのキスではなく、想いのすべてを伝える手段だった。

舌が触れ合うたびに、胸がきゅうっと締めつけられるような熱が込み上げてくる。


いるまの手がひまなつの首筋から背中、腰へとゆっくり滑る。

ただ触れられているだけなのに、こんなにも敏感に反応してしまうのは――もう、完全に彼に心も身体も開いてしまっている証拠だった。


「なつ……挿れるぞ」


「……うん」


その言葉を合図に、身体が重なり合う。

ゆっくりと、優しく、だが確実に、いるまはひまなつの中へと入っていく。


「……っ、は、ぁ……っ」


圧迫感と、でもそれ以上の安心があった。

すぐにいるまが、ひまなつの髪を撫でながら、耳元で囁いた。


「無理すんな。少しずつ、な?」


「だいじょぶ……いるまだから、だいじょぶ……」


動きはゆっくり、でも濃密で。

触れ合う肌の熱、汗ばむ肌と肌の間から、息が漏れるたび甘い吐息が交差する。


ただの快楽ではなかった。

愛しさと欲しさが混ざって、奥の奥まで求め合う。

何度も名前を呼び合い、何度も唇を重ね、ただ「好き」という気持ちだけが部屋を満たしていた。


「……いるま、好き……ほんと、だいすき……っ」


「俺も……誰より、何より、お前がほしい」


二人は何度も交わりながら、心を重ねていく。

朝が来ることすら惜しいと思えるような、永遠に続いてほしいほど甘く深い夜だった。



━━━━━━━━━━━━━━━




朝の光がカーテン越しに差し込む。

ひまなつはぬくもりの残るシーツの中で、少し寝ぼけた目をゆっくりと開けた。


「……ふぁ、ん……」


隣では、いるまが腕枕のまま微笑んでいた。

髪が少し乱れていて、瞳は眠そうなくせに、やけに優しくて。


「おはよ、俺のかわいいなつ」


「なっ……! 朝から何言って……!」


言葉とは裏腹に、ひまなつの耳まで真っ赤だ。

バレバレの照れ隠しに、いるまはくすっと笑った。


「顔、真っ赤。……なあ、覚えてる?」


その低い声に、昨夜の記憶がフラッシュバックしていく。

名前を呼ばれたこと、肌を何度も撫でられたこと、そして――愛されたこと。


「……覚えてるけど……言うな、バカ」


ひまなつはシーツで顔を隠そうとする。

けれどいるまはそれを許さず、するりとシーツを引き剥がす。


「せっかく見せてくれた可愛いとこ、もっと見たいんだけど」


「はぁ!? も、もう朝だし、やめ……っ」


言葉の途中で、キス。

深くない、だけど心臓が跳ねるくらい甘いキスだった。


「今日も、明日も、その先も。毎朝こうやって起こしてやる」


ふわっと笑ういるまは、普段のドSな顔よりずっと優しい。

その優しさに、ひまなつは抗えなくて――でも、それが嬉しくて。


「……うん。……俺も、毎朝隣にいる」


そうして俺たちは同棲を始めた。



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