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腹の上にまたがる女のゆさゆさと揺れる身体を見ながら気が付かれないようにため息をつく。

歳下の男らしく、甘えてみせるだけで良かった。

誘い文句すらいらなかった。

りいぬという恋人が居ることを忘れているのかと思うほど女は容易くぷりっつを部屋に招き入れ、躊躇いなく身体を許した。寧ろ女から誘われた感がある。



それにしてもりいぬくんの好みは分かりやすい。


小柄で清楚な雰囲気の可愛い系。そしてだいたい年上の女性。

りいぬくんはそんな女の子を見ては“守ってあげたい!”とか言う。彼女たちは遥かに強かで逞しいのに、りいぬくんは何も分かってない。


どの女も微笑みながら距離感を詰めるだけで、

ある時は少しだけ強引に押してみるだけで簡単におちる。



こんな女のどこがいいんだろう。

こんな行為、何が楽しいんだろう。

気持ちがいいかと聞かれたら礼儀として気持ちいいよと応える。そこで笑顔でも添えればどの女も満足そうにする。だから誰にでもそうした。


でも本当はよく分からない。




終わった後の虚空。

猛烈に一人になりたくなりたくて、でも感じる相手との温度差。

会話することさえ億劫な白けた時間。




目の前の喘ぐ女を見上げる。

りいぬくんが”運命だ”と言っていた人だ。

この人に、そんな言葉を捧げてもらえるほどの価値があるのだろうか?

俺にはさっぱり分からない。


うるさいな。

よくあるタイプの学生向けのマンションの壁は薄っぺらいのに、喘ぐ声がデカい。翌朝ばったり隣人と顔を合わせて気まずいと思わないのだろうか。

想像力が足りない。


「ふ、、ぷりっつくんなに見てるの?」


「‥あー、先輩綺麗だなって」

他に思考があることがバレないように女の腰に優しく触れた。

もちろん甘く微笑むことも忘れない。


「やだぁ」

気をよくした女は裸体をくねらせる。

その姿を、綺麗だとも可愛いとも思わない。

むしろそのわざとらしさに興醒めしそうになり、慌ててりいぬくんを頭に思い浮かべる。


おれの上に跨るりいぬくんを、

あの綺麗な薄い唇から悦びの声が漏れたなら。

あの大きな瞳が濡れて俺を捉えたならば。


手を伸ばして手繰り寄せた。


腰を突き上げると更に大きな嬌声が上がって我に帰る。耳障りな甲高い声、煩くて耳を塞ぎたい。

りいぬくん

自分で仕向けておいてりいぬくんに助けを求めるように心で叫ぶ。

興奮した女に顔を両手で挟まれた。

身体を上半身を倒して顔を近づけられキスされる。


自ら仕組んでおいて、

まるでレイプでもされているような最悪な気分だった。





「りいぬと別れてあげてもいいけど」

縛ったゴムをゴミ箱に放ると後ろから猫撫で声がして振り向いた。

“別れてあげてもいい”?


自惚れ自意識過剰驕り


全てを詰め込んだしたり顔に怒りが出そうになってじっと耐えた。

堪えている俺を、苦悶でもしていると捉えたのか

「私尽くすタイプだよ」

シーツを胸までたくしあげながら女が上目遣いでこちらを見る。


りいぬという恋人が居ながら俺とこうしてる時点で尽くすとか聞いて呆れるが計画の遂行のためにもちろん何も言わない。


気持ちを殺して細く息を吐いた。

ひとの彼女を奪ってしまった男の顔に切り替える。

傷ついた共犯者の顔、その顔を女たちは悦ぶから。


悦んだ女が誘う。

それを嫌悪して侮蔑して、なのに俺は応えた。



最悪な夜は、とても長かった。














◇◇◇





「ねえぷりちゃん」


「はい ?」


急に足を止めたりいぬくんに近寄り顔を覗き込む。


しかしりいぬはチラリとぷりっつを見て、何も言わずまつ毛を伏せた。


バイトの帰り、ぷりっつのマンションのすぐそばの公園の街頭の下、ボール遊びをして遊んだせいで上がった2人の息が冬の凍てつく空気に白く散りばむ。

りいぬくんといると楽しくてつい時間を忘れてしまう。疲れさせてしまっただろうか。


りいぬの元々白い肌が青白く見えてぷりっつはボールを地面に置いてそばに寄る。


「大丈夫?」

声を掛けるとりいぬがぷりっつを見た。

張り詰めた冬の空気に2人の白い息が上がる。

どうやら具合が悪いわけではなさそうだ。

冷えて乾いた紅い唇を僅かに開けたり閉じたりして何かを言いたくて言い出さない。そんな感じに見えた。

遠くの幹線道路の車のクラクションがそれを急かすように鳴った。


今日、りいぬくんは様子がおかしかった。

カフェのバイト中もオーダーを取りながらぼうっとして店長からも心配されていた。

りいぬとぷりっつのバイト先の店長はそんな時にまず怒らず心配してくれるような人だ。家まで送って行くようにと店長に言われていたのに、どうしても公園で遊びたいというりいぬとここに来たが、やはり真っ直ぐ家に送っていくべきだったのかもしれない。


「はい、これどうぞ」

俯いたままのりいぬくんにバイト先から買ってきたお気に入りのアイスアメリカーノを渡した。もうどっちがどっちのコーヒーなのか分からなかったが、りいぬもぷりっつもあまり気にしないタイプだ。


りいぬはボールを置いてコーヒーを受け取りチラッとこちらを見て決心したように溢した。


「俺ね、彼女と別れたの」


「‥」


「違うか。振られた。ハハ」

自虐的にりいぬが笑う。


「まただよ。

好きな人が出来たんだって」

何も言わないぷりっつにりいぬがおどけたように言う。


「おれ、マジでださいね」


「そんな事無い!

りいぬくんはいつだってカッコいいですよ」


「今そんなこと言われると余計傷つく」

伏せた睫毛が光って見えた。


「なんか もう分かんないよ」

自信を喪失しているりいぬにぷりっつの声が届かないのがもどかしい。

俯いたままの顔をそっと覗き込む。

少し伸びた前髪から覗く瞳に膜が張った。

りいぬが泣いている。

ぷりっつは焦った。


今度の彼女は違うんだって、大事にするってはしゃいでいたりいぬの姿を思い出す。

いますぐ抱きしめたい。その衝動を抑え込んだ。驚かせたり、引かせたりしてはいけない。友達をハグで慰めることはデフォルトでは無いから。


「りいぬくんは誰よりもカッコいいです。

皆んな見る目がないだけ」


りいぬが目に当てた手を止め、顔を上げた。


「自分をしっかり持ってて、優しくて、いつも前を向いてて、一緒にいて楽しいし、」


「アハハッそんなにいってくれるのぷりちゃんだけだよ」

りいぬは無理やり笑う。


「本当です。りいぬくんはかっこよくて優しくて、、」


「もうやめてってw」

恥ずかしそうな顔が可愛い。そうだ、可愛いも付け足したい。


「3度目の正直だと思ったのにな」

唇を尖らせたりいぬの冗談口調に、元気が垣間見えて少しだけホッとする。


りいぬくんの笑顔は魔法だ。

俺の全てを奪う魔法。


りいぬが笑いながらコーヒーに口を付けた。

唇がストローを咥えるのをじっと見つめる。見つめて、見過ぎたと気がついて慌てて目を逸らした。


今年に入ってもう既に3人連続でりいぬは恋人と付き合っては別れている。

数ヶ月単位の早さだった。


「俺、しばらく恋愛はいいや」

毎回落ち込みながらも懲りずに恋人を作っていたりいぬも、さすがに嫌になったのだろう。

それがいいよと思って、でも口には出せなかった。


「ぷりちゃんと居る方が気が楽だし、オモロいし!」

そう言われて顔が緩む。心の中でガッツポーズした。


恋人優先になりがちのりいぬは彼女が出来るとバイト帰りも飛んで帰ってしまう。

りいぬは純粋で恋愛慣れしていない。彼女という存在に一生懸命になってしまうのだ。


そんな価値もない存在なのに。



誰よりも俺がりいぬくんを理解してる。

どんな奴よりりいぬくんを大事にする。

絶対幸せにする。


だから、わかって。







「ごめんね」


「ん?聞こえなかった」


「ううん、なんでもない。

俺もりいぬくんといるのが1番オモロい!」


そう言うとりいぬが笑う。それに笑い返すと心がギシギシと不穏な音を立てた。





りいぬくん、ごめん。


好きになって、ごめんね。





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