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私が気合いを入れて待ち構えているせいか、津久野課長がなぜか来ない。彼が引き連れていた部下だけが、何度も会社に現れた。
「先輩、津久野課長なかなか来ませんね」
三浦さんが目の前を通り過ぎて行く部下に視線を飛ばしながら、ぽつりと呟いた。
「要注意人物が来ないおかげで、清々してる」
「それって本当ですか? こっちがたじろぐくらいに押しが強くて、インパクトのある人だから、寂しいんじゃないかなって思ったんですよ」
「まさか、そんなことないって」
変な男性に絡まれないことに安堵していたある日、不意に彼の部下が帰り際に受付に寄った。
「失礼します、三浦さん」
「えっ? は、はいっ」
名指しされた三浦さんは、慌てて椅子から腰をあげる。
「今日の仕事は、何時に終わりますか?」
部下からなされた、プライベートな問いかけに、三浦さんは私の顔を見つめた。迷うことなく私も立ちあがり、部下の方に笑顔で接する。
「津久野課長の部下だから、真似をしているのでしょうか?」
「真似ですか?」
「暇そうにしてる、ぼんやりとした受付嬢なら、簡単に落とせると思ったのでしょう?」
「まさか! 三浦さんのこと、前から気になっていたので、声をかけただけなんです」
言いながら満面の笑みを浮かべた部下に、三浦さんは頬を赤く染めた。その様子に手応えを感じたのか、部下は流暢に話し出す。
「もしよろしければ三浦さんと一緒に、高田さんもお食事しませんか? それなら安心できるのでは?」
「先輩が一緒に行ってくれるのなら、私としても心強いです!」
部下に気のある、三浦さんのテンションが一気にあがる。こうなったら、私の手に負えない。
「わかったわ。仕事は18時に終わるけど、どこかで待ち合わせします?」
「では、すぐそこの駅前で待ち合わせしましょう。失礼します!」
きっちり深い一礼をして去って行く部下の姿を目に追っていたら、三浦さんが私の体を抱きしめた。
「先輩~、ありがとうございます! 彼、めっちゃタイプなので助かりましたぁ」
「私が困ったときは、三浦さんに助けてもらっているもの。だけどきちんと見極めないと、痛い目に遭うからね」
待ち合わせの駅前に行くまでに、何度も釘をさして、三浦さんに注意を促したのだった。