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雪綺羅の夢物語
第2話:残った温度
執事に情報を渡したあと——
「……はーい、おつかれさまでした〜」
ぱたん、と扉が閉まる。
足音が遠ざかっていくのを、少女はしばらく黙って聞いていた。
完全に気配が消えたのを確認してから——
「……はぁ〜〜〜〜」
その場にへなっと座り込む。
「むりむりむりむり、あの人なに、圧すご」
さっきまでの営業スマイルはどこへやら。
ぐでっと机に突っ伏す。
「……でもさ」
ぽつり、と呟く。
「絶対なんか思ったよね、今」
思い出すのは、あの視線。
一瞬だけ、引っかかるような表情。
(……やばかったな〜)
苦笑する。
「ま、いっか」
軽く言う。
けど——
その一言で、全部ごまかしてるだけ。
「……ほんと、変わってないなぁ」
小さな声。
懐かしむような、寂しそうな声。
ごろん、と椅子にもたれかかる。
天井を見上げる。
「名前、呼びそうになったんだけど」
くすっと笑う。
「危な〜……普通にアウトでしょそれ」
机の上の資料に目を向ける。
びっしり書かれた、天使の記録。
「……増えてる」
さっきまでの軽さが少し消える。
「しかもこれ……なんか変」
紙を指でなぞる。
「前と違う動きしてるよね〜……」
そのとき。
ふわ、と風が揺れる。
「……あ」
顔を上げる。
「来てるじゃん」
めんどくさそうに立ち上がる。
外に出る。
森の奥。
静かな気配。
「はいはいどーも〜」
軽い声で呼びかける。
影が動く。
白い光。
——天使。
「……やっぱりね」
ため息ひとつ。
「最近多くない?シフト組んでる?」
どうでもいいことを言う。
でも目は、完全に相手を捉えてる。
「……」
「あ、無言タイプ?りょーかい」
肩をすくめる。
次の瞬間。
空気が変わる。
「……じゃ、さっさと終わらせよ」
声が低くなる。
さっきまでと別人みたいに。
地面を蹴る。
一瞬で距離を詰める。
攻撃を読む。
避ける。
流す。
崩す。
すべてが迷いなく、無駄がない。
「……遅いよ」
小さく呟く。
一閃。
音もなく、決着がつく。
静まり返る森。
少女は軽く息を吐く。
「はい、おつかれさまでした〜」
いつもの調子に戻る。
「……やっぱりおかしいな〜これ」
空を見上げる。
「さっきの人のとこ行ってなきゃいいけど」
ぽつり。
心配そうに呟く。
「……ま、いっか」
また、その言葉。
でもそのあと。
小さく、ほんとに小さく。
「……守るし」
誰にも聞こえない声。
少女は振り返る。
森の家へと戻っていく。
何事もなかったみたいに。
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