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フォリーはおぞましい表情を一つも変えずに、歩美たちの方を見た。
「……やはりあなたたちは殺さなくてはならないようだ」
フォリーは淡々と手袋をはめていた。
「ひ、久しぶりだな。フォリー」
「ええ。あなたをずっと探していました」
「いつか殺しに来ると思ってたよ」
雪はゆっくり立ち上がると、フォリーに近づいた。
「お前見てたらイライラしてくるわ」
雪の言葉にフォリーはふっと笑顔になる。
歩美は二人の様子を見ていた。
「ねえ、咲田くんは、人をなんだと思ってるの?」
「……別に、ただの、道端の石くらいにしか思ってないです」
「命に対する考えが、そう言うもので、殺し屋になれるとでも?」
「探偵が知ったような口を」
フォリーは鼻で笑った。
「お前、いけ好かないやつだな」
雪は笑顔で言った。しかし、その表情の奥は、憎しみが隠れていた。
「何一つ守れなかったくせに、僕に説教垂れるんですか?」
「ああ。何一つも守れなかったさ」
「なら、僕の言う事に同情するはずでしょう」
フォリーは雪の方を振り返りながら、見解を話した。
「僕は、昔からこういう性格でした。きっとおかしいんでしょうね。でも、本当に理解できないんですよ。人が人を助ける理由を」
雪の表情が曇る。
「何事も、行動するのには原因、または理由があるはずです。他人の命など、どうでもいい。関係ない。自分と他人は切り離して考えるべきです。自ら死を選ぶ人間というのは、どうして自分勝手なのでしょうか?拳銃を渡して『殺してくれ』と懇願する。けれどもいざとなって引き金を引けば、悪者のように後ろ指を指される。弁解してくれる彼は、もうこの世に居ない」
フォリーが語る一語一句にその場にいる全員が震撼した。そして憤りを感じた。
「僕は、人を助けたくありません。この仕事も、ボスのためではなく、自分が生きる術にしているだけで関係ありません。クライアントを助ける、守るなんて、そんなこと考えてません。僕の考えを理解してくれますよね」
「……いや、ちっとも理解できない」
フォリーは目を見開いた。
「確かに、あたしは人を助けるとか、守るなんて、この世にいる善人が死ぬ前に寝言みたいに語った妄言にすぎないように思う。でもそれは、守らないからじゃない。守れないからだ」
雪は制服のリボンを取ると首に巻き付けた。
「他人を身を挺して守るなんて、あたしにとって重荷だ。いつも守られてばっかりで、何にもできない。人を守ることに理由などない。もし理由があると君に教えた人物がいるのなら、そいつはきっと、誰かに守られたことも無いんだろう」
「何故、あなたのような人は、死にたいと思っているのに、人を愛するんですか?人に愛されるんですか?あなたが死ねば、あなたの死を悲しむ人がいるのに。これ以上悲しむ人間を増やさないでくださいよ。面倒ですから」
雪はリボンを蝶結びにすると、手袋をはめた。
「あたしが死んで悲しむ人間がいると、思ってるのか?」
雪は制服のジャケットの内隠しから拳銃を取り出した。
「思ってますよ」
フォリーはナイフをダーツのように投げた。
ナイフが雪の頬をかすめる。
「咲田、お前何人殺した?」
松村が問うと、フォリーは無表情のまま答えた。
「……ラトレイアーに所属するまで、僕は単独で殺しの仕事をしていました。でもそのほとんどの依頼が、自分を殺してほしい、という内容でした。意味が分かりません。辛いならその原因を排除すればいいのに。僕もあなたみたいに復讐屋になればよかったです」
「へえ」
松村は腰に付けたベルトから拳銃を取り出した。
「……お2人とも物騒な物持ってますね。見逃すんですか、山根さん?」
「ここで見逃さなかったら、君空きをついて逃げるよね?」
「さすが探偵ですね」
「二人はまだ発砲していないし、未遂だから」
紗季は立ち上がると、フォリーの方を見て言った。
フォリーは、彼女の様子を見て、一瞬で笑顔になった。
「もう、殺します」
フォリーは内隠しからナイフを取り出すと、雪の方へと向けた。
【おまけ☆】
コンコン。無機質なノック音が部屋の中に響き渡る。
「入ってくれ」
「失礼」
ゆっくりとドアを開けたのは、菅沢流、マスターだった。
「おお、マスターか。珍しいな」
「頼まれていたものだ」
マスターは、紙を何枚か取り出すと管理官の居る机に投げつけた。
管理官は眼鏡を取ると、無造作に机の上に置いた。
「しかし、情報屋を調べてほしいって、何のつもりだ?うちに情報屋なんぞいなくたって、≪エスピオン≫どもに任せれば」
「あいつらに任せるのはリスクが高い。それに、コストが馬鹿にならないんだ」
「でも、情報屋も変わらないぞ?」
「俺もボスにそう言ったさ、そしたら……」
「あの……ボス……情報屋を雇うのは良いとして、エスピオンとそんなに値段も変わらないですよ?エスピオンを使い続けた方が、うちのためにも……」
「え?だってかっこいいだろ?情報屋って」
「い、いやしかし……」
「いやー、一度憧れてたんだよ、情報屋に、『例の情報寄こせ。今回は一万円で良いかな?』みたいなセリフ!なあかっこいいだろ⁉」
「そ、そう、ですね……」
「――って言ってたからな」
「ああ、そう」
マスターがぎこちない返事をした。
「いつまで経っても子供みたいなやつだな」
「しっ!聞こえるだろ?」
「近くにいるのか?」
「まあな。いつも俺の監視してる。つか、ボス、俺に仕事丸投げしてるから、寝てるだけなんだがな」
「なるほど、だからそんなに仕事量が多いんだな」
マスターは苦笑いを浮かべた。
「いや~しかし、皆料金が高いな」
「そりゃそうだろ。プロのスパイじゃないから情報を手に入れるのも一苦労だし」
「う―ん……ん⁉」
資料をめくって見ていると、一際目立つ資料が管理官の目に留まった。
「なんだ?これ?」
マスターが見ていた資料は、たくさんの色の蛍光ペンで彩られた資料だった。
「ワオ。これ海だな」
「なんでこいつだけ……」
「海に事情を説明して調べてもらったからなー。多分選ばれたいからこんな感じにしたんだろうな。結構内容も盛ってるし」
「いくらで頼んだんだ?」
「簡単だから100円で」
「やっす!もうこいつで良いだろ」
「じゃ、今から電話してくるよ」
「ハイハイ」
マスターはそう言って部屋を出て行った。
「……しかし、男子がこんな資料のまとめ方するか?それにところどころ、顔がかっこいいって書いてあるし……」
数時間前。
「何してるの?海?」
「あっ、信梨(ことり)」
海は自分の顔写真が貼ってある写真を見つめていた。
「相変わらず、アンタ影薄いねー」
「うるせえ黙れ」
海は不満そうな顔を作った。
「自己紹介カード?貸して!」
「あっおい、返せ!」
海が信梨を追いかけまわすが、信梨の方が足が速いので負けてしまう。
「よーし私がかっこよくデコってあげよう!」
「あっこら!」
「大丈夫!あんたのことは従姉の私が良く知ってるんだから。任せな‼」
「誰が任せるか!心配だわ‼」
「えっと~、まずは顔がイケメンで……」
「聞いてんかよーっ‼」
数分後。
「できた!」
信梨が紙を持って海に見せつけた。
「おいおい。なんだよこれ……勝手なこと書きやがって……仕事の奴なんだぞ!」
「まあまあ。いいじゃん。この方が遊び心あるしね」
「とにかく。これはシュレッダー行きだから」
「あっ」
海は信梨から紙を取り上げると、シュレッダーに入れようとした時だった。
「海―。もういいかー?」
「あっ……」
――というわけで、あんな資料が完成したのだ。