「マジか――!」
俺は絶句した。
そこには、裸の少女が体を丸めていた。
少女。たしかに、少女だ。ただ、本当に言葉通りの意味で、『小さい』『女の子』だった。
「キャッ……」
少女はこちらを見ると、ソファーの影に隠れようとした。だが、小さな少女でも、ソファーと壁の間には入り込めなかった。
「あの……」
敵意がないことを示すように、俺は両手を挙げた。
俺のその動作に驚いた少女は、ソファーの上に飛び乗ると、もの凄い早さで走って行く。
「待って!」
「キャッ!」
少女は絨毯の縁に足を引っかけて、コテンと転んでしまう。
小さい。本当に小さい少女だった。
全長は、一五センチ程だろうか。冷静に考えると、あのタマゴより大きいというのもおかしな話だ。
髪の色はピンク。体の線は細い。痩せすぎと言っても良いくらいだ。針金の様に細い両手足に、小さな頭、そして、小さなお尻。なぜ、俺が女の子だと分かったかは、あえて説明するまでもないだろう。股の間に、あるべき物が無いからだ。
まるで、子供の玩具その物のような生き物。いや、人間か?
「ちょっと待って!」
話が通じかどうかは分からない。何にせよ、俺は彼女を安心させようとした。
少女が、四つん這いの状態でこちらを振り返る。
髪と同じく、ピンク色の瞳をしていた。少し大きな目に、小さな口と鼻。
そこらで売っている人形よりも、遙かに可愛らしい造形だ。
「あの……」
言葉に詰まった。なんて話をすれば良いのだ?
俺は彼女の父親でもないし、神様の眷属でもない。タマゴを押しつけられた、ただの人間だ。
「だぁれ?」
俺が固まっていると、少女が尋ねてきた。
「あっ、あの、天城白鳳。ここの家の人」
俺は頭を下げる。そして、少女を怖がらせないように、正座をする。立っていると威圧感を与えてしまうと思ったからだ。
「あまぎ はくほう」
拙い言葉で、少女は俺の名前を口にした。俺は何度も頷いて「そうだ」と答える。
「君は?」
俺は手で少女を示す。
「…………ない」
「ない? 名前がない?」
「うん」
それもそうか。今、数分前に彼女はタマゴから孵ったのだ。名前などあるはずもない。というか、生まれてすぐに走れて、言葉を話せるだけでも驚きだが。
「えっと……」
「なまえ、つけて」
少女は立ち上がると、自分の胸に手を当てた。
「なまえ、ちょうだい」
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