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グノーム神殿の入り口まわりに根を下ろし、巨大な威容を見せつける食獣植物――ツヴィクルーク。
無数の触手が蠢き、花型の頭を持つ首を八本揺らめかせつつ、獣じみた咆哮を揚げる。
空間の入り口に退避した慧太は、セラとグレゴに言った。
「まず、あの花つきの首を全部落とす。ツヴィクルークが動物的性質が強いなら、頭がなくなれば死ぬはず」
「それで、もし倒せなかったら?」
セラが懸念を口にした。
「動物とも植物にも見える異様な……いえ、異形です。普通ではない」
「頭を落としても駄目なら胴体を潰すまでだ」
深く考えるまでもない。慧太は単純明快に言った。
「中に飲み込まれた人たちを助けたら、ありったけの爆弾叩き込んで吹っ飛ばす」
「気に入ったゾ小僧! 爆弾を叩き込むのはワシに任せろ」
にかっ、とグレゴが笑った。慧太は頷くと、セラに向き直った。
「ここから聖天を飛ばせるか?」
「集中する時間さえあれば、この程度の距離なら問題ありません。あまり連発はできないですけど」
「最初の一撃だけでいい。後はここから魔法中心で援護してくれればいい。オレとグレゴの旦那で突っ込んで、あの花付き頭を潰す……旦那、爆弾をいくつかもらえるか。花付き頭が突っ込んできたら口に爆弾を放り投げる」
「よし、わかったッ」
グレゴはベルトに巻いている四角い爆弾を引っこ抜き、慧太に手渡した。合計四つ。三つをポーチに押し込み、一つは手に持つ。
「下の突起を押すと設置後に数秒で爆発ダ。上にあるピンを抜けば衝撃で爆発するようになるゾ」
「わかった。投げる時はピンを抜くんだな……了解」
「二人で突っ込むのは危険ではないですか?」
セラが不安げな視線を向ける。
「私も前に出たほうがよいのでは? 敵の手を少しでも分散させたほうが」
「触手がなければな。花付きの頭を落とすまでに触手も襲ってくるだろうから、それを牽制する者がいる。……それをセラに頼みたい」
セラはじっと慧太を見つめる。何か言いたげだが、何を考えているかわからない表情で。
「……わかりました。あなた方の背中は、私が守ります」
頼む、そう告げ、慧太は視線をツヴィクルークへ向けた。
「じゃあ、やってくれ。……グレゴの旦那」
「おう、いつでも突撃できるゾ!」
盾と斧を構え、鼻息も荒くグノームの戦士は言った。セラは銀聖剣アルガ・ソラスを両手で保持し、精神統一。剣は白く光りだし……銀の戦乙女はカッと目を見開いた。
「聖天、一閃っ!!」
光の斬撃が一振り、ツヴィクルークへと飛ぶ。針路上を遮った触手二本を分断蒸発し、一閃はツヴィクルークの胴体より生える花付き頭が伸びる首を五本、吹き飛ばした。
「グッジョブ!」
慧太は声を弾ませると同時に、入り口から飛び出した。グレゴも負けじと走り出す。だが足の速さは慧太のほうが数段上らしく、一人先行することになった。
残った花付き頭が咆哮を上げる。接近する慧太らにその長い首を伸ばすと共に、無数に生えた触手を差し向ける。槍のように突いてくるもの、鞭のようにしなり横薙ぎに払ってくるもの、先端についた蕾状のそれが花のように開き歯を覗かせて噛み付こうとするものもあった。
――あ、これ駄目なやつだ……。
蕾付きの触手を見た瞬間、花付き頭を落とした程度では倒せないような気がした。根拠はないが、慧太の中で確信に近い思いがこみ上げる。
――まあ、やることは同じだけどな……!
左手のダガーで迫り来る触手をかわし、切り落とす。足払いの如くなぎ払われた触手をジャンプして回避。そのままさらにツヴィクルークへと距離を詰める。
慧太の後方から光の弾が通過、触手を焼き撃ち落していく。セラが光弾の魔法で援護してくれているのだ。
少なくともあの位置からなら危険は少ないだろう――セラには極力危ない場所に出ないでもらう。それが慧太の考えである。
触手を凌いで前進していると、まず右端にあって無事だった花付き頭が、びっしり歯の生えた口を開き突っ込んできた。慧太は右手の爆弾――そのピンを抜き、投げつけた。
爆弾は無数の歯が並ぶ口の中にあたり、刹那の間に爆発。轟音と共にその頭を跡形もなく吹き飛ばした。細かな花だか肉だかの欠片や、血だが汁液が飛散する。思ったより強い衝撃を受け、慧太はバランスを崩しかける。……予想より威力がでかい。
「ケイタ!」
セラの声。慧太は転倒するのを何とか凌ぐ――のをやめ、頭からダイブしながらのスライディング。その頭上をかすめ、突き出された触手が二本追加する。まさにギリギリ――グノームのヘルメットをこすったような感触があった。
左側で爆発音。立ち上がりながら視線を一瞥すれば、グレゴが花付き頭を一つ爆弾で吹き飛ばしたところだった。さすがに爆弾の効果範囲を知り尽くしているだけあって、その動作も危なげない。
ドスドスと重そうに走るグレゴ。触手の鞭を盾で弾き、次の爆弾を持つ。残り一つになった花付き頭がグレゴに威圧するように吠える。グレゴは立ち止まり、その開いた口めがけて投擲の姿勢――
「グレゴっ!!」
慧太が叫ぶのと、回り込んだ触手がグノーム人の足を絡めとり、宙へと浮かせたのは同時だった。
「ぬぉおおおっ!?」
「グレゴさん!」
セラが光弾を放つ。しかし不規則な軌道を描く触手に光弾がかすりもしない。空中でぶらぶらと揺さぶられるグレゴ。花付き頭がグレゴを食わんと口を開ける。
「舐めンナ! ……うおおっ!?」
その口に爆弾を投げようとするも触手の揺さぶりで狙いをつけられないようだった。慧太は駆けるが、触手が邪魔して行く手を阻まれる。
さらに地面が揺れ、亀裂が走る。その隙間から新たな触手が顔を出し、慧太の胴に巻きついた。――捕まった!?
たちまち宙へと運ばれる身体。まるでジェットコースターみたい――慧太は思ったが、想定外の攻撃に内心では強い焦りをおぼえる。
「ケイタ!」
セラは叫ぶと前へ駆け出した。触手を狙い打つのは難しい故に、直接切断するしかないと判断したのだ。……絡めとられたらどうするんだという思いと、彼女に前に出る判断をさせた自分に腹が立つ慧太だった。
そうこうしている間に、グレゴが花付き頭に飲み込まれた。素っ頓狂な声を上げながらその首を落ちていく彼の姿――微妙に膨らんでいるのが移動しているのがわかる――見やり、慧太はポーチから爆弾を取り出し、ピンを抜いた。
――さあ、こいよ。どうせ次はオレだろ……?
グレゴを飲み込んだ花付き頭が、セラのほうを向いた。慧太は訝る。
「おいおい……オレは無視かよ」
不意に右側からツヴィクルークの唸り声が聞こえた。右側――慧太は絶句する。
花付き頭の最後の一本になったと思っていたら、どこからともなくもう一本現れ、触手に囚われた慧太へとその顔を近づけてきていたのだ。
隠れてたのか、あるいは再生したのかはわからない。よだれじみた汁を口から滴らせ、花付き頭が迫る。
――爆弾……は、近いか!?
慧太は一瞬投擲を躊躇う。
迫り来るツヴィクルーク、その頭に、突如飛来した矢が突き刺さった。
衝撃に花付き頭の軌道がずれる。顔を上げるために一端下がる花付き頭――しめた、とばかりに慧太は爆弾を投げつけた。顔面にぶち当たった爆弾が起爆し、花付き頭を吹き飛ばす。慧太はダガーで触手を切り落とすと、地面に着地した。
「遅くなった……」
視線を向ける。神殿のある空洞、その入り口に狐耳をもった金髪の少女が弓を構えて立っていた。
リアナだ。狐人《フェネック》の女戦士は、引き絞った弓から矢を放った。
「助けに、きた……!」