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試験が終わり、受験生達が広間に集まる。
この学園には、適正に応じて選ばれる3つの学科がある。
・アルカナ学科(魔法専攻)
・ヴァリアント学科(戦技専攻)
・セレスティア学科(学問専攻)
静寂の中、突如として広間の上空に光が瞬く。次の瞬間、何処からともなく現れたモニタービジョンが浮かび上がり、淡い光を放つ。
そこに次々と合格者の名前が映し出されていく。
広間には緊張が張り詰め、誰もが息をのんでその光を見つめた。
ーアレン・ヴァミリオンー
「……あった!」
歓喜が駆け巡り、思わず身体が震える。胸が熱くなり、呼吸が浅くなる。
次々と流れる名前。そんな中、特待生枠の文字が目に飛び込んできた。
ーラナ・アクアリウスー
(どうして……?ラナが、特待生……?)
驚きと焦り、そして不安が汗となって首筋を流れる。
その時、モニターがふわりと青い光を放った。次の瞬間、無数の青い蝶が空間から溢れ出し、受験者たちへと優雅に舞い降りていく。
アレンの手のひらにも、一匹の蝶がそっと降り立つ。淡い輝きを放ちながら、それは小さな粒子へと変わり、成績表となって手元に現れた。
アレンは息を整え、そっと目を落とす。
⸻
*合格*
《成績表》
・戦技適正……A+
身体能力:A+
戦術判断力:A++
・魔法適正……評価不能
魔力量:E
魔法制御:E
・筆記試験……92点(合格点70点)
《ヴァリアント学科》
⸻
(……分かってはいたけど、こうして数値で突きつけられると……。)
「よっしゃ!!」
隣でカイルが拳を突き上げている。手元の成績表には、《アルカナ学科》の文字がある。
「無事合格できたな、カイル。」
「ああ!まぁ、これくらい俺にかかれば楽勝よ!」
天狗のように鼻を伸ばし、誇らしげに笑うカイル。
「それよりも〜、成績表見せてみろよ!ほれほれ〜。え!?戦技適正A+!?筆記もほぼ満点って、アレンお前すげぇな!ちくしょう、もっと喜べってんだ!」
「はは、やめろってカイル!」
カイルはアレンの髪をくしゃくしゃに乱しながら無邪気に笑う。その明るさに、アレンの表情も自然と緩んだ。
「静まれ!」
試験官の鋭い声が広間に響き渡る。ピンと張り詰めた空気に、受験生たちは息を飲んだ。
カツ、カツ、カツーー
広間の壇上へと、1人の女性がゆっくりと歩み出る。
鮮烈な赤髪が柔らかく光を反射し、まるで燃え盛る焔のように揺れていた。
身に纏うのは、身体のラインを美しく引き立てる ワインレッドのスーツ 。その洗練された装いの上から、優雅な上着が肩にかかっている。
袖を通さず、前方のネックレス状の留め具で止められているその上着は、まるで王者のマントのように風格を際立たせていた。
カツンッ!
壇上の中心に立つと、彼女は堂々と口を開いた。
「初めまして、受験生諸君。私はこの学園の長を勤めている、エヴァ・ロートシルトという者だ。」
一堂が、その圧倒的な存在感に目を奪われる。
「……試験の結果がどうであれ、よく頑張った。健闘を讃え、私からのささやかな労いだ!」
エヴァが静かに手を翳すと、 天井にはオーロラが現れ、夜空の星々が煌めく。
足元には瞬く間に色とりどりの花々が咲き乱れ、広間全体がまるで桃源郷のような幻想的な光景へと変る 。
花火が夜空へと舞い上がる。弾けた火の粉は、小さな光の動物へと変え、受験生たちの間を駆け巡る。
「これから先、諸君らがどのような成長を遂げるのか、楽しみにしている!」
バサァ!
エヴァが踵を返すと、すべての幻影が静かに消えていった。
「すごかったねぇ!」
「俺、来年も必ず受ける!」
たった数秒の出来事だった。しかし、歓喜する者、鼓舞された者、感動のあまり涙を流す者ーーそれぞれの心に、学園長の言葉が深く刻まれた。
こうして、アレンとカイル はアストリア魔導戦技学園への入学を果たしたのだった。
広場へと出た2人は、夜空の下でしばし合格の余韻に浸る。
「やったな、アレン!」
カイルが勢いよくアレンの肩を叩く。
「うん。でも、まだスタートラインに立っただけだよ。」
アレンは笑いながら肩をさする。
「まあな! けど、今日くらいは喜ばせろよ!」
カイルは両手を上げて伸びをする。
新たな学園生活への幕が、今、開かれたーー。
そんな彼らの様子を、少し離れた学園の高台から見下ろす三つの影があった。
――そこに3人の男女が立っていた。
淡藤色の長髪を持つ生徒会長、イリス・ヴォルトレイスは静かに試験の様子を振り返っていた。
その隣で、副会長のレオン・ファーヴェルは眼鏡を押し上げながら、腕を組んで考え込んでいる。
「ふむ……特待生ラナ・アクエリウス。飛び級で進学してくるなんてやりますね。」
その言葉を遮るように、もう一人の副会長、ミリア・グレイスフィールドが大きく身を乗り出した。
「ねえねえ、レオン、あの子たち面白そうじゃない!? とくに茶髪の子、派手にやってたよねぇ!」
「ミリア、近い……。」
レオンは顔をしかめて、一歩下がる。
「いいじゃん別に! それよりさ、隣の子って魔法なしであの動きでしょ? めちゃくちゃすごくない!」
「確かに、剣技は洗練されていたな。」
レオンが顎に手を当てる。
「うーん、でも地味だよねぇ。もっとこう、ババーン!って派手なのが見たかったなぁ!」
「お前は戦技試験を何だと思っているんだ……。」
レオンが呆れたようにため息をつくが、ミリアは気にせずニヤリと笑う。
「ね、イリス会長はどう思う?」
イリスは風に揺れる髪を指で払いながら、アレンたちを見つめたまま小さく笑った。
「悪くないわ。特にアレン・ヴァミリオン……。彼がどこまでやれるか、興味がある。」
「おお~!これは生徒会長のお気に入り候補ですかぁ?」
イリスは淡々と言うが、その眼差しには確かな興味が宿っていた。
レオンが小さく息をつきながら、眼鏡をクイッと上げる。
「どちらにせよ、いずれ我々と関わることになるでしょう。」
「ならさっそく絡んでみようよ!」
「落ち着け、おてんば副会長。」
そんなやり取りをしながら、生徒会の三人はアレンたちを見つめ続けていた――。