コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お疲れ様でーす」
名論永(めろな)はいつも通り、居酒屋「天神鳥の羽」に出勤する。
ワイヤレスイヤホンを外し、ケースを取り出してケースにしまう。
「お疲れ様でーす」
店長の神羽(じんう)が迎える。
「あれ?開店準備もう全部終わってる感じですか?」
「あ、はい。なんで着替えてきてもらって、のんびりしてもらって、あとは暖簾出して電気つけるだけですね」
「オッケーっす」
着替えてきてホールに出ると、ちょうど雪姫(ゆき)が出勤してきた。
「お疲れ様でーす」
ワイヤレスイヤホンを外す。
「おつぅ〜」
「お疲れ様でーす」
「お。ホールの準備もう終わってる」
「うん。キッチンもできる限りやっといた」
「どうしたんすか。明日雨っすか」
「失礼なやつだなぁ〜。ほれ。着替えてこい。開店時間までのんびりしよーぜー」
「うぃ〜」
ということで雪姫もエプロンをつけてホールに出てきた。
キッチンへ入ると食器類、そして冷蔵庫の中もしっかり整えられており
あとは包丁、まな板などを雪姫がいつも使う、使いやすい位置へ移動させるのみ。
「マジでどーしたんすか。明日雪っすか。槍っすか?」
「え。梨入須(ないず)オレのイメージどうなってん?一応オレこの店の店主ぞ?」
「そっかそっか」
「でも、マジでどうしたんですか?」
と名論永が改めて聞く。
「あぁ。いや実はね?今日の昼、新人さんの面接したんですよ」
「新人?」
「新人!?」
雪姫のほうが驚いていた。
「入れるんですか?」
「はい。ま、本当ならぎおちんがその役をやる予定だったんですけど
全然出てこないから、新人さんにシフト入ってもらって、めろさんと梨入須が休み取れるようにしようとね」
「なるほど」
「なるほど」
「そうそう」
雪姫がジーっと神羽を見て
「なに?」
「女?」
「あ、うん。女性」
「へぇ〜」
「女か」
なんか面白くなさそうな表情をしながらスマホをいじる雪姫。
「おいくつなんですか?」
「あぁ。えっとね20歳(ハタチ)っすね」
「若ぁ〜」
「ね」
「いやいや、店長も若いから」
とツッコむ名論永(めろな)。
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
「あ、一番歳近いの梨入須だから、仲良くなれると思うけど」
と神羽が雪姫を見る。
「おぉ〜」
雪姫は興味なさそうにスマホをいじりながら謎の感嘆の声をあげる。
「おぉ〜ってなんだ。おぉ〜って」
「え?あ、なんか言いました?」
スマホから顔を上げ、神羽を見る雪姫。
「おいおい。聞いとけ?金城崩(かなしろほう)さんは梨入須と歳近いから、仲良くなれるんじゃねって話」
「あぁ。…え?悲しい旅行?なんて言いました?」
「誰が傷心旅行のことなんて話したよ」
「え。だって今、かな…なんとかって」
「金城崩ね?人名」
「あぁ人名。人名って歴史の勉強以来ですわ。聞いたの」
「たしかに。十年ぶりかな。聞いたの」
「オレも言ったのひさびさでしたわ」
と話が一段落
「いや違う違う!」
してないのを思い出す神羽。
「金城崩さん!金の城を崩すって書いて金城崩」
「あ、名前?…苗字か。苗字ですか」
「ですです。苗字苗字」
「変わった苗字ですね」
「ですよね?あ、ちな沖縄出身ですね」
「へぇ〜、沖縄。なおさら珍しい」
「ですよね」
「方言萌えか」
と呟く雪姫。
「しかもめっちゃいい子でした」
「おぉ」
「しかも可愛かったです」
「おぉ〜」
盛り上がる名論永と神羽。
「可愛かった?可愛かったねぇ?」
と小声で呟きながら神羽をジト目で見る雪姫。その視線に気付き、雪姫のほうを見る神羽。
「どーした?」
と爽やか笑顔の神羽にドキッっとしてスマホに視線をズラし
「別にー?」
と誤魔化す雪姫。
「ま、ということで、お休みが取りやすくなるかも?って話です。あと新人さんが入りますというご報告」
「いつからですか?」
「今度の木曜からっすね。一応シフト的には月、火、木の週3」
と言いながら指を3本立てる神羽(じんう)。
「週3か。なるほど」
「いいねぇ〜バイトはお気楽で」
と呟きながらスマホをいじる雪姫。
「ま、そんな感じで。あ、そうだ。一応ホールのことを教えるのはめろさんにお願いして
キッチンはもちろん梨入須(ないず)にお願いする」
「オッケーっす」
「えぇ〜。キッチンにも入るんすか?」
「えぇ〜とはなんだよ、えぇ〜とは。沖縄出身で沖縄料理も作れるっていうから作ってもらおうと」
「おぉ!沖縄料理!いいですね!食べたことないけど」
「ないんかい」
と軽くコケる神羽。
「沖縄料理ねぇ?…今ならスマホでレシピ見れば作れるっての」
と呟きながら検索エンジンHoogleの検索欄に
「沖縄料理 レシピ」と入れて検索し、レシピを眺める雪姫。
「で、沖縄料理、できたらメニューに入れようかなと」
「いいですね」
「はぁ〜ん」
という話をしながら開店時間までくつろぎ
開店時間がきたら暖簾を出し、看板と提灯の灯りをつけた。
いつも通り、開店すぐにはお客さんは来ず
しばらくしたらちらほらとお客さんが入ってきて店内の賑わい始めた。
「おぉ!奥樽家(オタルゲ)さん!お疲れ様です!」
「お疲れ様ぁ〜」
「カウンター空いてるんでどうぞ」
「どうも」
「先におしぼりっす」
「どうもぉ〜」
と神羽がおしぼりを渡す。名論永はグラスに水を入れる。
「どうぞ」
「あぁ。ありがとう。名論永くんも明るくなったね」
「それは髪色の話ですか?」
と神羽が笑って言う。
「それもそうだけど雰囲気というか、もね?」
「やっぱり!?そう思いますよね?」
となぜか名論永本人よりも嬉しそうに身を乗り出す神羽。
「なんで神羽くんが嬉しそうなのさ。あ、とりあえずビールお願い」
「うっす」
神羽はジョッキにビールを注ぐ。名論永は他のお客さんに料理を運んだりして
一旦落ち着いたので、カウンター内で神羽とお客さんと喋ることに。
「あ!そうだ!奥樽家さんにご紹介いただいた方、今日面接だったんですよ」
「おぉ!そうなんだ?どうだった?」
「めちゃくちゃいい子でしたよ」
「でしょ?採用?」
「採用です採用」
「おぉ〜。ありがとうございます」
「いえいえこちらこそありがとうございます。いい子を紹介していただいて」
2人で頭を下げ合う。
「いやぁ〜。ということはここで会えるのかぁ〜」
「会えますねぇ〜。今度の木曜からです」
「おぉ。木曜から」
「で、めろさんにいろいろ教えてもらおうかと」
と神羽が名論永の肩に手を置く。名論永は軽く頭を下げる。
「神羽くんが楽したいだけだったり?」
「お?バレました?」
と3人で笑う。時間も終電時間を過ぎ
お客さんがだいぶ減ったのでここでいつも通り、神羽、名論永、雪姫の3人で乾杯をした。
「そういえば沖縄出身なんですね、金城崩(かなしろほう)さん」
「そうそう。近所に住んでて朝とか帰りによく会ってね?
んで、歳的に娘みたいなもんでいろいろ話してたら沖縄出身だって聞いて
なおかつバイトも探してるって聞いたから、あ、じゃあこれは神羽くんのとこだなって」
「なんでそうなるんすか」
「いやぁ〜。ほら、神羽くんとこ全員いい子ばっかりじゃん?キッチンの梨入須(ないず)さんも含めて」
「えぇ〜?あいつは人見知りの陰湿マンですよ?」
と言うとキッチンの暖簾の下から足を出し、神羽の足が蹴られる。
「イテっ」
「うふふ。やっぱ3人は仲良いね?」
「ま。仲は良いですね」
「あ、そういえばもう1人いたね?…あぁ、淡田くんか」
「あぁ。おぉ、ぎおちんのことよく覚えてましたね。デブ症(出不精)なのに」
「レアキャラだからこそ覚えてたね。あととびきり派手だしね」
「まあたしかに。でも今はめろさんのほうが派手ですけどね」
「いやいやいや。淡田くんのほうが派手でしょ」
と自分のほうがレアな髪色だということを自覚していない名論永。
「「いやいやいや」」
声を揃えて言う。キッチンの雪姫にも聞こえており
「いやいやいや」
とスマホを見ながら一人で呟いていた。
「空色のほうが派手ですって」
「なんか、神羽くんと名論永くんと淡田くん。髪色だけでいったら信号機みたいだね」
雪姫の頭の中に名論永が右、神羽が真ん中、銀同馬(ギオマ)が左の
信号機の丸いランプの中に3人の顔が入った絵が思い浮かぶ。
「ふっ」
一人でキッチンで笑う雪姫。
「ま、ぎおちんが一番危険ですけどね」
「じゃあなおさら性格的にも合ってるんじゃない?名論永くんは優しいお兄さん
神羽くんはちょっとやんちゃだけど常識人。淡田くんは危険な子」
「たしかに」
「たしかに」
「たしかに」
納得する神羽、名論永、雪姫。そんな感じで閉店時間になり
暖簾を店内にしまい、看板と提灯の灯りを消し
テーブルの拭き掃除、調味料の補充、食器類を洗ったりしてお店を出る。
「本日もお疲れ様でしたぁ〜」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「んじゃ、めろさん、今度の木曜からですけど、新人さんの教育、お願いします。
ま、教育なんてそんな、あれですけどね?そんな難しいこと教えるわけでもないですけど」
「そうですね。ま、できるだけ」
「頑張ってみるよぉ〜?やれるだけぇ〜」
「頑張ってみるよぉ〜?世代じゃないよね?」
「いや、好きですよ?てか歌に世代とかあります?」
「お。店長いいこと言うぅ〜」
「いや、漆慕(うるし)くんが言ってたんだけどね。
歌は世代を越えて愛され、年齢が違っても繋がれるものだって」
「カッコよ」
「イケメンかよ」
「ま。我ら世代のアイドルだから。漆慕くんは。オレら後輩の中にも漆慕くんが好きな女子いたし」
「さすがホスト」
と言う名論永に頷く雪姫。
「んじゃ、めろさん、お疲れっした!また今日よろしくお願いします!」
「うっす。お疲れ様でしたー。こちらこそ今日もよろしく。あ、梨入須(ないず)さんもお疲れ様」
「うす。めろさんお疲れ様でした。また」
「うん。また」
と言って名論永は神羽と雪姫と別れた。神羽はいつも通り雪姫を家まで送るが
「なに?なんかプリプリしてる?」
といつもよりどこかプリプリしている雪姫に気づく。
「ん?別にー?なんでもないっすけど」
「あぁ、そお?」
しかし
気のせいか
と気にせずに家まで送り届ける。
「んじゃ、梨入須(ないず)。お疲れ。また今日もよろしくな!」
「…。ん。おつかれーす。またー」
とマンションのエントランスに入っていく雪姫の後ろ姿を見ながら
んん〜。プリプリしてるよな?…気のせいなのか?
あ!はいはい。女の子の日ってやつね。なるほどなるほど。
触れられたくないから「別に?」って沢尻エ○カ状態だったんだ。
ははぁ〜ん?それに気づけるオレってやっぱイケメンだなぁ〜
と家に帰っていった。家に帰った名論永は着替えてパソコンを起動させて小説を書き始める。
めざめのテレビの占いを見てから眠りにつく。ベッドの中で
新人さんか。…20歳(ハタチ)だっけ?若ぇ〜。話合うかな。
「セクハラ!」とか「パワハラ!」とかになんないように気をつけなきゃ
と思いながら眠りについた。