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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「お~~~!」


3人はニーニルの町中にある、商店街へとやってきた。

沢山の店が建ち並び、店の上には看板が浮かんでいる。


(建物の上でクルクル回ってるのって看板だよな? あっちの建物の前には火柱立ってるけど、あれで肉焼いてないか? うわ、あっちにはホタルみたいな光が……なんだあれ!? あ、あっちにも!)


どれも前の世界では見た事のない光景。アリエッタにとって現実味の無い街並みは、少女の口を大きく開けさせていた。


「アリエッタったら、ビックリしちゃってるね」

「森の中にはこんな光景は無いのよ。私も小さい頃に初めてファナリアに来た時は驚いたのよ」

「まぁそうだよね。あたしも初めてラスィーテに行った時は、驚きの連続だったし」


2人が話している『ファナリア』と『ラスィーテ』とは、それぞれの出身地であり、まったく別の世界リージョンである。

『ファナリア』は今現在住んでいるこの町『ニーニル』があるリージョンであり、『魔法と探究者のリージョン』と呼ばれている。

パフィの出身地である『ラスィーテ』とは本来繋がりは無く、言い方を変えればお互いが『異世界』同士になる。

さらに、アリエッタがいた森も、『グラウレスタ』というリージョンにあり、そちらは未開の危険なリージョンとして、調査が進められていた。

そして、そういった知られざるリージョンを調査する人々が、パフィ達『シーカー』である。


「アリエッタに似合う服って、やっぱりフリフリのすっごい可愛いやつだよね!」

「確かに似合いそうなのよ。でもシンプルなのも捨てがたいと思うのよ」

(もしかしてここってお店なのか? なんかジュースっぽいの置いてある)

「下着もちっちゃいリボンついてるのがいいと思わない?」

「同感なのよ。私達は色々試して、アリエッタが似合う服を知る必要があるのよ」


2人はシーカーとして、調をする気満々だった。

歩きながら街並みに浮かれて、なんとなく店に連れてこられたアリエッタは……


「みゅ……みゅーぜ? ぱひー!?」(何すんの!? なんで脱がす……ひっ、ここもしかして服屋!? なんでお店のお姉さん達まで変な手つきで近づいてくるのさ!? 僕はこのシャツしか着てないから脱がされたら……いやあああああ!!)


なんと『一時休業』という札を出し鍵をかけた店の中で、大人のお姉さん達に囲まれ、次々に服を着せられていく。


「こちらの下着なんかお似合いですよ!」

「髪が銀なので、色はどれも似合いますね。より取り見取りで羨ましいです!」

「あ、見るのよミューゼ! スカートが短すぎるかなと思ったけど、犯罪的な可愛さなのよ!」

「キャー! この子可愛すぎますわ! ちょっとスケッチするわね! 新作のアイディアが溢れてくるわ!」

「アリエッタ次これ着ましょ!」

「あー…うー」


お店の中はお祭り騒ぎになっていた。

その中心で、着せ替え人形になっているアリエッタは、ひたすら服を着せられては脱がされ、自分ではどうする事も出来ずに、変な声を出しながら目を回していた。


(ひえぇぇ……これいつ終わるの……)


なんとなく服を選んでもらってると察しているアリエッタは、おとなしく玩具になるしかない。

何も分からない今の自分が生きるには、ミューゼとパフィほごしゃに従うしかないのだ。

大量に並んでいる店の服の、およそ半分を着せられたところで、なんだか満足気な店員一同とミューゼとパフィが購入する服について話し合い始める。

疲れ切ったアリエッタは、ミューゼの膝の上で、ミューゼが気に入ったフリフリの服を着せられてぐったりしていた。


「うふふ、アリエッタ可愛い♡」

(おわった……燃え尽きた……この服なんだか魔法少女みたいだなぁ……)


短いフリルスカートに、いろんなところにリボンがついている、なかなかメルヘンな服だが、アリエッタは普通に着こなせている。それは本人にとって幸運なのか不運なのか。


「それじゃあ、今の予算は2000フリカだから、これとこれと……」

「あ、これとそれ、あとこの服はオマケにつけておきますわね。店長である私を含めた店員全員で長い間楽しませていただきましたもの。ついでに安くしておきますわ。新しい服のイメージも湧いてきましたし、それに……」


店長の女性は、ちょっと申し訳なさそうにアリエッタを見て、


「夢中になり過ぎて、可哀想な事になっちゃっていますし。よろしければ住所を教えてください。新作が出来たらサンプルとしてお届けしますわ」

「まぁそういう事なら、長い間頑張ったあの子への報酬として、ありがたく頂いておくのよ」

「あと申し遅れました。私はこの『フラウリージェ』の店長、ノエラと申します。今後も是非よろしくお願い致しますわ」


アリエッタの頑張りは無駄ではなかった。安くなった上に服の相談先まで出来たパフィは、ホクホク顔で荷物を持って店を出た。ミューゼもアリエッタを抱いたまま出ると、外はもうすっかり昼になっていた。


「さて、どこかで食べるのよ。頑張ったアリエッタには甘い物でもごちそうしてあげたいのよ」

「そうね、ごめんねアリエッタ。よしよし」

(うぅ……おなかすいた……)




続いてたどり着いたのは、屋台が並んでテーブルが沢山置いてある場所。席に着いたアリエッタは、キョロキョロと見渡している。


(なんだかフードコートみたいだ。メニューとか分からないけど、美味しそうな匂いがするなー)


ここは屋台エリア。好きな店で好きな物を買って、テーブルについて食べる、まさに前世のフードコート。

パフィが選んできたランチセットを美味しそうに平らげ、その後に追加で買ってきたケーキを3人で仲良く食べた。


「あらら、クリームがほっぺに付いちゃってるよ」

「ずいぶん美味しそうに食べてたのよ。甘い物も大好きみたいなのよ」

「いつかラスィーテに連れていってあげたいなぁ……ビックリするだろうなぁ」

「楽しみだけど、まずは人の生活に慣れさせてあげたいのよ」


パフィの計画では、アリエッタを衣食住に慣れさせる事と、言葉を覚えさせる事が最優先事項となっている。ただ、どうやるかは決めかねていた。


「そうね、でもこの子の好きな事は分かったし、次は炭筆と紙を買いにいきましょう」


すっかり元気になったアリエッタと手を繋いで、次にやってきたのは事務品店。

紙と筆は文字を書く為の道具…という認識が根強い為、アリエッタの前世のような『文房具』という広い枠組みは存在していない。売っているのは紙と炭筆を中心に、木を削ったペンや羽ペン、そして黒いインクだけである。

絵自体は存在していたが、お金をかけてまで描くものではなく、子供の遊びという認識だった。

しかし、アリエッタの絵に魅せられてしまった2人にとっては、もはや放ってはおけない技能となっている。

店に入ったアリエッタは、陳列されている紙とペン類に心を躍らせた。


(うおぉー! 白い紙だ! どうみても植物紙だ! あっちはペンとインク……なるほど、鉛筆とインクをつけるタイプのペンがあるのか。なるほどなるほど……)


炭筆を知らないアリエッタにとって、これは鉛筆である。言葉を覚えたら『炭筆』と呼ぶ事にはなるが。


(毛筆とか他の色は無いのか。文化が無いのか店に無いだけかは分からないけど……)


そんな真剣なアリエッタを見つめるミューゼ達。店員だけは訝し気に眺めている。


「あんな子供が紙とか持ってどうするんだい? 文字はちゃんと書けるのかい?」


事務用品を扱う店としては当然の反応である。


「字どころか言葉も分からないのよ。でもあの子には必要だと思うのよ」

「は? 言葉もって、じゃあ紙なんて何に使うんだい?」

「絵を描いてもらうんですよ」


そう言って、杖からアリエッタの絵を取り出して見せた。


「…………なんじゃこりゃあああああ~~~!?」

(わっ、なんだ!?)


突然の叫び声に、ビックリしてちょっと飛び上がるアリエッタ。

店員は目を白黒させながら、絵とミューゼを見比べている。


「これが絵!? 滅茶苦茶ソックリじゃないか! 新しい魔法じゃないのか!?」

「違うのよ。あの子が紙と炭筆だけで描いたのよ。同じ部屋にいてその光景を見てるから、間違い無いのよ」


店員さんが驚くのも無理は無い……というか、その気持ちは2人はよく分かっている。午前中に自分達も同じ心境だったからだ。


「みゅーぜ!? ぱひー!?」

「あ、ごめん驚いた? 何でもないからねー、何か欲しい物あったかな?」


ミューゼは絵を杖に仕舞い、アリエッタと一緒に商品の方へと向かった。


「という訳で、紙と炭筆が欲しいのよ。他のはあの子が欲しがったら考えるのよ」

「……分かったよ、オイラの負けだ。凄いもの見せてもらった礼だ、少し安くしてやるよ」


アリエッタが欲しがったのは、木ペンとインクだった。

使いこなせるかが分からなかった為、1セットだけ購入する事にして、あとは炭筆と紙を一束ずつ購入した。


「もしまた買いに来る時は、出来上がった絵を見せてくれ。そしたら安くするからさ」


ちょっと得した3人は、大分荷物が増えた事もあり、一旦家に帰る事にした。特に服が多い。

少し重くて大変だったが、アリエッタと手を繋ぎたい2人は、頑張ってそれぞれ片手で持って行った。


(えっと、筆記用具は分からないけど、服は僕のだよね、サイズ的に。なんで両手繋がれてるんだろう……)


2人とも嬉しそうな顔をしているせいで、手を振りほどけない。『荷物持つよ』という意味の言葉も分からないアリエッタは、家に着くまでちょっぴり困った顔で歩き続けたのだった。

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