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それでは、
どうぞっ。
ーーーーー
宿舎に戻る頃には、時計の針は日付をまたいでいた。
「今日はここまでにしましょう。」
スタッフの言葉に全員が小さく息をつき、それぞれ部屋へ向かう。
來亜も「お疲れさまでした。」と頭を下げて廊下を歩き始めた。
部屋のドアを開けようとしたところで、後ろから軽い足音が近づく。
🩵「來亜。」
振り返ると、柚葉がノートを一冊抱えて立っていた。
🩵「これ、スタッフさんから渡された?」
🤍「まだだけど、何?」
柚葉は表紙を見せる。
飾り気のない、白いリングノートだった。
🩵「メンバー同士で交換日記をしてみましょうって。組み合わせはくじ引きで決まったみたい。」
ページをめくると、一枚目に名前が書かれている。
『柚葉 ↔ 來亜』
🤍「私たちなんだ。」
🩵「そうみたい。」
顔を見合わせて笑ったものの、少しだけ照れくさい。
普段から話さないわけではない。
でも、わざわざ文章にして気持ちを書くほど近いかと言われれば、まだそんな距離でもなかった。
🤍「何を書けばいいんだろう。」
🤍「今日食べたものとかでもいいのかな。」
🩵「それだけで終わったら一日で飽きそう。」
二人で笑う。
ーーーーー
その夜。
來亜は机に向かい、ペンを持ったまま十分近く止まっていた。
『柚葉へ。
正直、何を書けばいいか分からないです。
でも、今日レッスンで最後まで笑顔だったのを見て、すごいなと思いました。
私は疲れると顔に出ちゃうので、少し見習いたいです。
來亜。』
短い文章を書き終え、ノートを閉じる。
翌日、練習室の隅に置いておくと、夕方には返ってきていた。
『來亜へ。
私も何を書けばいいか悩みました。
でも、來亜が水を飲むたびに「ありがとう」って言うのが好きです。
小さいことだけど、ちゃんと言葉にする人なんだなって思っています。
あと、昨日の笑顔は半分くらい意地でした。
本当は足が限界でした。
柚葉』
思わず吹き出してしまう。
🤍「半分くらい意地って。」
そんな言葉を選ぶ人だったのか。
文章になるだけで、知っているはずの相手が少し違って見えた。
ーーーーー
数日後。
宿舎で目が覚めると、時計は午前二時を回っていた。
喉が渇き、水を飲みに部屋を出る。
静まり返った廊下を歩いていると、屋上へ続く扉がわずかに開いていることに気づいた。
風が入り込み、カタン、と小さく鳴る。
ゆっくり押して外へ出ると、ベンチに座る人影があった。
🤍「……柚葉?」
呼ぶと、その肩が少しだけ跳ねた。
🩵「あ、來亜。」
夜風に前髪を揺らしながら、小さく笑う。
🤍「眠れなかった?」
🩵「少しだけ。」
🤍「私も。」
來亜は隣に腰掛けた。
空には星がいくつか見える。
都会の空だから多くはない。それでも十分きれいだった。
しばらく沈黙が続く。
無理に話題を探す必要はなくて、ただ同じ景色を眺めているだけの時間が流れる。
やがて柚葉がぽつりと口を開いた。
🩵「交換日記って、不思議。」
🤍「どうして?」
🩵「直接言えないことを書けるから。」
🤍「例えば?」
柚葉は少し考えて、それから首を横に振った。
🩵「それは、まだノートに書きます。」
🤍「ずるい。」
🩵「約束です。」
二人で笑った。
翌朝、机の上に置かれたノートを開くと、新しい文字が増えていた。
『昨日、屋上で一緒に星を見られて嬉しかったです。
静かな時間なのに、ひとりじゃない感じがしました。
今度眠れない日があったら、また屋上に行くかもしれません。
その時來亜も起きていたら、隣に座ってください。
柚葉。』
來亜はその文章を何度も読み返し、ゆっくりペンを走らせる。
返事は短く、それでも迷いなく書いた。
『もちろん。
でも、先に来ていたら場所だけは取っておいてね。
來亜』
ノートを閉じた瞬間、ほんの少しだけ胸が温かくなった。
まだ始まったばかりの交換日記。
そして、誰にも知られていない屋上での時間。
その二つが、これから二人の距離を少しずつ変えていくことを、この時はまだ知らなかった。
next.
コメント
1件
あおいです🌷 「半分くらい意地でした」って告白、すごく好きです。ああいう、直接じゃ言いにくい本音をそっと差し出せるのが交換日記の素敵なところですよね。屋上で隣に腰掛けるシーンの距離感の描き方が繊細で、静かな夜にふたりだけの秘密が生まれる感じが胸に沁みました。これからどんな言葉が重なっていくのか、本当に楽しみです🤍