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それでは、
どうぞっ。
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交換日記は思っていたより長く続いた。
最初は「今日はレッスンが大変だった」「ご飯がおいしかった」といった何気ない話ばかりだった。
気づけばページの余白まで文字で埋まるようになっていた。
ある日の夜、來亜はノートを開いて少し驚く。
いつも整った字を書く柚葉の文字が、その日に限って少しだけ乱れていた。
『今日はうまく笑えませんでした。
鏡を見るたびに、自分だけ遅れている気がしてしまいます。
周りはみんなできているように見えるのに、私だけ置いていかれる気がして、少し苦しくなりました。
こんなこと、直接は言えないのでここだけの秘密です。』
來亜は何度も読み返した。
普段の柚葉は弱音を見せない。
失敗しても「次があります」と笑って、疲れていても最後まで練習を続ける人だった。
だからこそ、その文章は胸に残った。
ペンを持ち、ゆっくり返事を書く。
『秘密にしてくれてありがとう。
でも、私から見た柚葉は置いていかれてなんかいません。
私だって毎日不安になります。
みんなが自信を持っているように見える日ほど、自分だけ足りない気がします。
だから、一人だけじゃないです。』
ノートを閉じたあとも、眠気は来なかった。
なんとなく屋上へ向かう。
扉を開けると、予想した通り先客がいた。
ベンチに座った柚葉が空を見上げている。
🩵「來亜。」
🤍「やっぱりいた。」
🩵「来る気がしていました。」
來亜は隣に腰を下ろした。
夜風が静かに吹き抜ける。
しばらくして柚葉がぽつりと話し始めた。
🩵「ノート、読みました。」
🤍「うん。」
🩵「少し安心しました。」
🤍「私も本当のことを書いたから。」
柚葉は小さく笑う。
🩵「來亜でも不安になるんですね。」
🤍「もちろん。むしろ毎日。」
🩵「意外です。」
🤍「意外ってひどい。」
二人で笑い合う。
笑ったあと、沈黙が落ちても気まずさはなかった。
屋上では無理に会話を続けなくてもいい。
それが二人だけの暗黙のルールになっていた。
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数日後。
練習中、來亜が振りを間違えた。
音楽が止まり、先生から修正が入る。
ほんの数秒の出来事だったのに、胸の奥が重くなった。
休憩時間になっても気持ちは晴れない。
鏡の前で立ち尽くしていると、隣に水のペットボトルが差し出された。
🩵「はい。」
柚葉だった。
🤍「ありがとう。」
🩵「來亜。」
🤍「うん?」
🩵「この前ノートに書いてくれましたよね。一人だけじゃないって。」
來亜は顔を上げる。
柚葉は照れくさそうに続けた。
🩵「今度は私が言います。 來亜も一人じゃないです。」
短い言葉だった。
でも、その一言だけで肩の力が抜ける。
🤍「その言葉、返されるとは思わなかった。」
🩵「ちゃんと覚えていますから。」
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その日の夜。
交換日記には珍しく長い文章が残されていた。
『今日は少しだけ恩返しができた気がします。
來亜が私にくれた言葉を返しただけなのに、自分まで救われました。
最近思うんです。
眠れない夜が来ても、屋上に行けば誰かがいるかもしれないって。
そう思える場所があるだけで、不思議と怖くありません。
柚葉。』
來亜は静かに笑ってから、最後のページに一行だけ書き足した。
『次は待ち合わせなんてしなくてもいいね。
どちらかが眠れない夜は、きっと自然に会える気がするから。』
窓の外では、雲の切れ間から星がひとつだけ顔を出していた。
そしてその頃、別々の部屋にいる二人は、同じ空を見上げながら、同じことを考えていた。
交換日記が終わっても、この時間だけは終わらなければいいのに。
next.
コメント
1件
いやあ、もうこのエピソード、すごく沁みました……! 交換日記で弱音を打ち明ける柚葉さんの文字の乱れとか、來亜がそれを何度も読み返すところ、すごくリアルで。そして屋上で「一人じゃない」って言葉を返し合うシーン、心がじんわり温かくなりました。お互いを思いやる気持ちが静かに伝わってきて、続きが氣になって仕方ないです。素敵な話をありがとうございます🌷