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第二部
第一章 変わらない朝、少しだけ変わる気持ち
四月。
結城家の庭には、淡い桜の花びらが舞っていた。
「……にぃに。」
朝七時。
いつものように千景が千弥の部屋へ入る。
「おはよう、ちーちゃん。」
「おはよぉ……。」
くぅちゃんを抱き締めたまま、ゆっくりと目を開ける千弥。
「熱は?」
「ない。」
「測ってみようね。」
毎朝変わらない健康チェック。
体温。
喉。
呼吸。
顔色。
脈。
最後に額へ優しく手を当てる。
「今日も元気。」
「ごうかく?」
「もちろん。」
「やったぁ。」
その笑顔を見るたびに、千景も自然と笑顔になる。
大学へ送る車の中。
「今日は暖かいね。」
「うん。」
「帰りも会社に来る?」
「もちろん。」
「待ってる。」
「えへへ。」
大学へ到着すると、千景はいつものように見送った。
「無理しない。」
「うん。」
「眠くなったら休む。」
「うん。」
「帰り道も気を付けて。」
「いってきます!」
千弥は手を振りながら大学へ向かう。
その後ろ姿を見えなくなるまで見送るのも、千景の日課だった。
会社へ着くと、遥が笑って迎えた。
「今日もちーちゃん、元気だった?」
「うん。」
「それはよかった。」
二人は並んで社長室へ向かう。
歩幅も自然と同じ。
肩が触れそうな距離。
社員たちは相変わらず微笑ましく見送っていた。
「社長と遥さん、本当に仲良しですよね。」
「夫婦って言われても信じる。」
「でも本人たちは気付いてない。」
そんな噂が流れていることも、二人は知らない。
昼休み。
𝐀𝐘𝐀_

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遥が社長室へ入ると、千景はスマートフォンを見ながら微笑んでいた。
「ちか?」
「見て。」
画面には千弥から届いた写真。
『おひる。ハンバーグだった。』
くぅちゃんとハンバーグが並んだ一枚だった。
「可愛い。」
「うん。」
「毎日送ってくれるんだ。」
「大学へ行くようになってから毎日。」
遥は優しく笑う。
「嬉しい?」
「もちろん。」
「保存してる?」
「全部。」
「全部?」
「一枚も消せない。」
遥は思わず吹き出した。
「ちからしいね。」
午後。
会議が終わり、二人で資料を確認していた時だった。
遥が高い棚の資料を取ろうとして背伸びをする。
「あ。」
あと少し届かない。
すると。
「はい。」
千景が後ろから自然に資料を取った。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
その距離は、ほんの数十センチ。
社員が見れば思わず息を止めるほど近かった。
しかし二人は全く気にしていない。
「これ。」
「ありがとう。」
「次はこっち。」
「うん。」
まるで昔からそうしてきたように、息がぴったりだった。
夕方。
受付から連絡が入る。
『社長、ちーちゃんがお見えです。』
「迎えに行こう。」
「うん。」
二人は同時に立ち上がる。
エレベーターの前。
「にぃに!」
「ちーちゃん。」
千景は優しく抱きしめる。
「今日も頑張った?」
「うん!」
「はるにぃ!」
「おかえり。」
「ただいま!」
三人で社長室へ戻る途中、千弥は二人の手をそれぞれ握った。
左手は千景。
右手は遥。
「ふたりとも、あったかい。」
「ありがとう。」
遥が笑う。
その時だった。
千弥が不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ。」
「ん?」
「にぃにとはるにぃ。」
「どうした?」
「ずっとなかよし?」
千景と遥は顔を見合わせる。
「高校生の頃からね。」
遥が答える。
「けんかしたことない?」
「あるよ。」
「え?」
千弥は驚いた顔になる。
「でもね。」
千景が優しく笑う。
「次の日には仲直りしてた。」
「なんで?」
「大切な友達だから。」
遥はその言葉に少しだけ照れたように笑う。
「……そうだね。」
千弥はしばらく二人を見比べる。
そして、にっこり笑った。
「よかった。」
「どうして?」
「だって。」
少しだけ照れながら、小さな声で言う。
「ふたりが、いっしょにわらってるの、すき。」
その一言に、二人は言葉を失う。
遥は千景を見た。
千景も遥を見ていた。
互いの視線が重なる。
ほんの数秒。
何気ない時間だったはずなのに、どこか胸が温かくなる。
その気持ちの名前を、まだ二人は知らない。
ただ一つ分かったことがある。
これからも、この笑顔を守っていきたい。
それだけは、お互い同じ気持ちだった。
ーーー
第二部 第一章終わり。
第二部 第二章へ続く。
コメント
2件
第二部第一章をお読みいただき誠にありがとうございます!お時間あれば是非続きもお読みください
【感想】 おかえりなさい、第二部。やっぱりこの空気感、落ち着きます。千景の「全部」「一枚も消せない」って台詞、彼の優しい執着がにじんでてじんと来ました。それに、千弥が「ふたりが一緒に笑ってるの好き」って言った場面、胸がぎゅっとなりました。まだ名前のつかない気持ちが、少しずつ育っていく予感がしますね。第二章も楽しみです。