ティナとフェルが日本での夜をまったり過ごしている頃、場所は軌道上で待機しているプラネット号のブリッジ。管制席に腰かけたティリスは様々な端末を弄りながら地球の動向を探っていた。彼女が特に関心を寄せているのは、事故現場からティナのサンプルを回収した某国諜報員達の動きである。
この時代全ての端末がインターネットに繋がっている。
もちろん諜報部員達は万が一に備えて最高級のセキュリティを搭載した端末を携帯。またハッキング対策として重要な情報は、インターネットに接続していないオフラインの端末に保存している。
だが、アリアにはまるで効果を発揮しなかった。オフラインの端末に保存されている場合は、アードの解析魔法を組み込んだ特殊回線を用いて無理矢理ハッキングしてしまったのである。オフラインであろうと、これを使われれば地球の技術ではもはや防ぎようが無かったのである。
「で、火事場泥棒を働いたアオムシ達は?」
『地方の漁港へ向かっています。解析したところ、漁船に見せかけた工作船で日本を離れる計画です』
「へぇ、小賢しいこと考えるね。日本の備えは?」
『海洋警察に当たる海上保安庁の巡視船がパトロールを実施していますが、警備ルートが露見している可能性があります』
「つまり、現地当局に任せたらアオムシに逃げられる可能性があるんだね?」
『取り逃がす確率は70%』
「まあパトロールのスケジュールを知られてたら無理はないかぁ」
『速やかな介入を推奨します。悪用される可能性が高く、ティナの献身に泥を塗る結果となる恐れがあります』
「それを許すつもりはないけど……さてどうしようかなぁ。日本政府の動きは?」
『ティナからサンプルを提供されたことを公表する用意をしています。また、合衆国も把握しているかと』
「じゃあ問題ないね、アオムシ退治といこうか」
『軌道上からの攻撃を提案します。海上にて工作船諸とも消失させることが可能です』
「いやいや、地球人を殺したりはしないよ。工作船が海へ出たら教えて。そして、証拠も纏めておいてね」
『畏まりました』
深夜、日本の地方にある寂れた漁港。かつては賑わいを見せていたこの場所も時代の変化と共に寂れ、付近の漁村は最後の家族が引き払って以降完全にゴーストタウンと化していた。
それ故に人目が無く、悪巧みをする人間達にとって好都合な場所となっていた。もちろん警察機構もその辺りをしっかりと認識しており、定期的なパトロールを強化して警戒していた。しかし、その巡回時間やルートを把握されてしまえば当局の目を避けるのは難しくない。
時期が来るまで潜伏し、脱出直前に予め用意されていたEMP兵器によって監視カメラやドローンが無力化。異常に気付いた当局が駆け付けるまでに国を出る計画が立てられ準備されていた。
予定には無かったが異星人のサンプルを入手した某国のエージェント達は直ちに日本を離れることを選択。確保したチームも漁村へたどり着き、潜伏していたチームと合流。それと同時にドローン等を無力化した。
『チャーリーよりアルファ、セーフハウスへ到着。これより現地チームと共に脱出する』
『アルファよりチャーリー、君達の成果は歴史に名を残す快挙となるだろう』
『ブラボー5よりチャーリー3、勲章どころの騒ぎじゃない、銅像が立つぞ』
『チャーリー3よりブラボー5、その時は記念撮影を頼むよ』
軽口を叩きながらも黒尽くめの男達は漁船に見せかけた工作船に乗り込み、夜の海へ出港した。幸いにして今夜は新月であり、夜の海上には満天の星空以外に光源は存在しない。
注意すべきはレーダーであるが、工作船にはステルス処理が施されている。完璧なものは存在しないが、通常のレーダー程度ならば誤魔化せるだろう。
なにより領海を出てしまえば後はやり様はある。漁船とは思えない高速で夜の海上をひた走る。発見されるのを防ぐために明かりは灯さず、レーダーも使わずに事前に入力していたナビゲーションに従い夜の海を航海する。
入念に行った準備が功を奏して、彼らは日本側に探知されること無く領海を抜けていく。排他的経済水域を抜けるまでは警戒が必要ではあるが、夜が明けるまでの勝負だ。
しかし、彼らは失念していた。日本より遥かに厄介な相手によって遥か宇宙から監視されていることを。
「領海を抜けた?」
『はい、ターゲットの日本領海からの離脱を確認しました』
「ご苦労様。じゃ、やろっか。トラクタービーム照射、同時に隠蔽魔法を付与」
『トラクタービーム、照射します』
トラクタービームとは特殊なエネルギー波で対象を捕獲して引き寄せるものであり、目に見えず技術力が足りない地球側は観測すら出来ないと言う代物である。
軌道上のプラネット号から照射されたトラクタービームは航海中の工作船を捕まえる。その瞬間工作船は強い衝撃と共に停止した。
「なっ!?なんだ!?なにが起きている!?」
「わからない!船が止まった!」
「まさか暗礁に乗り上げたのか!?」
「そんなはずはない!入念に……なんだこれは!?」
次に彼らを襲ったのは浮遊感であり、百トン以上もある工作船が宙に浮かび上がったのである。
「なにが起きた!?」
「浮いてる!?なにかに引っ張られているぞ!」
「そんな馬鹿な!?」
「まさか、宇宙人共が!?」
「ちぃっ!飛び降りろ!宇宙人のモルモットにされるぞ!」
「ダメです!目に見えない壁のようなものがあります!船を離れられません!」
宙へ浮き上がった工作船には同時に隠蔽魔法が付与されてレーダーなどはもちろん外部から視認出来ないようにされた。
「やはり宇宙人は侵略者だったか!」
「奴らの狙いはなんだ!?」
「我々が回収したサンプルだろう。みんな、落ち着け。昼間、あの宇宙人は怪我をした。血を流すならば殺せる」
他国へ潜入工作を行うエージェントだけあって彼らは直ぐに落ち着き、隠されていた銃を持ち周囲を警戒していた。そして。
「ふふふふっ……」
船内に幼い少女の笑い声が響き、皆が振り向いたその先に。
「悪い子は居ねぇかぁ?ってね☆」
星明かりに照らされたティリスが船尾に立ち、彼らを見下ろしていた。
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