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29 ◇神々しく見える元妻の姿
交際していた独身の頃もそして結婚してからも、温子の仕事を
している様子など見たことがなかった。
家で見ていた同じ人とは、思えなかった。
天職のように白衣姿の温子は神々しく輝いて見えた。
「おはようございます」
「やぁ、仕事中に申し訳ないね」
「何かありました?」
「いやその、今頃になって情けないけど謝りたくてね、あの時のこと」
「もういいんじゃないですか。
終わったことだし。
許せるかって言われるとそれは難しいことだけど……
今更しようがないでしょ?
全ては今更な出来事になってしまっているのだから。
時間はあの時には巻き戻せないのだし、謝罪されても
私の失くしたモノは返ってこないわ」
私が哲司さんを見つめてスラスラと自分の今の気持ちを伝えると
彼はいつの間にか涙目になっていた。
何かを言いたがっているのは何となく分かったので私は静かに
彼の次の言葉を待った。
「温子……さん、元に、元に戻れないかな?」
「離婚届を提示してきたのは……直に手渡してきたのは妹だけど
あなたのサインがしてあったし、判子もついてあったわ。
あれってあの時のあなたの意志でしょ?
例え凛子に催促さたとしても」
「流されてしまい、すごく後悔してる」
「凛子とのことはどうするの?
私とやり直したいなんて言ったらあの子発狂して、あなた
危ないんじゃないの? 」
「凛子ちゃんは、俺の事なんてもう感心ないよ」
「あんなに、あなたに執心してたのに?」
「ご両親と口論が続いて、今では家に帰って来なくなったよ」
「そうなの。
……ってことは、凛子が以前のようにあなたに執着して結婚しようとしたら、
あなたはここに来ることもなく流されて凛子と再婚したんじゃないの?
私の馬鹿両親も何故か姉の夫を寝取るような妹の肩を持つし。
あの時……皆で寄ってたかって、居られると邪魔な私だけを弾き
出し、自分たちにとって居心地の良い場所を確保したんだったわよね。
―――― シナリオ風 ―――― おまけ ―――――――
〇応接室
温子「おはようございます」
哲司(気まずげに)「やぁ、仕事中に申し訳ないね」
温子「何かありました?」
哲司
「いやその……今頃になって情けないけど……謝りたくてね、あの時のこと」
温子
「もういいんじゃないですか。終わったことだし。
許せるかって言われると、それは難しいことだけど……
今更しようがないでしょ?
全ては“今更”な出来事になってしまっているのだから。
時間はあの時には巻き戻せないし、謝罪されても私の失くしたモノは返って
こないのだし」
(哲司・涙目)
温子(静かに)「……どうぞ、お話の続きを」
哲司(しぼり出すように)
「温子……さん、元に……元に戻れないかな?」
温子
「離婚届を提示してきたのは妹だったけど、あなたのサインと判子はついてあった。
あれはあなたの意思だったのでしょう? たとえ凛子に催促されたとしても」
哲司「流されてしまって……すごく後悔してる」
温子
「凛子とのことはどうするの?
私とやり直したいなんて言ったら、あの子……発狂してあなた、危ないんじゃ
ないの?」
哲司(ため息まじりに)
「……凛子ちゃんは、もう俺のことなんて興味ないよ」
温子(驚きつつ)「あんなにあなたに執着していたのに?」
哲司「ご両親との口論が続いて、今じゃ家にも帰ってこない」
温子「そう……。
……ということは、凛子がまたあなたに執着してきて結婚しようと言ったら、
あなたは今回もまた流されて、私の元には来なかったんでしょうね」
「あの時……皆で寄ってたかって私だけを弾き出し、
自分たちにとって居心地の良い“家”を確保したんだったわよね」
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