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ここは世界の隠れた存在ー隠世。
個性豊かな妖怪、人間、神たちが住む世界。
そんな彼らたちの日常を、すこし、眺めてみよう。
「彩。何回言ったらわかるんだよ。まったく。いい加減館に近づいてくる奴らにいたずらするのやめろって…」
「もー、霜月。それ私何回も聞いてるってば。別にいいでしょ?妖怪はいたずらしないと生きていけませーん。これから死にたくなるほど長い間私は生きるんだから暇になるでしょ」
森の奥。怪しい館の前で、二人の男女が言い合い(?)をしていた。
男ー少年の方の名は霜月。隠世を取り締まる組織の一人であり、雪女一族の少年。
女ー少女の方は彩。いたずら好きの妖怪であり、姿は子供だか不老不死。本人も何年生きたかわからないらしい。
「あれぇー?お二人さん、また喧嘩ですか?相変わらず仲良いですよねぇ」
「あら、鞠。と…」
「あ、あの…邪魔するつもりはなかったんです…ここら辺を通ったら、話し声が聞こえたので…」
「珍しい。外の世界の子じゃない。こんなところまで来たの?」
「迷子になっちゃって…」
「それなら僕が送っていく」
「え、いいんですか…?」
彼女は霧崎里奈。隠世とは対照的な世界ー現世から迷い込んできた少女。と、いうのは最近のことで、まだこの世界の者たちにはあまり知られていない。
「待って。里奈。お茶でも飲んでかない?鞠、用意してもらってもいいかしら?」
「もちろんですっ!さーさー、みなさんお入りください」
「え、あ…」
みんな、鞠に押されて入ってゆく。
鞠の本名は、雛野鞠。彩の弟子で魔女見習い。人形を操る魔法が得意である。
「あ、でも…私、今日琴葉と会う約束してるから…ごめんなさい」
「あら、そうなの」
里奈はてってけともっと山奥の妖狐の里森へと走って行った。
「そういえば…霜月。川の方が暴走していると話をきいたのだけれど…」
「くらげだろう」
「私水苦手だからさぁ〜大事になる前に退治してくれない?」
「あのな…」
「私も行くからさぁ」
「わかった…これも一応仕事だしな…妖怪同士の争いは妖怪で解決してくれよ…」
「霜月だって妖怪でしょ?」
「…」
一方。山奥。妖狐の里森付近。
「琴葉〜来たよ〜って、あれ?」
誰もいない。森自体が静かだった。
「どうしたのー?」
「里奈ぁ〜聞いてよぉ!」
「琴葉!?どうしたの?びしょ濡れじゃない!」
「それがね…」
昨日の晩のこと。
「みんな逃げろぉ〜っ!」
「なんか川の水が…!!やばいんですけど!?」
突然妖狐の里森付近に水が押し寄せてきた。皆、もうすこし山のほうへと逃げてゆく。
「ってのがあってー、今はここは琴葉とお兄ちゃんしかいないわけ。もー、やばかったんだから」
「そうなんだ…で、それって…」
「くらげよね?」
「ひゃあっ!」
気づくと、里奈と琴葉の後ろに、彩と霜月がいた。
「え、えぇっ!?いつのまに…全然気配しなかった…」
「そりゃあね。里奈の能力も、あと100年ぐらいすれば私の気配感じられるかもだけど」
「うぅ〜…感じられないとびっくりします…」
「じゃ、まずは水辺に行かないと、だな」
くらげというのは、海月くらげという海の神のこと。海の神は当然、水がある場所にしか行けない。
水がない場所に行くと、干からびてしまうのだ。からっからに。
「…霜月」
「なんだよ」
「私そういえば今日本の整理があるんだったー。かなり量あるからさぁ。帰るねー。あとはよろしくー」
「…はあ」
そう言い残すと、彩は消えた。
「すごい…これがあの、瞬間移動魔法ってやつですか!?いいなぁ」
「そーだねー。じゃ、霜月、里奈、行こっ」
「うん」「わかった」
三人は、川の方へと歩いて行った。川は妖狐の里森からすこし離れたところにある。
隠世の地形は、大体山の方に妖怪がたくさん住み、ここからもっと離れたところにも、いろいろあるのだが、それはまた、次のお話で。
「いざとなったら私の能力で里奈のこと守ってあげる!」
「わあ嬉しいありがとう!私も守れるようになりたいな、琴葉のこと」
「えっへへ〜」
琴葉の耳としっぽがゆらゆら揺れた。琴葉ー山吹琴葉は、妖狐である。だが、まだ人間に化けるのが半人前らしく、完全には隠しきれない。
このように妖怪が妖怪の部分を隠すのは、昔の人間の教えなのか、それとも彼らが人間に怖がられないためや、好きでやっているのかーわからない。
「里奈、琴葉。もうすぐ」
「わかってる」
ザッバーン
「!!」
「里奈、危ない!」
琴葉が波にのまれそうなところを助ける。琴葉は運動神経が抜群であり、とても身軽な動きをする。
「ここの川、こんなに水あったっけ…まるで海じゃん!」
そう、今この川はくらげの活動によってとても水が増えているのだ。そして、中央に浮いているのは。
「ほう。妖狐に人間に雪女族か。なんのようだ。邪魔をするな」
「これ以上被害を増やすのはやめて!彩さんも困ってた!」
「ん?彩がか?おかしいな…」
「なにが?」
「いや何も。お前たち。儂の邪魔をするのなら、攻撃するぞ。逃げるなら今のうちだ」
波につられて、くらげの長いおさげのツインテールが揺らぐ。黄色の目が光る。
「しょうがないな。これも仕事だし…僕が相手になる。里奈は帰れ。巻き込まれるぞ」
「でも…!」
「琴葉が守るもん!」
「…」
三人とも、攻撃体制にかかる。
「えいやっ!発火の火!」
琴葉が発火の札を投げつける。だが、小さな紙は水に濡れ、溶けてゆく。
「凍らせてしまえばいい」
霜月が波を凍らせる。一気に空気が冷たくなる。これが雪女族の能力だ。
「ふん。割って仕舞えばいい。氷など。海賊船波殺し!」
とてつもない威力の波が襲ってくる。その突風に、三人は飛ばされそうになる。
「う…」
「里奈!」
「この程度か。だが、儂の計画を阻止しようとしたことだけは褒めてやろう。それだけだ。仕舞いだ」
「霜月さん!手を貸してください!」
「ええ?ああ…」
里奈の手が、白い霜月の腕を掴む。次の瞬間。
里奈の黒くて艶やかな髪がなびき、先端から銀色へと変わった。銀色ー雪女族の証。
「どういうことだ?あの娘、人間ではないのか?」
「…ぐ…!」
(この力は5分ほどしかもたないんだ!早くしないと…!)
「えーいやっ!」
あちらこちらに粉雪が舞い、一気に冷たくなった。
「な…!」
くらげはカチンコチンに凍らされ、動きを制された。
「まだやりますか?」
「ぐ…くそ…」
「くらげ。計画とはなんのことだ」
「さあ。あいつはまだ始めるのには早いと言っている」
「あいつ…?まあいい」
里奈がくらげからふっと目を逸らす。すると、氷も溶けた。
「あぁんもぉ〜!自慢の毛並みがぐちゃぐちゃ!彩んとこ言って直してもらお〜」
「あ、僕も行く。その前に、里奈を…」
「自分で帰れます。大丈夫」
「そう?琴葉が送ってこっか?」
「ううん。疲れたでしょ?私も疲れちゃった。あ」
「?」
「霜月さん、ありがとう。あんなすごい力持ってたんだ!」
「…どうも」
「じゃーねー」
琴葉は里奈が山を降りるところを、見えなくなるまでみていた。いや、見えなくなってもずっと手を振っていた。
「さてと。行くか」
「うん」
「あれぇ?二人ともどーしたのぉ?髪ボッサボサじゃん。直してあげるからあがってよ」
「もうすぐ掃除が終わるところなんですよ〜」
鞠の人形が櫛を持ってきた。もう一人の人形は、椅子をだしてくる。
「彩。ちょっと来てくれないか?」
「ん?なーに?」
霜月と彩は、すこし奥の方に行った。
「くらげにあんなことさせたのも、お前だろう?一体何たくらんでるんだ?」
「…」
「答え…」
「企んでるなんて人聞きの悪い。私はただ、長年の夢を叶えようとしているだけ。でも、教えるにはまだ頃合いじゃないの。わかった?霜月」
彩は背筋が凍るような紅い瞳を光らせてそう言った。普通の人間なら恐怖でおかしくなるほどの。
「…わかった。もし仮に彩がそんなことをしても、僕が何度だって止める。止めてみせる」
「…そ。かっこいいじゃん。髪ボサボサだけど。今直すから。せっかくの銀髪が台無しよ」
二人は鞠たちの方へ戻り、身なりを整えた後、残りの本の整理を手伝い、帰った。
「ふぅーん。思ったより面白そうじゃん。楽しませてよ」
続く
あとがき(?)
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