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今日の私は、神聖なる神に仕える聖女として、どうにか役目を果たした。
面倒な神殿のミサに参加し、幼い少女たちの聖歌に耳を傾けながら、神へ祈りを捧げる。
聖女として求められる振る舞いを意識するたびに、自分ではない誰かを演じているような感覚に陥った。
そんな儀式が終わる頃には、すっかり夜も更けていた。
「レティシア、あなた、宴会にはその格好で参加するの?」
神殿が用意した馬車の中で、私とレティシアは向かい合うように席に着いていた。
ふと、彼女が未だに地味な祭服を身にまとっていることに気づき、私は思ったままの疑問を口にした。
「はい。これまでも、ずっと祭服で参加していましたよ」
「そうだったかしら……」
正直なところ、いつも自分のことで精一杯で、レティシアがどんな格好をしていたかなんて覚えていない。
それに、彼女は見かけなど気にかけなくとも、誰からも愛され、常に人々の注目を集めていた。わざわざ着飾らずとも、彼女には人を惹きつける何かがあったのだ。
「聖女として皇宮へ行くときも、貴族のお屋敷へ伺うときも、この格好です。フレイア様と違って、私は貴族ではなく、平民上がりの聖女に過ぎませんから。ドレスのような高価なものは持っていないんです」
「そんなもの、大司祭や周りのシスターたちに言えば、すぐに用意できるでしょう?」
「それはそうですが……きっと皆さん、私がそんなものを欲しがったと知れば、がっかりするはずです」
「そう」
触れられたくないところだったのかもしれない。
あからさまに顔を曇らせたレティシアを前に、私はそれ以上何も言わず、顔を背けて窓の外へと視線を移した。
この馬車が向かっているのは、皇宮だ。
到着した私たちを待っているのは、聖祭の前夜祭として催される、皇室主催のパーティーだった。
神殿で長ったらしい儀式を終えたばかりだというのに、今度は皇族や貴族たちに囲まれ、前夜祭を祝う宴に参加しなければならない。
やがて皇宮に到着し、私たちはすでに皇族や貴族たちで賑わう会場へと足を踏み入れた。
一斉に、好奇に満ちた視線が私たちへと向けられる。
この国の聖女が二人揃うのは一年のうち、今日と明日の二日間だけ。
その珍しさもあってか、会場中の人々が私たちの姿を目で追っていた。
無数の視線には、押しつぶされそうなほどの圧があった。
そのほとんどが好意的なものではないことを、私は誰よりもよく知っている。
ワインレッドの絨毯の上を進み、私とレティシアは揃って皇帝陛下の座る玉座の前までたどり着くと、足を引いて礼を取った。
「聖女フレイア、聖女レティシア。この度は皇宮まで遥々足を運んでくれたこと、感謝する」
「とんでもございません、皇帝陛下」
「と、とんでもございません」
皇帝陛下は、皇族特有の金色の髪をなびかせ、親しみと威厳を兼ね備えた笑みを浮かべていた。
聖女として、こうした場でどのように振る舞うのが正しいのか。未だに確かな答えは見つからない。それでも、少なくとも皇帝陛下に対して失礼のないよう、言葉や所作には細心の注意を払わなければならなかった。
「そなたに会うのはしばらくぶりだな。また昔のように、頻繁に顔を見せに来てくれれば嬉しいのだが……」
「光栄です、皇帝陛下」
あなたにとって、今の私はどういう存在なのだろう。
聖女? 公爵夫人? それとも、息子の元婚約者?
私とエリックを誰よりも結婚させたがっていた張本人を前に、私は何食わぬ顔で、作り上げた笑みを向けた。
・ ୨୧ ┈┈┈ ⋯ ┈┈┈ ୨୧ ・
幸いなことに、あの面倒な皇太子は、まだ会場に到着していないようだった。
もしこの場にいて、私が自分のところへ挨拶に来なかったと知れば、「挨拶にも来ないとは、聖女失格だ」などと、また面倒な言いがかりをつけてきたに違いない。
ただでさえ、朝から聖女と呼ばれ続けることにうんざりしているのだ。
そのうえ、私の地雷の根源ともいえる皇太子の顔まで見なければならないと思うと、それだけで頭が痛くなった。
でも、この醜い女と顔を合わせるくらいなら、まだ彼の相手をしている方がマシだったかもしれない。
ああ、神よ。あなたなんて大嫌いよ。
「ようやく会えたわね。何度も遊びに来るように言ったのに、返事すらくれないなんてひどいじゃない」
目元を細め、歪んだ笑みを浮かべる女。
「わたくしの可愛い娘」
私を可愛い娘と呼ぶことのできる人間は、ただ一人しかいない。
それなのに、この女は……いったいどこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだろう。
「……ロズレイン公爵夫人」
父の再婚相手、リリアーナ。
私の母、ルディア・ロズレインが亡くなった後、父であるイゼク・ロズレインと再婚した女だ。
つまり、形式上は私の継母にあたる。
けれど私は、この女を母と認めたことなど一度もない。
それどころか、無礼にも私を娘と呼ぶことさえ許した覚えはなかった。
「夫人もご存じの通り、公爵夫人というものは忙しいのです。やらなくてはならないことがあまりに多くて……」
「あら、それはそうね。でも、実家に少し顔を見せることくらい、不可能ではないでしょう? 我が家には美しい花草が咲き誇っているのだから、たまの気休めにでもなるはずよ」
柔らかな笑みを浮かべながら、リリアーナは私の目の前まで歩み寄った。
そして私の肩へ手を置くと、声を潜めて囁いた。
「ロズレイン家の庭園の美しさは、他の誰でもない……フレイア、あなたが一番よく知っているでしょう?」
この世で私が最も嫌いなもの。
何度も夢に現れては、私を苦しめる場所。
母が自ら命を絶った場所。
それが、ロズレイン公爵家の庭園だった。
美しい花々と青々とした草木、涼やかな音を立てて流れる噴水。
かつての私は、その庭園を誰よりも愛していた。けれど今では、何よりも憎んでいる場所だ。
それが、どうしたというのだろう。
あなたがそのことを知っていたからといって、いったい何になる? 私の母になりたいなどと、少しも思っていないくせに。
顔を合わせるたび、こうして挑発めいた言葉を口にするこの女の唇を、今すぐ引き裂いてやりたかった。
ロズレイン公爵家。私の実家は確かに公爵家ではあるけれど、アルスハイン公爵家とは比べものにならなかった。
大神殿から送られる援助金と、アルスハイン公爵家からの支援がなければ、父の浪費癖のせいで、とっくに借金まみれになり、家そのものが潰れていたことだろう。
だからこそ、私が生まれたばかりの頃から、父は皇室との縁を望んでいた。
「さすが、ロズレイン公爵夫人ですね。ただ、機会がなかっただけですわ。すぐにまた、夫と共に伺います」
「あら、それは楽しみね。あなたたち夫婦がうまくやっているようで、安心しているの。夫婦は運命共同体のようなもの。愛し合い、いつでも互いを想い合っていないといけないわ」
「夫人の仰るとおりです」
「そうだわ。イゼクにも会いたいでしょう? 一緒にフレイアに会いに行きましょうと言ったのだけれど、彼ったら、古くからの友人たちに会えたとかで長話をしていたから、一人で抜けてきたのよ」
あの男は、何が何でも私に会うことを避けたいのだろう。
父親としての愛情を期待したことなどないけれど、こうも分かりやすいと、いっそ清々しい。
「あなたがわたくしを快く思っていないことは、よく分かっているわ。けれど、わたくしはあなたを本当の娘のように思っているのよ。聖女としてではなく、あなた自身のことを愛しているわ」
会場の中心で、周囲の人間にも聞こえるように声を張り上げ、リリアーナは熱心にそう語った。
私はその顔を、決して笑みを絶やすことなく見つめ続ける。
彼女は今この瞬間、周囲の人々に自分と私が良好な関係にあると思わせたいのだろう。
母が亡くなってから、わずか一か月で父がリリアーナと再婚したことは社交界でも知られている。
私たちの仲が良好でないことも周囲の人間はとうに察していた。
かつては、愛人だったリリアーナを正妻に迎えるために、父が母を暗殺したのではないかという噂まで流れたことがある。
もちろん、母が自ら命を絶った瞬間を目の当たりにした私にとっては、愚かな噂にすぎないと理解している。
……直接、手を下してはいないというだけの話だけれど。
「夫人のおっしゃることは正しいですわ。美しいものがすべてだとするなら、私の父は、そのすべてを手にしていましたから」
「……何を」
「私の母は、すべてを持ち合わせた人でした。美しく聡明で、侯爵家の出。帝国で一番の花だったと言っても過言ではないでしょう。父には、そんな女性を妻に迎えるだけの見る目があった。私はそう理解しております」
先ほどまで柔らかく微笑んでいたリリアーナの表情から、さっきまでの余裕が消えている。
生意気にも私の肩に手を置く女の手を払うと、明るく笑いながら、できる限り優しく告げた。
「ですから、私はお父様が心配なのです。かつてはあれほど優れた目をお持ちだったのに……今では、すっかり衰えてしまったようですから。そうは思いませんか? 夫人」
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