TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

夫とだけはしたくありません

一覧ページ

「夫とだけはしたくありません」のメインビジュアル

夫とだけはしたくありません

54 - 第54話 雅史が変わった?

2024年11月18日

シェアするシェアする
報告する

「ね、おとーたん、サッカーしようよ」


「そうだな、今度の休みにやろうな」


病室に戻ると、圭太と雅史が何やら指切りをしていた。


「なにを約束したの?」


「ん?今度の休みに圭太とサッカーするって約束」


ニコニコしている圭太を見て、雅史に釘を刺す。


「そうやって約束しても、今までほとんど守られてないでしょ?圭太からの信用まで無くすから、できない約束はしないでよ」


「わかってる、でも、これからはキチンと圭太との約束は守るから」


ポリポリと頭をかきながら、バツが悪そうな雅史の言い方だった。


「私とも約束してほしいことがあるんだけど?」


「養育費のことなら、なんとかするし慰謝料も待って貰えば頑張るから」


「そうじゃなくて、ね……」


私はずっと持っていた離婚届を雅史の前に広げた。


私が書くところはもう記入してある。


「……ちゃんと書くよ」


「それでね、条件なんだけど」


「……うん」


私が何かとんでもない条件でも言い出すと想像しているのか、雅史の顔が緊張している。


「離婚しても、今のままで暮らしていいかな?」


「え?」


「慰謝料もなくて養育費も怪しいから、引っ越すのも無理な気がするんだよね。圭太に貧しい暮らしはさせたくないし。私と雅史は離婚して法律上は他人になるけど、圭太の父親と母親としてあの家にそのまま住みたいのよ」


「えっと、それは……」


「離婚すれば、雅史が他の誰かとどんなことをしても私には関係ないから、好きにすればいいわ。でも圭太の前ではちゃんと父親でいると約束して欲しいの。私は、夫としてのあなたはいらない、ただ圭太の父親としていてくれればいい」


「……」


「私もできるだけ早くちゃんとした仕事を見つけて、あの家を出ていくようにするから。それまではこのままで」


「……わかった、そうだな。そうしてくれると俺も助かる。まとまったお金が貯まるまで、それで辛抱してくれ」


「それでね、もうそろそろうちに帰ってきてよ、圭太が寂しがってるから」


「いいのか?」


「その方が、雅史もいいんじゃない?お義母さんも大変だろうし」


「ありがとう、そうするよ。あ、身の回りのことは俺のことは俺がするから」


「やったことないから、あまりあてにはしないけど。私が手を抜いても文句はなしだからね、法律上は他人になるんだから」


「うん」


ちゃんと言いつけを守りますみたいな顔つきの雅史を見て、ちょっとおかしかった。


「圭太、おとうさんね、お仕事終わったから病院を退院したら帰ってくるって。よかったね」


ソファで本を読んでいた圭太に声をかけた。


「ほんと?おとーたん、ほんと?」


「あー、また一緒に風呂入ろうな」


「うん、やった!」


両手を上げてはしゃいでいる圭太を見ていたら、これが今の一番の答えだと感じた。


次の日、雅史は退院したその足で実家に行き、荷物を持って私と圭太がいる家に戻ってきた。


私は久しぶりに家族3人分の夕食を準備する。


あんなに、雅史のための家事はしたくないと思ってたのに、雅史の好きなものばかりを作ってしまい、自分でも笑えた。


「お?美味そうだな。杏奈の手料理は久しぶりだ」


「あら、帰りが遅かったり付き合いで飲んできたりするからでしょ?」


「あー、でもこれからは無駄な金は使わない、そんな時間も体力もないよ」


「おとーたん、ご飯食べたらお風呂だよ」


圭太の手には水鉄砲があった。


「わかった。だからちゃんとお母さんのご飯を食べてからだぞ」


何日振りだろうか、家族3人で食卓を囲むのは。


これが当たり前の景色だったはずなのに、いつからかすれ違って歪《いびつ》な家族になっていた。


_____いや、離婚しても生活を変えない方が歪かな?




「少しのぼせたかな?大丈夫か?圭太」


「ほら、髪を乾かしたらベッドに行くよ」


「はーい」


赤い顔でニコニコしている圭太の髪を、バスタオルでそっと拭いてあげると、私の顔を覗き込んできた。


「おかーたん、うれしい?」


「え?どうして?」


「おかーたん、わらってるよ」


知らないうちに、顔がほころんでいたのだろう。


思い返せば、雅史の浮気がわかってからずっと、圭太の前でもしかめっつらをしていたのかもしれない。


「そうだね、うれしいね、お父さんと圭太がいるからね」


「ぼくもうれしい、おとーたん、いっしょにねようよ」


パジャマの裾を引っ張る圭太に、雅史も笑っている。


_____お父さんとしては、合格!


「わかったから。歯磨きしてからな。あ、杏奈、あとでちょっと……」


何か話があるのだろう。


「うん、わかった。その前にお風呂に入ってくるから、圭太をお願いね」



1人で入れるお風呂は、気持ちものびのびして体も芯からほぐれるようだ。


「あれ?1人でゆっくりのお風呂って、ものすごく久しぶりな気がするなぁ」


湯船でつい独り言が出る。


窓辺には水鉄砲とアヒルのおもちゃが並んでいた。





夫とだけはしたくありません

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚