「おはようございます」
武装探偵事務所。
ここが私が働く職場だ。扉の近くにいた事務員さんに挨拶をして、自分のデスクに荷物を置いた。周りを確認すると、普段は何時間も前に出社して仕事をしている先輩がいない。確認すると、どうやら大きな依頼があったようで外に出ているらしい。…もう1人の先輩は、またどこかでフラフラしているのだろう。
「すいません、佐野さん」
「はい」
「こちらの方から依頼が…」
事務員さんに声をかけられて振り返ると、気弱そうなサラリーマンが事務員さんの後ろに立っていた。依頼人のようだ。事務員さんに頼んで応接間のソファに座って貰い、自分はファイルなど必要な書類を用意した。ファイルを取るために席に戻った際、隣の席のファイルを盗み見れば「人喰い虎」の文字。なんだそりゃ。
「おまたせしました。今回担当させて頂く、佐野といいます」
「よ、よろしく、お願い、します」
サラリーマン風の男性からの依頼は「ならず者に奪われた、結婚指輪を取り返して欲しい」という物だ。昨晩の仕事帰り、路地裏を歩いていたところ数名のゴロツキに襲われて、見逃す代わりに指輪を奪われてしまったのだと言う。
「なるほど、それは災難でしたね。しかし、それならば警察に依頼する方がよいのでは?」
「いえ、実は指輪を奪った相手はポートマフィアの関係者のようで、不可思議な力があるようなんです」
「…!」
"ポートマフィア"
ヨコハマの闇を仕切る、非合法組織。
数多の傘下を抱え、密輸や薬物売買などを取り仕切る、一大組織である。
私も度々接触し、その度にトラブルに遭った。
心の中では「嫌だなぁ」と悪態をつきながらも、社員の多くが出張っている以上自分が出るしかないだろうと思い、顔を上げた。
「分かりました。ではまず、その現場まで案内して頂いてもよろしいですか?」
依頼人が一旦外に出たことを確認し、机に置いた鞄から”獲物”を取り出した。壊れぬよう、そっと確認して、外回り用の鞄に入れた。出入り口の側にある、各社員の名前が書かれた伝言板に「外回りに出ます 佐野」とだけ書き、外に出た。
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