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ささくれ
その一日は、妙に長かった。
雨は上がっていたけれど、空気はまだ重いまま残っている。
一軒家の中にいるのは、二人だけ。
大森元貴は落ち着かないまま、キッチンを一度見て、ため息をつく。
「……腹減った、」
返事を待つ前に、当然のようにコンビニに行こうとする。
財布だけ持って玄関へ向かう途中で、
「待って」
声と同時に、手首を軽く掴まれた。
振り返ると、そこにいたのは若井だった。
さっきまでのびしょ濡れはもうない。
髪は少し乾いていて、元貴の服を着ている。
元貴の表情が一気に険しくなる。
「……は?なんでその服着てんの」
低い声。
若井は一瞬だけ驚いた顔をするけど、すぐに答える。
「えっと、綾華が貸してくれて……」
綾華の名前が出る。
「乾くまでって言ってて」
元貴は途中からほとんど聞いていない。
「勝手に人の服着んなよ」
苛立ちがそのまま言葉になる。
若井は少し困ったように笑う。
「ごめん、すぐ返すから」
そのやり取りのまま、元貴は再びドアへ向かう。
「コンビニ行くから」
その瞬間、また手が伸びる。
今度は強くない。
引き止めるような、弱い力。
「……ちょっと待って」
若井が小さく言う。
「ご飯、作るよ」
元貴の足が止まる。
「は?」
「せっかくだし、あるもので作れると思うから」
その言葉に、元貴は一瞬黙る。
「いらない。」
即答。
でも若井は手を離さない。
押さえつけるわけじゃない、ただ“行かないでほしい”みたいな力。
結局、元貴はそのままキッチンへ戻る形になる。
数十分後。
食卓に料理が並ぶ。
派手じゃない。
でもちゃんと整っていて、
温かい匂いがしている。
若井は少し離れたところに立っている。
「……どうかな」
その声は控えめだった。
元貴は何も言わずに座る。
一口食べる。
普通に、いや、むしろちゃんと美味しい。
ちゃんと考えて作られている味だった。
でも元貴は、箸を止めないまま顔をしかめる。
「……美味くないんだけど」
そう言って、皿を少し押す。
そのまま立ち上がる。
そして、食べかけのまま皿を流しへ置く。
水を流す音だけが響く。
若井はその様子を見ていたけれど、何も言わない。
ただ、少しだけ目を伏せる。
「そっか」
その一言だけ。
怒りもしない。
責めもしない。
元貴は振り返らずにリビングへ戻る。
テレビをつける音がする。
画面だけが光る。
キッチンには、少し冷めた料理と、静かな若井だけが残る。
若井は小さく息を吐いて、皿を片付ける。
それでも、表情は崩れないまま。
ただ少しだけ、目の奥が静かだった。
コメント
2件
これはハピエンなのか、ハピエンを願いたい。森さんクズ系も好きです
見るの遅れた👀✨ うーん🤔上手くいくかな、この2人w大森さん相変わらずひねくれてますねwww