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#5
side omr
6月半ば。 梅雨の晴れ間。
教室は、文化祭の準備でいつもより少し浮ついた空気に包まれていた。
ガタガタと机を運ぶ音、笑い声、ツンとしたペンキの匂い。
その中で、俺はなるべく隅っこにいるようにして、看板の文字を書いていた。
できるだけ視線を合わせないようにしているのに、それでも気配で分かる。
…若井がこっちを見ているのが。
wki「大森」
名前を呼ばれて、筆先が止まる。
やっぱり来た、と思った瞬間、胸の奥がざわついた。
omr「…なに」
wki「最近、俺のこと避けてんの、なんで?」
omr「別に…避けてない」
嘘はすぐにバレるって分かってるけれど、言わずにはいられなかった。
wki「じゃあ、なんで話しかけると逃げるんだよ」
若井は少し強い声で言う。
心臓が跳ねて、体ごと後ずさった。
omr「もう、話しかけないで…頼むから」
本音が出そうになって、慌てて背を向けて歩き出そうとした。
でも_
wki「待てよ!」
若井の手が、俺の腕を掴んだ。
温かくて、でもしっかりした力で、簡単には振りほどけなかった。
wki「なんでだよ。理由言えって」
若井の声は、思ったより近くて真剣だった。
心臓の音がうるさいくらいに響いている。
omr「…言っても、お前は分かんないよ」
wki「分かんなかったら、教えてくれよ」
言葉が詰まる。
でも、もう逃げられないって思ったら、声が出た。
omr「……お前と話してるとこを陽キャの奴らに見られたら、イヤだったんだよ」
wki「は?」
omr「どうせ冷やかされるし、からかわれるし…。そんなの、恥ずかしいから、耐えられない」
情けなくて、顔を上げられなかった。
でも若井は_
wki「だから何?」
omr「…え?」
聞こえてきた声は、思ったより軽くて呆れてるようだった。
wki「そんなの、どうでもいいじゃん。俺はお前と話したいし、一緒に居たい」
omr「でも…」
wki「でも、じゃねぇよ」
若井は俺の腕を離さず、少しだけ引き寄せた。
そして、ニカッと笑って言った。
wki「お前が嫌いだって言うなら話しかけないけど、そうじゃないんだろ?」
息が詰まりそうになって、小さく頷くことしかできなかった。
omr「…嫌いじゃない。むしろ…また、一緒に居たい」
wki「なら決まりだな」
若井の声が、少し笑っているのが分かった。
文化祭の準備のざわめきの中で、その声だけがはっきり聞こえた。
俺達はまた、少しずつ隣に戻っていく。
それがたまらなく嬉しかった。
___
若井に「決まりだな」って言われた後も心臓のドキドキは全然収まらなかった。
でも、不思議と怖さよりも、あたたかい気持ちの方が大きくなっていった。
omr「じゃ、俺看板のとこ戻るけど」
何でもないフリして言ったのに、若井は「分かった」って言って、俺の袖をちょっとだけ引っ張った。
wki「俺も手伝う」
omr「え?」
wki「一緒にやったほうが早いだろ」
そう言われただけで、胸の奥が熱くなる。
今までだったら絶対に、誰かに見られたらどうしようって思ったはずなのに、今はそれより_
(また若井と隣で話せる)
それが嬉しくて、顔が少し熱くなるのを感じた。
若井は俺の横で筆を持ちながら、「ここもうちょい太いほうがよくね?」とか、「この色も混ぜてみない?」とか言ってくる。
最初は戸惑ったけど、少しずつ返事ができるように、なった。
omr「…なんか、若井って結構細かいんだな」
wki「そう?せっかくだし、ちゃんとやりたいじゃん」
若井が笑うと、教室のざわめきが少し遠くなる気がした。
気づけば、周りの視線もあまり気にならなくなっていた。
少し休憩しようって言われて、廊下に出た。
外の空気は思ったより涼しくて、火照った顔を冷ましてくれる。
wki「さっきのさ」
若井がポケットに手を入れて、ぽつりと言った。
wki「大森がそう思うのも仕方ないけど、俺は全然気にしてねーから」
omr「…うん」
wki「つーか、もし誰かになんか言われたら、俺がちゃん言い返すし」
その言い方があまりに自然で、本気で、また胸が熱くなる。
omr「…ありがと」
小さくしか言えなかったけれど、若井は「おう」って笑った。
___
あの日、逃げようとした俺の腕を掴んでくれた若井。
その手があったから、またここに戻ってこられた。
まだ全部の不安がなくなった訳じゃないけど_
それでも今は、若井の隣にいてもいいって思えるんだ。
今日から夏休み
課題が多すぎる