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そんな咲結の戸惑いを感じたのか、優茉はこう話をする。
「別におかしな事じゃないでしょ? ピンチの時に助けられたらちょっと良いなとか思うのは普通だよ。ただ、あの人ちょっと子供っぽそうな感じもするし、クールなタイプには見えないけど、いざという時には頼りになりそうだし、私は良いと思うけどな? 理想と違くても。一番は相手を見てどう感じるかじゃない?」
「……優茉」
「まぁまた会えるのかは分からないけど、短期間に頻繁に顔合わせてるなら、また会えるかもしれないし、気になるならあの人に目を向けるのも悪くないんじゃない?」
「……そっか、そうだよね」
優茉の言葉に納得した咲結は勢いよく席を立つと、
「咲結?」
「優茉、私、海堂さんの連絡先聞いてくる! 次会える保証もないから、聞いておきたい!」
「そっか。うん、行ってきな。行動あるのみだよ」
「ありがとう!」
優茉に見送られた咲結は急いで店を後にすると、朔太郎が歩いて行った方向へ走り出した。
「海堂さん!!」
店を出た咲結は懸命に走り、何とか朔太郎に追いついた。
「咲結? どうしたんだよ?」
息を切らせて追いかけて来た咲結に驚いた朔太郎が問い掛ける。
「あの……」
そこで咲結はふと思った。優茉に連絡先を聞いてくると言って出て来たものの、いきなりそんな事を言われても簡単には教えてくれないのではないかという事を。
「ん?」
「えっと……その……」
先程店を出る前の意気込みはどこへやら、いざ本人を前にすると何も言えなくなった咲結は言葉を濁すばかり。
(どうしよう……何て切り出せば……)
そう焦る咲結は咄嗟にある事を思い付く。
「あの、お礼! 二度も助けて貰ったし、昨日酷い事言っちゃったし、その……何かお礼をさせて欲しいんです!」
「礼? いや、別にいいって」
「駄目です! それじゃあ私の気が収まらないんです! 何かお礼をさせてください!」
「いや、でも……」
「あの、それじゃあご飯でもどうですか? 私が奢ります!」
「いや、子供に奢ってもらうとか出来ねぇし」
「そんなぁ……」
突然の咲結の提案に困る朔太郎。
しかし咲結は全く諦めそうに無く、このままではいつになっても終わらないと感じた彼は、
「それじゃあ、俺今すげー喉乾いてんだ、そこの自販機で何か買ってくれるか?」
「え? それじゃ、どこかお店に……」
「いや、悪いけどこの後予定あってゆっくりはしてられねぇんだ。だから、自販機で十分」
「……わかりました」
朔太郎の提案に若干納得のいかない咲結だったけれど時間が無いのでは仕方がないと、言われた通りすぐ側にあった自販機で朔太郎の飲みたいものを購入し、ついでに自分の分も買った。
「サンキューな」
咲結からコーラの缶を手渡された朔太郎はプルタブを開けると、勢いよく喉へ流し込んでいく。
どうやら本当に喉が乾いていたようで、良い飲みっぷりだった。
「……あの、海堂さん……」
しかし、どうにも納得のいっていない咲結の表情は晴れず、連絡先も聞けないでいる彼女は言葉を詰まらせたまま。
何か言いたい事があると直感してはいるもののそれが何なのか分からない朔太郎もまた、どうしようかと頭を悩ませていた。
「そういえば咲結、一緒に居た友達はどうしたんだよ?」
「え? あ、ちょっと用があるみたいで……帰る事になっちゃって……」
「ふーん? じゃあお前ももう帰るだけなのか?」
「は、はい」
「それじゃあ家まで送ってやるよ」
「え!?」
「車で来てるし、ここでまたお前を一人にすると変な奴に絡まれそうだしさ、危なっかしいし心配だから送ってくよ」
そんな朔太郎の言葉を聞いた咲結は驚きながらも、まだ一緒に居られるという喜びが大きく、笑顔になった。
「あの、それじゃあお言葉に甘えて、よろしくお願いします」
「よし、じゃあ行くか」
「はい」
ひとまず車へ向かう事になった二人は未だぎこちない雰囲気のまま、駐車場へと歩いて行った。
「咲結はどの辺に住んでるんだ?」
「あ、M町です」
「ああ、その辺か。俺が行く所の途中だから丁度いいな」
「そうなんですね」
車へ乗り込み自宅のある町名を答えると、朔太郎の行先の途中だと分かった咲結は安堵する。
(良かった、遠回りにならないみたいで)
そんな事を思いながらシートベルトを締め、改めて今の状況を考えてみると、咲結の鼓動は徐々に速まりつつあった。
(っていうか、これって凄く緊張するシチュエーション……)
これまで異性と交際経験の無い咲結は当然家族や親戚以外の異性が運転する車の助手席になんか乗ることも無いので、今この状況にこの上なく緊張していたのだ。
(しかも、高級車だよね、これ……)
車の種類に疎い咲結にはイマイチ分からないものの、乗っている車が高そうな物である事だけは想像がついていた。
「どうした? 何だか静かだな」
「え? そ、そうですかね?」
「もしかして緊張してるのか? もっと楽にしてねぇと疲れるぞ」
「は、はい。その、何て言うか、お父さん以外の男の人が運転する車に乗る事なんて無いから……何だか不思議な気分で……」
「へぇ?」
緊張する咲結とは対照的に朔太郎は全く動じていない。
その事から女慣れしているのかもと思う咲結の心中はすごく複雑なものだった。