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不人気の詐欺 。 後編
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◇ワンクッション◇
キャプション必読。
こちらはとある戦/争.屋実況者様のキャラをお借りした二次創作です。
ご本人様とは一切関係ございません。
・作品内に登場するすべては誹謗中傷/政治的プロパガンダの目的で作られたものではありません。
・公共機関では読まないようにご配慮下さい。
・あくまで一つの読み物としての世界観をお楽しみください。
・作品/注意書きを読んだ上での内容や解釈違いなどといった誹謗中傷は受け付けません。
・流血表現、暴力の表現、い〇めの表現などがありますのでご注意ください。
※三章辺りから更にグロくなりますので自衛ください。
るかさん。の『不人気詐欺 。 』という小説の続きです。
るかさん。は私のフォロー欄から飛べます。
るかさん。の小説を先にお読み頂いた方が、この小説をより良く楽しめると思います。
一章『1P』
二章『2P、3P』
幕間『4P』
三章『5P、6P』
四章『7P』
エピローグ『8P』
おまけ『9P』
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1P
一章
『だれか、助けて…。』
そう、誰かが声を漏らした。
己の頬を伝う、熱い雫は何なのか、自分ではまるで見当がつかない。
だが、自分は泣いているのだろうか、そのような予想だけはついた。
声は出ておらず、みっともなく嗚咽を漏らし、涙をポロポロと流す。
喉からはい出る音は、感情と言う名の蓋に閉じられ、声は出ず、代わりに出てくるのは息をする掠れた音。
泣くことを知らない幼子が、初めて泣いたような、そんな泣き方で、自分は哭く。
ひくっしゃくっ、と鼻水がズルズルと出てきて、鼻からは息を吸えず、視界がぼやけ、床をただ這い蹲る他ままならない。
その上、一生の不覚、とも言いたげに、この場所にはもうすぐ人がやって来る。
そう、俺がインカムのスイッチを押し、嗚咽を聞かせてしまったからだ。
俺は一体何がしたいのだろうか。
インカムをONにしたにも、自分が今置かれている状況を知られたくないし、助けて欲しいとも思わない。
何故ならば、彼らに迷惑は掛けられないから。
大急ぎで目の涙を拭い、まつ毛とまつ毛が擦れて痛い。
鼻水はまだズルズルと止まらず、ポタポタと床に落つる。
その床に落ちた涙と鼻汁を持っていたハンカチで拭き、鼻をすする。
ぎゅいっ、と鼻汁が上に上がる感覚がした。
この散らばったままの書類も何とか片付け、ホッチキスで止める。
今、この場に足を踏み込んは、今や使われていない倉庫。
元々は、書類に使われるはずの資料などが積み込まれていたので、現在の資料室に積み忘れた資料を取りに来ることがちょくちょくあったのだ。
なので、『いやー、あっこの資料室になかったからさぁ、こっちの資料取りに来てん!あれ、みんな揃ってどしたん?』とでも言えば、誤魔化せるはず。
そこに、いつも通りの笑顔を張り付けば。
くしゅんっ!、とクシャミをひとつ漏らし、適当な資料を見繕う。
使われていなかったせいか、至る所にホコリや虫の死骸が落ちており、ハエが集っている。
ダンボールには虫食い後があり、ボロボロだ。
それだけで、掃除がされていなかったのだと、様子が窺えた。
そのせいで、くしゃみを漏らしたのだろう。
ドタドタドタッ。
──────と、そこに。
複数の足音が聞こえた。
恐らくは、俺のインカムに反応し、廊下に設置されている監視カメラを確認した為だろう。
残念な事に、この倉庫は今や監視カメラは設置されていない。
倉庫が使われていたのは、監視カメラなんてものが開発されるまえだったのと、もう使われていないからか、防犯の意味は無いと判断した為だろう。
だから、なんとか嘘を吐けば、誤魔化されてくれるはず。
上手く騙されてね。
「シャオロンっっっ!!!」
すくっ、と足を立たせる。
背筋がピン、と伸びる。
手には大量の書類と資料を。
あくまでも、『資料がいる報告書で、資料室へ取りに行ったが、なかったのでこの倉庫に資料を取りに来たシャオロン』として。
一般兵がいたのは、なんとか誤魔化して。
「あれ?みんなどしたん?そんな大人数で」
「しかもなんかめっちゃ汗かいとるやん!『廊下は走ったらアカン!』とか言ってくるくせに、トントンやって走っとるやん!」
「やーいやーい!」
「うっさいわ!てか、お前はなんともないんか?」
「えっ?なに?」
「あ?」
「お前……なんかあったんとちゃうんか?」
「だから、なにが?」
「俺は任務帰りで、報告書を作りに来たんやけど……」
「そんで資料いるやつやったから資料室行ったけど、そこになかったからここに取りに来たんやけど?」
「ほな、一般兵はどこいってん!」
「入るとき、連れとったやんけ!」
「え?一般兵?」
「アイツらまだ新米やったから、『資料室にない資料ってどうすればええすか?』って聞いてきたから、ここに連れてきたん」
「そんでアイツらはもう帰ったで」
「やってお前……インカムで『だれか、助けて … 』って言うとったやん!」
「俺がぁ?ないない!たとえ隕石が降ってもないな!!!」
「てか、それこそお前らの方がおかしいやん!」
「ロボロが俺の事心配するなんて、解釈不一致や!!!ヤバい、鳥肌たってきた……」
「…………なんもないんやったらええけど……」
「じゃあ、あの声は誰やったんや……?」
「シャオロンはインカムとか聞いてない?」
「ん?俺はずっと資料漁ってたからな!さっきインカムにそんな声が入ってたことなんて全く気づかんかったわ!」
「ほーか……」
「ほんま誰やったんや……?」
「もしかして幽霊とか……?」
「怖いこと言うなや!!!!!」
心霊や幽霊、そういう類が苦手なメンバーに容赦なくそんな心無い言葉を投げかけるシッマ。
さすが。
心どこに落としてきてん。
そのせいか、さっきまで追及が凄かったロボロがガタガタと震えだしている。
まぁ、お陰で俺はなんとかごまかせたのでもあるけれど。
いや、そう思えば、シッマはナイスなんか。
ナイスやシッマ。
心無い男。
「あーあ、なんもないんやったら心配して損したわ〜」
「お前が心配……?心拾ってきたんか……?」
「よちよち、落としてきた心を探して拾ってきたんやな……!」
「やから心落としてないっちゅうねん!!!」
そんな茶番をしてながら、彼らはこの部屋を後にした。
ガヤガヤと、あのうるさくも暖かい空間が遠ざかっていくのを感じで、身体はひんやりとする。
今は夏の季節で、冷房は疎か、扇風機までついていないこの部屋は、暑いハズなのに。
いつもなら、『ここの倉庫暑いからはよ出たいわ』、なんて思う。
でも、今回は、この倉庫の暑さが、少し有難かった。
手はひんやりと冷たく、身体中冷や汗だらけ。
そのまま、足がガクガクと震え、ストン、と地面に座り込んでしまう。
今になって気付いたが、足に怪我をしている。
黄色いオーバーオールのズボンを上げてみると、足首は腫れており、若干の赤みを帯びていた。
ジクジク、と遅れて痛みまで感じる。
これは、歩けないかも知れない。
いや、実際歩けはするのだが、皆にバレぬよう歩く事は出来ない、という意味である。
皆現役の軍人だ。
人体の動きや仕組み、関節など、知り尽くしている。
なので、怪我をすると直ぐにバレてしまう。
ついでに、あの一般兵に殴られた腹まで、酷く痛む。
肋骨は折れていないだろうか、と怪我をしていない方の腕で、腹を触る。
折れてはいないが、ヒビは入っているかな。これは。
だからか、鈍器で腹を叩かれているような痛みがキシキシ、と伝わってくる。
ド畜生が、あの野郎ども。
なんて面倒くさいことをしてくれたんだ、と共に、右腕から血が滴ってくる。
止血はしていたが、傷は縫っていなかったな、そのせいだろう、赤と白のボーダーシャツからボタボタと垂れてくる。
このまま放っておけば、失血死してしまうだろう。
はぁ、めんどくせぇなぁ。
そう思いながら、任務用の医療ポシェットから包帯をひとつ取り出す。
傷は自室で縫うか、と思ったため、ここでは止血だけにしておく。
はぁ、と重苦しい溜息が漏れる。
血濡れゆく腕を見ながら、ゆっくりとした動作で、包帯を巻き始める。
そこには、虚空だけが広がっていた。
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2P
二章
ボコッ、グチャッ、と人を嬲る音が聞こえる。
その音は、自身から殴られている事に、俺が一番わかっている。
任務終わりに、倉庫で殴られたあの日から、こういったぱしりやサンドバッグが続いている。
皆に気付かれぬよう、顔だけはなんとか避けていた。
身体には、無数の切り傷や打撲痕、殴打に擦り傷、青あざまで出来ている。
最近では、ナイフまで使うようになり、切り傷の方が酷いと思う。
「アッハハハハハ!!!お前こんなに弱いのに俺らの隊長やってんのかよ!!!」
「な!!!!俺らの方が隊長向いてるくね??www」
「今からでも隊長交代でもするか??ww」
「おおいいねぇ!!!」
なんて、人を殴りながら、下衆な話をし始める。
不意に、目が合う。
嘲笑と侮蔑、軽蔑、ゴミを見ているかのような、俺を下にみた瞳。
黒と茶色に混じった、泥のように濁った粒子の小さい色。
そんな目とかち合って、彼の拳が、俺の顔へ。
顔面ストレートに決まり、血が吹き出る。
多分、鼻の血管が切れたのだろう、鼻血がタラタラ垂れてきて、目から出血もしている。
血の涙を流しているような顔になり、顔面は血まみれになった。
「ガッは、ぁ」
鼻の中が血液で埋まって、上手く呼吸が出来ず、水の中に身投げしたような、そんな息の出来なささと、酸素を求めて、口がパクパクと動く。
だが、結局は上手く息を吸えず、やはり意識が落ちかける。
ボコスカと、そこに、腕に激痛が走った。
そのお陰で、俺は意識を失えなかった。
「あああああっっっ!!!!!」
そう、腕に激痛が走ったその場所を見てみると、敵にやられた腕に、ナイフが突き刺さっていた。
深々と、ナイフが突き刺さっていた。
魚を三枚おろしにするように、腕の肉が切れて、筋肉に傷がつき、とんでもない量の血液が飛ぶ。
太い血管が通っている、手首を切り裂いたから、というのが理由だろうか。
グシャりっ、ゴキっ、グチャッ、と肉を引き裂く音と、骨がナイフで傷つけられた音がして、それが余計に、痛みを引き出させていた。
筋肉と骨は元来くっついているものだが、今では、ナイフで切り裂かれたお陰で、骨と腕の筋肉が離れて、痛い。
銃弾で腹を狙撃された時と同じくらいに痛む。
痛む腕で、視界がぼやけ、涙が落ちる。
ポタっ、ポタっ、と生理的な涙と、鼻から出る鼻水のせいで、余計に顔が大変なことになっていく。
「うわwwこいつの顔面汚なwwww」
「普段顔が綺麗なヤツが、こんな顔面になると、清々するなwwww」
きったな、と嘲笑い、顔面にもう一発拳が飛んだ。
血液と、涙と、鼻汁と、嗚咽で、心がぐちゃぐちゃになっていく感覚もした。
その刹那から、俺はただ、辛い、嫌だ、助けて、なんてネガティブな感情を押し殺し、ただただ、前だけを見据えた。
ネガティブでいる一時間より、ポジティブでいる一時間の方が良い、という考えの元、この先にある”楽しみ”に思いを馳せて。
お前ら、覚えとけよ、そのうち見返して、ギャフンと言わせてやるからな、と。
その楽しみを胸に、数瞬、虚空で手を空を描いた。
その空は、思ったよりも、寂しいものだな、と俺は感じた。
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3P
「あ”…………………………?」
濁いた鈍い掠れた声で空気を震わした後、五瞬ほどの空白を打ち込む。
その声は、たったいま眠りから覚めました、なんていう背景を伺わせる、寝起きのような声だった。
だが、良い眠りについていた訳ではなく、気絶に近い眠りだった事は秘密で。
だが、覚醒した事により、痛みが次々とやってくる。
敵兵にやられた腕の痛み、自分を嘲った顔面の痛み、扇情と侮蔑の籠った内蔵の痛み、鉄分を含む血の匂い、キリキリと軋む骨の痛み、そのどれもが、心の奥、深い深いところから這い上がってきて、苦しさに喉がきゅうぅ、としまって、涙が浮かぶ。
その涙が、耐えきれず、ポタっ、ポタっ、と頬を伝い、空気に触れ、巣食い、顎下まで歩いて、床に足を付ける。
痛みと、苦しさと、涙に溺れて、呻き声を挙げるが、その声が音になる事は無い。
何故なら、陸に打ち上げられた人魚のように、息が出来ない為、酸素を肺に届ける事が出来ぬならば、必然的に、声が音となり、空気に振動とした伝われる事はないからだ。
今は夏、だが、床はひんやりと冷たい。
冷気は熱よりも重いから、当然下へといくので、床も冷気に影響されて、冷えるためであろう。
床は冷たい。
ここに居ては、ただでさえ傷を負った身体なのだ、余計に傷が悪化するだけではなく、風邪すら引いてしまうかもしれない。
それに、長い間ここにいては、怪しまれることになる。
人気のない旧資料室(倉庫)に長時間いるやつなんて、リンチにされているか、サンドバッグにされているか、虐げられているかのどれかである。
こんなにクソ暑い旧資料室の中、長時間いることは不可能に近く、誰もこの倉庫に入ることはあまりない。
なので、ここに長時間いることは、極めて危ないのだ。
さっさと退散するか、と思い、身体を動かす。
怪我をしていない方の手で、片手を庇いながら、冷たい底に手をつき、内蔵を労りつつ、足を立て、押し上げる。
───とした時。
身体中を巡り巡ふ鋭い痛みに流されて、呼吸出来ぬ肺が、無理やり酸素を押し込み、痛いでた声を産みあげる。
「あ”っ!!!!ぁ、は、はっ、ぁ、」
「はっ、はっ、あぁ、ぁ、はぁっ、」
大声を挙げそうになったのをどうにか我慢し(結局声は出たが)、荒れ狂う呼吸の波をどうにか鎮める。
肋骨が折れたように痛む。
足が折れているのだろうか、痛む。
ナイフで裂かれた腕が、魚の切り身のようになって、痛む。
生暖かいグチャりとした紅の液体が頬を伝い、鼻と口が痛む。
寝違えたのか、首が痛む。
手首が腫れていて、痛む。
痛みが次第に収まったときには、体感では十数分が経過していて、なんとか歩けるくらいにはなった。
だが、こんな顔面ぐちゃぐちゃ、髪がボサボサ、腕には血が滲んでいる姿では、もしも誰かメンバーに会った時に、心配されてしまうし、この状況がバレてしまう。
致し方あるまい、血のにじむ裾を捲し上げ、顔面の血液を羽織っていた上着で拭う。
腕の傷は、適当に隠し、髪は下ろして手ぐしで解す。
上着についた血液が見えないように内側に折りたたみ、腰に巻く。
これで大丈夫だろうか、心配になりつつも、腫れた手首を庇い、扉を開ける。
資料はもちろん持って。
そして、何分か歩き続けた時、向こうから、誰かやって来るのが見える。
あの小さな身長で、首にタオルをぶら下げ、プロテインを飲んでいる男。
───ロボロだ。
「あれ、ロボロやん」
「筋トレ終わり?」
「おう、そっちは?」
「俺はなぁ、書類溜め込んでてもうて、期限間近な奴が多いんよな!」
「やから書類終わらさなトントンに怒られるんで、資料取りにいってたん」
「……ふーん?」
「で?その顔面はどうしたんや?」
えっ、と気付かれぬよう、小さく息を吐く。
顔面の血液を拭ったとは言え、赤みを帯びた頬や切れた唇、腫れた上まぶたを隠してはいなかったか。
それに、先程まで生理的な涙まで出ていたのだから、目だって充血しているはず。
肩までつく長い髪で隠しているとは言え、バレバレだったのだろう。
「あ、これ?」
「いやー、さっき廊下でずっでーんって転けてしもてな?ホンマ、なんも無いとこでずっこけてもうたから恥ずいわぁ」
「顔面から、ずんがらでーんって」
「へぇー、そら災難やったな?」
「なら、なんでほっぺたに切られたような傷があるんや?」
「へっ!?」
驚いて頬を触る。
左頬を触ってみて、ヒリヒリとした火傷のような痛みがひりつく。
右頬を触ってみると、擦り傷のようなものがある。
切り傷は、どこにもない。
「お前、その顔は誰かにはやられたんやな?」
「ホンマに廊下で転けたんやったら、怪しむか、俺の頭を疑うはずや」
「やのに、お前はそうやって自分の顔を確認した」
「しかも、切り傷をやられるなんて、他人くらいしかない」
「やって、お前はさっきまで資料室にいたんだから」
「なら、お前はいったい、誰にやられたんや?」
すっかり、彼の罠に嵌ってしまった。
彼は、脳筋で、童貞で、彼女いない歴=年齢で、脳筋で、脳みそ筋肉で、筋肉オタクで、アイドルオタクなのに、ここまで考えていただなんて。
正直、彼は脳筋なところが目立つが、こういう、口論でも”我々”に相応しく強い。
それに皆、内部ゲバルト、通称内ゲバとかいう頭のおかしい遊びをしているが、本当は鋭く、狡猾で賢い事を忘れていた。
それに、こんなこと、良く考えればわかっていたはずなのに。
気付かれぬように逃げようと、素早く後ろに翻そうとしたところで、素早く相手が自分の右腕を掴んだ。
そう簡単には、逃げさせてはくれないらしい。
掴まれた腕は、ジンジンとした痛みが帯びてくる。
「おい、逃げんなよ」
「別に?逃げてへんけど?」
「まあまあ、ちょい落ち着いてや」
「確かにこれは他人にやられたもんではあるけど、故意ではないから!」
「へぇ?」
「ほら、書類やる前にさ、ちょっとした演習があってな?」
「そんでシッマと手合わせした時にやられてもうてん!」
「次こそは勝つ!」
「ふーん?」
「ならええけど?」
「おん!ほなね!」
「俺書類せなあかんから!」
そそくさと、逃げるようにして今度こそくるり、と踊るように後ろに周り、早足で帰った。
握られた腕は、先程刃物で切られたところで、せっかく固まりかけていた血液が、滲み、ボーダーシャツにつく。
もはや痛みすら感じないのはヤバいと思う。
痛みというものは、身体の危険信号である。
もし、痛みが無ければ、ナイフで刺された事にすら気付かず死んでしまったり逆に、小さな怪我でも、破傷風でしんでしまう。
その痛みを感じなくなると、これから先戦場ださせて貰えなくなってしまうので、早く部屋に戻って傷の手当てをしたい。
そう思い、小走りで廊下の地を足で蹴る。
その際、気付かなかった。
後ろから粘り着くような視線があったことは。
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4P
幕間
彼は、いつもそうだ。
なんだかんだで小さい頃からの付き合いにはなるが、ずっと一緒にいた訳ではない。
初めて会ったのは、まだ幼い五歳の頃だった。
俺は小さな頃から心がほとんどなく、(自分で認めることは癪だが)実の両親にも遠巻きにされ、同年代の子供たちからも、遠巻きにされていた。
実際には、自分の心はある。
ただ、自分の心の機微に俺は疎いだけだった。
寒いと身体が訴えても、脳がそれに気づくことはなく、寂しいと思っても、心を司る脳は、気づかない。
恐らく、その時よりも小さな頃にあった事件のせいだろう。
俺の瞳はローズクォーツのような桃色で、宝石のように光り輝いていた。
だが、両親はそれをよしとしなかった。
何故なら、父親はイギリス人で、母親は純血の中国人。
父は白い肌に、濃いくすんだ金髪に、色素の薄い黄色い瞳。
母親は中国人らしい肌に、甘栗のような淡い茶色の髪に、凛と咲く花のようなこげ茶の混じった深い茶色の瞳。
なのに、生まれてきたのは桃色の瞳に、真っ黒な髪。
それはそれは、両親にあまりにも似ていなさすぎた。
お陰で、両親はお互いがお互いの浮気を疑い、仲の良かった夫婦はそこで崩れ落ちた。
それに、桃色の瞳という、あまりにも他と見た目がかけ離れていたため、友達もいなかった。
その見た目のお陰で、天使だとか、悪魔だとか、囁かれた。
まぁ、ほとんどが悪魔だ、という噂ばかりだったが。
喋るだけで石を投げられ、叩かれ、蹴られ、軽蔑された。
そのせいもあってか、自然と俺は一人でいることの方が多くなり、自分の心を閉ざし、弱音に気付かないようにした。
その時だった。
彼が話しかけてくれたのは。
いつも通り、一人でブランコに乗って遊んでいたとしだった。
彼が、『俺も一緒に遊んでいい?』と、俺に声を掛けてくれた。
当然、その時はほとんど喋ることはなかったし、なにしろ、声を出す機会がなかったせいか、反応出来なかった。
彼は、白色のの髪に、白いまつ毛、黄金に輝く琥珀糖のような宝石の瞳。
顔は人形のように端正な顔立ちをしていて、唇はぷるん、とし、顔には出来ものすら、出来ておらず、本当に綺麗だった。
だが、喋ってみると、コッテコテの関西弁に、ゲラで、笑い方が下品なのがギャップだった。
そんな彼の笑みに、俺は救われたし、心を与えてくれた。
最初、彼を見た時、雪の妖精かと思った。
だって、彼は髪も、まつ毛も白かったから。
その理由が、彼は国の戦争の兵器として生まれたからだ。
その当時、俺たちの国は戦争をしていて、とても優勢とは言えない状況だった。
では、その状況を覆すには?
人間兵器を作ればいい。
その結果、彼が生まれた。
普通の人間よりも高い身体能力、見た目にそぐわぬ強い腕力、素早く動ける脚力。
物心ついた時から既に彼は戦闘訓練をされていて、それからずっと、俺と出会う丁度五歳の時までその施設にいた。
彼は実験施設から命からがら逃げ仰せ、そのまま遠いこの地域まで橋って来たんだそう。
実験体の中で、唯一成功した被検体である彼は、軽く数十km離れたところからでも徒歩で移動できるのだ。
だが、彼は今までずっと実験施設にいたのだ、日光は疎か、空すら見たことがなかった。
そのせいか、元々俺の母に似た甘栗のような淡い茶色の髪の色素が、日光により破壊され、色素が抜け髪が白くなったんだと。
そして、そこから何年か経ったある日、事件が起こる。(彼の髪色は元に戻っていた。)
そう、彼の居場所が遂にバレたのだ。
彼が抵抗する間もなく、連れていかれた。
彼は戦場に連れていかれた。
俺は、彼を失った悲しみで、暫くの間床に伏せていたが、やがて気づく。
俺も軍人になれば、また彼とどこかの戦場で会えるのではないか、と。
それからW国軍後方支援部隊隊長にまでのぼりつめた。
彼に、会ったのだ、戦場で。
目にはハイライトがなく、傷だらけで、ボロボロだった。
その姿に、俺は我を失い、敵の本拠地を己だけで潰し、彼を抱きしめた。
『もうお前に会えへんかと思った…!』
『今度こそ……お前を離したりはせえへんっ…!』
彼は後に、近接最強と名高い特攻遊撃近接部隊隊長、”シャオロン・シトリン”となったのだ。
まぁ、ここまで彼との馴れ初めを話したが、彼は実験施設にいた事、捨て駒当然の扱いをされていたせいで、抱え込みやすいし、自己評価が低い。
そこがいつも不安に思う。
そんなところがよく、新兵に誤解されては解き、誤解されては解き、を繰り返してきた。
彼は実力はあるのだが、いかんせん、実力はないと勘違いされやすい。
それ故に、彼に対しての虐めが烈しいのだ。
今回もまた、彼は酷い虐めにあっているのだろう。
だけど、俺はなにも手出しはしない。
手を出すのは、全てが終わってから。
だって、彼はきちんと自分で解決したいと思っているから。
もしこれで、彼が病んでいたり、自殺でもしようとすれば、俺は彼の部隊にいる隊員全員を殺すつもりでいる。
だが、そういう事ではなく、自分の意志を持って、解決しようと動いている。
だから、俺は彼には手出ししない。
心配にはなるが。
彼が本当に大変な時だけ、手を出す。
それが俺のスタンスだ。
大丈夫だぜ、マブダチ。
お前は安心してその舞台にて、舞い降りろ。
俺は、彼の舞台を観る、観客の一人だ。
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5P
三章
バコーン、ドゴーン、と弾を打つ音と、血肉が抉れる音、爆風が地をくり抜く音、人が咆哮する声、泣き叫ぶ子供の声、痛い痛いとのたうち回る人間の呻き声。
戦場だ。
現在、W国とN国は、戦争を開始した。
状況は、N国の方が優勢だった。
N国は大国で、軍人の数が多く、新兵器も投入してくる。
W国は戦争国家なのだから、もちろん、N国に負けない兵器と武器を兼ね備えている。
兵の一人一人個人の強さで言えば、W国の方が強い。
が、N国は大国で、如何せん兵の数が多すぎる。
数の暴力、とやらでW国は劣勢の道を辿っていた。
そこで、インカムから司令がはいる。
『撤退!撤退!W国軍撤退!一時的に撤退し、体勢を整え、もう一度反撃の狼煙を挙げる!!』
『繰り返す!一時撤退!一時撤退!一時的に撤退し、体勢を整え、反撃の狼煙を挙げる!!』
『繰り返──────』
と、心地の良いテノールボイスの声。
ロボロだ。
「ちぇー!なんだよ!撤退かよ!」
「俺たちの良いところ見せようと思ったのによー」
「な!あ、あそこにいるの敵兵じゃね?」
「うわ!アイツ弱そww俺たちで倒しちまおうぜ!!ww」
「いいな!」
と、俺をリンチにした一般兵達が、その敵兵を追いかけていく。
敵は一人とは限らないのに。
「っ……アイツら……!!」
敵が一人でいると見させておいて、あるところまで誘導し、一気に大人数で叩く、という戦法だろう。
それくらい、軍学校で学ばなかったのか。
頭を使えよ、とも思ったが、アイツらにとっては実践なんて初めてなのだ、仕方の無い事かもしれないが、俺が初めての時は何十人かをシャベルで頭を潰したんだっけか。
まぁ、それは置いておき、彼らの後を追いかけていった。
「覚悟ー!」
という、間抜けな声で剣を振り下ろす。
──────が、それは叶わなかった。
アイツらが討ち取ろうとした敵兵とは違う他の敵兵が剣を受け止め、アイツらにナイフで襲いかかった。
その瞬間、俺は一気に駆け出した。
そして、シャベルで敵兵の頭を潰す。
グシャッ、ドサッ、と心地の良い血が吹き出る音と、頭蓋骨を木っ端微塵に砕いた粉砕音が軽やかに鳴った。
「お前ら、大丈夫か」
「撤退や言われとったやろ、聞いてないんか」
後ろを振り向くと、俺をリンチにした一般兵二人組は、カタカタと震えていて、腰が抜けているようだった。
全く、敵がいるのだから、少しは動いて欲しいものだ。
仕方あるまい、と思い、シャベルを地面に置き、両手で一般兵の頭の上にのせ、安心させるように、笑った。
「大丈夫、俺の部隊の奴らは死なせやしないから!」
「ほら、はよ逃げ」
「えっ……でもっ……」
「他にも敵は……」
「舐めんといてくれる?」
「俺さ、お前らよりも強いんやんか」
「やから、はよ行き」
「しゃっ、シャオロンさん!」
「今まで……すみませんでした!!!」
「……そういうの、今やないよね」
「俺が無事に戦場から帰ってきた時に言ってよ」
「っ……!!!どうか、ご無事でっ……!」
「おう」
やはり、先程述べたような戦法だったのだろう。
木や、茂みの中、草の中から、ウジャウジャと虫が這い上がってくるように、敵が出てきた。
ざっと、視界の中に入るだけでも、数十人はいる。
奧の方にも、きっと敵はいるだろうから、軽く百人はいるだろうが。
なぜ、俺がここに残っているか。
それはもちろん、アイツらを逃がす為でもあるが、目的はもう一つある。
撤退戦。
それがどういう意味かわかるだろうか。
撤退、それは文字通り基地へと戻ること。
だが、敵はウジャウジャいる。
その中で、ノコノコと撤退させて貰えるほど敵は甘くない。
なら、どうすればよいのか。
そう、敵を引き付けておく囮がいる。
その囮が、俺だ。
俺の部隊が、無事に撤退出来るように、他の部隊が撤退出来るよう、一人で敵を引き付け、投げ倒さなければならないのだ。
俺は、大人数対一人の戦いが得意。
だから俺は撤退戦のプロとも呼ばれている。
元々、シャベルはリーチが長い。
それ即ち、大勢の敵を殺せるという訳で。
さっそく、正面から向かってきた敵をシャベルで顔面を潰す。
横から襲ってきた敵の顎を右足で蹴り、サッカーボールを蹴る容量で、左足で近くの木に蹴り飛ばす。
左手にナイフを持ち、右手でシャベルを持ち直し、後ろからくる敵にさり気なくナイフを眼球に突き刺し、視界を潰す。
痛みで叫ぶが、正直うるさいので静かにしてくれと思う。
更に数人、こちらへ向かってくる。
俺は一気に駆けだし、勢いをつけ、左腕をラリアットの形にし、ナイフで首に突き刺し、抜く。
すると、血がブシャァッ、と火山が噴火するように、思い良く吹き出した。
左右、前から敵がやってくる。
敵の顔面くらいの高さまで飛び、右脚で右の敵を、左脚で左の敵の顔面を蹴り飛ばし、左右の敵が上に吹き飛び、重力に則って下に落ち、グシャり、と臓器が潰れる音が鳴った。
前からきた敵の頭を手で抑え、ナイフで背中に突き刺す。
「アッハハハハハハハハ!!おい!!!それだけか!!!???」
「それだけじゃあ俺には勝てねぇぞぉ!??」
「ヘイヘイヘイ!!!かかってこいや!!!ド畜生共!!!!」
「っ!!!何をやっているお前たち!!!」
「そんなたかが一般兵ごときに遅れを取るんじゃない!!!!!」
「いけ!!!!!!」
「……一般兵?」
何百と言う視線がこちらへ向く。
殺意の籠った行進が続く。
ナイフが飛んでくる。
幾つもの弾丸が飛んでくる。
蹴りが飛ぶ。
拳が飛ぶ。
「違うな……」
左手に持ったナイフを口に加え、懐から弾丸を装填した拳銃を持つ。
約十数発と言ったところか。
この拳銃は、威力と弾丸の数をメインにして俺が勝手に改良したものだ。
俺はずっとシャベルを主な武器として使っている。
が、この軍ではメインの武器とは別に、個人個人にあったサブの武器が支給される。
その時にくれたものが、この拳銃である。
大抵の拳銃は数発しか装填出来ないが、数発だけしか装填できないと、何個も何個も弾丸が補填されたケースを持つことになる。
それが嫌で嫌で十数発も装填出来るようにした。
補填する隙を狙われ、攻撃されても困る。
そう意味も持つ。
「お前ら、一つ勘違いしてないか?」
一歩踏み出すと、また弾丸が飛んでくる。
シャベルで弾丸を打ち返し、敵の脳天をぶち抜く。
飛んできたナイフを拳銃で打ち、僅かに軌道をずらし、後ろにいた敵の腹に刺さる。
背後から来た敵の拳をシャベルで地面に埋め、前からくる何十人もの敵をシャベルで横へ払う。
この部隊の隊長らしき男が俺の首を狙おうと高く飛び、刀に似た剣で斬る。
──────ろうとしたその瞬間で、手を地面につき、右脚で相手の腹に蹴りを入れる。
木に叩きつけられ、こちらへまた向かって来る。
拳銃で数発撃ち、一発が当たる。
敵はライフル銃をどこからが持ってきて、撃つ。
右肩に一発、左脚に一発、足首を掠り、被弾。
右手に持っていたシャベルが前前方、5メートルほど飛んでいく。
敵の元に走り出していた俺はずるん、と転び、一回転し、バク宙からの側転で即起き上がり、右手でシャベルを拾い、敵の近くに行き、左手でナイフを敵の手にぶっ刺す。
ライフル銃が落ち、隙が出来た瞬間に、シャベル両手でしっかりと握り、頭を潰そうと躍起になる。
「俺はただの一般兵じゃねぇ……」
「近接最強と名高いシャオロン様や!!!冥土の土産に覚えとけ!!!!」
グシャァァァッ、ゴリリッ、ボキイィィ、と頭が割れ、血が服のあちこちに着く。
はぁ、はぁ、と息が整うのを待つ。
肩までつく長い髪が数本、ハラハラと地面に柔らかく着地する。
恐らく、ナイフで軌道をズラした時に、微妙なにズラし切れていなかったのだろう、その時に切れた髪か。
「おいおい……これで終いか?」
「弱すぎるんじゃねえのぉ……?」
「オラオラオラァ!!!向かってこいや!!」
敵が鋭い殺気で、手榴弾やら弾丸やらなにやら飛んできた。
手榴弾を素手で掴み、野球選手がボールを投げるように、敵が特に固まっているところにぶん投げ、爆発させる。
「アッハハハハハハ!!ヒィャッハハハハハハ!!!!!」
楽しくて、ついつい笑ってしまう。
狂気的な笑みを浮かばせ、戦場で踊る。
一方的な虐殺に、敵は対応しきれなかった。
血が、血で洗った。
──────────────────
6P
ゼー、ヒュー、と風音に似た荒い呼吸音が途切れなく続く。
甘栗のような茶色い髪に、黄金に似た琥珀糖の瞳は煌めき、輝きを失わず、目に力がある。
彼は木に凭れ座り、力なく投げ出された右手の先にはシャベルが投げ出されており、彼の周りには、夥しい数の死体が倒れていて、土が血を吸収し、ドス黒い黒に変貌を成している。
彼の凭れている木を見上げてみると、死体がブラン、とぶら下がっていた。
死体からながれる血がポタポタと垂れ、その血が草を伝い、地面に這う。
木から視線を外し、彼に視線を戻すと、彼は酷い怪我を負っていた。
まず、右肩に一発、左脚に一発、横腹、腹に二発、ナイフの突き刺さったままの右太腿、頭を打ったのか、頭からは血が流れ、目からも血が出ている。
元々負っていた傷を挙げれば、組織がぐちゃぐちゃになった右腕に腫れた頬、ずっと力強くシャベルを振り回していたせいか、右手の握力がもうほとんどないに等しく、カタカタと痙攣する。
まぁ、組織がぐちゃぐちゃになっている状態でシャベルを振り回していたのだ、痙攣しているだけでもマシなのだろうが。
「お”ぇっ、ゲボっ、ゴホッゴホッ、」
血を口からボタボタと吐き出し、整っていない息が更に荒れる。
さっきまでの戦闘でアドレナリンがドバドバ出ていたお陰か、痛みを感じていなかったが、今になって痛みが襲ってきて、肺が痛む。
肋骨も軋み、撃たれた部分が熱を持っているような気がする。
疲れた。
このまま寝てしまおうか。
あぁ、忘れていた。
インカムで連絡しなければ。
死ぬ気はないが、ちょっと今は動けそうにないなぁ。
億劫ながらも、腰にあるインカムを持つ。
血液が足りていないせいか、上手く手が動かず、スイッチも押せないし、冷えている。
あ、やっとスイッチ入れれた。
カチッ、ザーザー。
「……もしもし?こちらシャオロン」
『あ?あんさん今どこにおんねん!!!!』
『GPSもえらい変な場所示しとるし……!』
「あぁ、それな?たぶん返り血でGPSもへんなんなっとんちゃう?」
「ロボロ〜おむかえきてー」
「もういっぽもうごけーん」
「ワンチャンおれしぬーしぬきないけどー」
『あぁ!!?あんさんほんま大丈夫か!!?』
『喋ってること全部平仮名やぞ?!多分!!』
「ほな……よろしく……」
『おい!!!ちょ、待てお前!!!!』
カクンッ、と意識が落ちる。
酷く身体が寒い。
が、その眠りは、心地よいものだった。
差し込んできた太陽の光が顔に当たる。
身体が鉛にでもなったのかと思うほど重い。
血がポタポタと垂れ、誰かの足音が聞こえた気がした。
最後に見た景色は、ボヤけ、滲んでいた。
──────────────────
7P
四章
「いやー、案外なんとかなるもんやな!!」
「儲けっ!」
「『儲けっ!』やないわ!!!このドアホ!!!!」
「えぇ〜〜?」
そんな基地全体に広がる怒声を挙げているのは、我らが情報管理室室長ロボロ・ローズクォーツであった。
彼は今、幼馴染兼マブダチであるシャオロン・シトリンと対話しているところである。
そのシャオロン・シトリンを見てみると、頭にはガーゼに包帯、右腕は包帯の上に包帯、見えてはいないが、病院服の下には、包帯が包帯で巻かれているだろう。(だが彼はのんびり見舞い品の”甘さ控えめミルクプリン!オイシイヨ”を手に持ち食べている)
それもそうだ、一般兵にリンチされていたにも関わらず、その怪我のまま戦場を行き戦っていていたのだから。
そして、もちろん一般兵にリンチされていた事に気付かれ、ロボロを筆頭に、こってり絞られたのだった。
ちなみに、今まで面会謝絶になっており、面会謝絶から明けて初日の出来事である。
「で?結局あの一般兵等はどうすんの?」
「ほんまは死刑に値するけど」
「え、そんな重いん……?」
「まぁ俺はアイツらとちゃんと話してからどういう罰を科すのか決めたいとは思っとーよ?」
「俺がアイツらのピー(自主規制)をピー(自主規制)してピー(自主規制)やってからピー(自主規制)したいと思ってた」
「やり過ぎちゃう……?」
「いや、アイツらはそれだけの事をした」
「あと俺からひとつ言わせてくれ、お前さ、めっちゃ誤解されやすいやん」
「ちゃんと実力はあるってことを示してくれ」
「そうすればもうアイツらがお前を舐めることはなくなるし、今回みたいなリンチもなくなるはずや」
「へーい」
「お前なぁ………」
ドタドタ。
ある程度重量のある物体が、勢いよく廊下を駆けるような音が聞こえる。
音は複数あるが、いてもふたつからみっつと言ったところか。
そのまま医務室の前に止まり、ガラガラピッシャーン、と雑な音を出しながら扉が開く。
「シャオロン隊長!!!!」
と、あの時、下衆げた笑いを鼻で飛ばし、俺の右腕の肉をナイフで割いた男と、腹を蹴飛ばし、顔面を拳で殴り、何発も何発も足と腕で暴力を奮った男が、病室に来た。
まだアイツらとは話したくない気分ではあったが、ここまで来てしまったのだ、帰してしまっては失礼だろう。
「……なんのよう?」
努めて冷静でいようとする声を作り、そう一般兵と対話した。
声を聞いた一般兵たちは、ブルりと肩を震わせ、カタカタと何故か痙攣を起こしていた。
「その……」
「すみませんでした!!!!!」
……いきなり、土下座をかましてきた。
「俺、シャオロン隊長のことを舐め腐ってしまっていました……」
「でっ、でもっ!あの時、シャオロン隊長が助けてくれて、それに、隊長があんなに強かったなんて知らなくて……」
「『俺らでも隊長になれるんじゃね?』とか、呼び捨てで呼んでしまったり、俺たちの書類とかを押し付けてしまい……本当に申し訳ありませんでした!!!!」
「これからは、そのような誤ちは二度と犯したりはしません!!!」
「もし、そのような事が起こった暁には、我ら二人で、剣で腹を切ってお詫び申し上げます!!」
更に、『本当に申し訳ありませんでした!!!』と二人で息ぴったりに声を揃えて、土下座をしてきた。
しかも、頭を地面にきちんと擦り付けて。
その上、目を思い切り閉じ、眉を寄せ、泣きながら、だ。
その謝罪に、俺はなにか返答しようとしたが、先に声を出したのはロボロだった。
「……今更なんなん?お前ら」
「そんなちっぽけでごっつ軽い、ゼロ円以下のやっっすい謝罪で許される思とんのか?あ?」
「ちょ、ロボロ……」
そのまま、ロボロは土下座をするアイツらの髪を両手で鷲掴みして、顔を上げさせ、ぐわんぐわん、と揺らす。
勢いのついたところで手放し、右手の人差し指で二人を指し、見下したような凍てつく瞳でみる。
「お前らはそれだけの事をしたんや」
「お前らはどんな思考の元そんな風になった?」
「動機は?なぜそんな事をした?シャオロンはなんかしたんか?」
「シャオロンがなんかしたんやったら確かにコイツに非があるが、なんもしとらんのやろ?どうせ」
「害されてもいないのに自分たちで下の人間を害す?ハッ、クズの極みやんけ」
「まずな?自分よりも下の人間がおったら、自分の高みまで手を差し伸べてやるのが上の人間や」
「それに?お前らは自分たちよりも上の人間と力量を測れなかった、訂正するわ、お前らはクズの人間やない、クズ以下の人間やな」
「そんで?みっともなくこうやって床に這いつくばって?自分よりも上の人間とわかったら手のひら返して土下座?なんやお前、巫山戯てんのか」
「ばーか。」
うっわ、えげつないド正論の嵐……。
もう一般兵が可哀想……。
と、慈悲を与える訳では無いが、ベッドからゆっくりと降り、ギシ……と鳴り、俺はロボロの元へと近づき、トントン、と肩を叩く。
ゆっくりと彼は振り向いた。
ローズクォーツのような桃色の瞳は、殺気だち、今にも人を殺せる鋭い光を放っている。
「こーら、そこまでにしたり?」
「この子ら、めっちゃ震えとんで?」
「それに、さ。俺は全然怒っとらんから!大丈夫よ?」
くふくふ、と俺は安心させるように笑い、じゃあさ、と話を切り出し始める。
「これでお愛顧、ってことでええやん?」
彼らと目線を合わせるようにしゃがむ。
病院服に羽織った黄色いカーディガンの裾がゆらゆら、と揺れた。
右手の人差し指と親指で輪っかを作り、他の三本指を立て、ブルブル震えめを閉じている彼らの額の近くまで持っていき、こてん、と間抜けな音を立てて、デコピンに似たものをした。
「んふふ、そんな震えんでもよかったのに……」
「ま、これでお前らに罰は課したってことで!」
「この話はお終い!」
「えっ……?」
「これだけでいいのですか……?」
「えー?こんだけでもまだ足りん?なら、しゃあないなぁ」
「二週間、トイレ掃除よろしくな!」
「これでええ?」
「えっえっ、ぇ、でもっ……!」
「やから、俺はそんなに気にしてへん言うたやろ?」
「まぁ……舐められる俺も悪かったし……」
「ふふふ、これでええんやよ」
「っ……!!!ありがとう…ございます……!」
「これからは二度と、二度と、このような事は起こさぬよう、心に誓います……!」
「ウンウン、えー心掛けやな!」
「よし!お前らはもう返ってくれてもええよー」
「俺はこのミルクプリンを食べたいし!」
「はい……!では、これにて失礼します!」
「んー」
ふらり、と立ち上がりくるりと回り踵を返し、ベッドのサイドに置いてある小さな机に置いたプラスチックの入れ物に入ったミルクプリンを手に持つ。
そのままベッドに座り、ヒラヒラと手を振る。
そして、彼らは深く深く、一礼をし、病室の扉を閉め、後にした。
「いやー、もうこれであんな事はせえへんやろ!」
「一件落着!」
「はぁ……お前……ホンマそういうとこやで……」
「ん?なにが?」
「もうええわ……言うてもわからんやろお前!」
「あはは、そんな怒んなって〜」
「うるさい!!!」
「俺はもう帰るからな!もう元気みたいやし!!!」
「わかったわ」
「また明日ねー」
彼は書類と白いカバンを肩に背負い、彼も病室を後にした。
病室の扉から入った風が、薄いベージュのカーテンがヒラヒラと舞った。
揺れたカーテンの隙間から、キラキラと、日光が射し込んでいた。
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エピローグ
あの時、赤と白のボーダーシャツと、黄色い派手なオーバーオールの大きい背中が、ゆっくりと振り返る。
『お前ら、大丈夫か』
そうやって、安心させるような優しい笑みに、俺たちはホッと安心したのと同時に、なんてことをしてしまったんだと、後悔した。
あぁ、こんなにも強い人を、俺たちは下に見て、自分の力量もわからず、相手の力量を測りそこね、汚らしい言葉を吐いたのだと。
彼は、自分の部下は死なせないと言って、憎かっただろう、腹が立っただろう、そんな相手を先に逃がし、自分一人残し、百数十人といる敵を相手に、堂々とした態度で戦ったのだ。
その身体は、戦争開始前に俺たちの付けた傷だらけで動くのも辛く、やっとのはずだった、のに。
なのに、その百数十人を全員倒し、生きて、帰ってきたのだ。
瀕死ではあったが。
それがどれだけ凄い事で、快挙な事かおわかりだろうか。
その噂はみるみる広まり、彼が昏睡していた一週間で、彼はこの戦争の立て役者となったのだ。
kn氏曰く、『アーハッハッハッハ!!今回はアイツに取られたなぁ!!!まぁ、アイツに近接で俺は敵わんしなぁ!近接ならゾムくらいにまで匹敵すんでぇ!あいつは!それ以外やったら俺が勝つけどな!!アーハッハッハッハ!』と言っていた。
その話を聞き、本当に、深い深い罪悪感の海に呑まれた。
戦場を後にし、駆け出している時に、ふと、後ろを振り向いた。
その瞬間、狂気に満ちた闘気の笑いが聴こえる。
『アッハハハハハハハハ!!おい!!!それだけか!!!???』
『それだけじゃあ俺には勝てねぇぞぉ!??』
『ヘイヘイヘイ!!!かかってこいや!!!ド畜生共!!!!』
と言うあの人お得意の煽りで敵を投げ飛ばしていく姿。
ケラケラと純粋に、そして無邪気に、笑いながら子供が遊ぶように、戦場で舞い踊るのだ。
彼の持つ愛用のリーチの長い武器、”しゃおしゃおシャベル”。
その喋るは、特注品であり、すごくすごく頑丈で、その武器は、あまりにも特殊で、彼しか扱えない。
そんな武器を振り回し、圧倒的な力で敵をなぎ払い、潰していく。
あぁ、この人と俺たちは、こんなにも遠く遠い差があるんだな、と改めて気付く。
なんて愚かなのだろうか。
そもそもで、我々は、実力主義なのだ、贔屓などするはずがないし、隊長に相応しい実力を持っているに決まっている。
少し考えれば気付くハズだったのに、そんな簡単な事にすら気付かない俺たちが、愚かで、愚かで堪らない。
だが、そんな俺たちを彼は優しく微笑って、『これでお愛顧』と言って、許してくれたのだ。
病室を後にした俺たちは、これから、この罪を一生背負って、償っていくんだと、心に誓った。
それにしても。
「シャオロン隊長、優しいよなー」
「なー、俺たち、もう一生あんなことはしない!!」
「よーし!頑張るぞ!!」
「おう!!」
「なぁ、」
電灯の付いていない暗い廊下で、”天”と書かれた布面が見えた。
後ろからそう聞こえた声に、ゆっくりと振り向くと、布面の隙間から見える充血し、桃色のキラキラ煌めく瞳が、無限を司る黒曜石のような黒い瞳に見える。
恐らく、電灯が付いていないからだろう。
「ひとつ言わせてもらうな?俺があんなデコピンだけで俺が許すとでも?」
「いきなり手のひら返して、ヘコヘコ土下座しただけで許される?そんな事があってたまるか……!」
「アイツが許しても、俺は許さへん……!」
「何があっても、罪を償うまで、どこへ逃げても、地獄に行っても、地獄の果まで追いかけて、その罪を償わせる……!」
ロボロさんは、拳を握り、ギュッ、と力を篭める。
そのまま俺たちの顔面を一発ずつ殴り、襟をつかみ、拷問部屋の方面へと、引きづられる形で、向かっていく。
一応、行先を聞いてみる。
「あっ、あの……ロボロさん、これからどちらへ……?」
震え声になりながら、声を出す。
「もちろん、拷問部屋やけど?」
「ふふふ、楽しみにしときやぁ?」
「水責め、焼きゴテ、鞭打ち、指締め、火責め、虫責め、電気イス……どれがええかなぁ?」
「人体の急所……頸椎、僧帽筋、膀胱、膵臓、腎臓、肝臓、心臓、どこを責められるのがお好きなんやろか……」
「ぜぇんぶ、試したらええだけの話やんね!」
「すぐ、へこたれるんやないで?」
忘れていた。
ロボロ・ローズクォーツ。
情報管理室室長でありながら、地獄の拷問官……。
あまりにも心の無さから、拷問官へとW国軍総統であるグルッぺン・ヒューラーから推薦を受け、拷問学を三年間学び、拷問官となった男。
その事を、すっかりと忘れていた。
特に、拷問官の中でも慈悲は無く、容赦がない。
そんな男が、これから俺たちに何をするのか、想像したくない。
いや、これからの事は、俺たちと彼のみぞ知る。
数分後、基地内全体に、俺たちの悲鳴が轟いていた。
──────────────────
おまけ『9P』
「そういやさ、最近アイツら見ぃひんねんけど、どしたんやろか?」
「さぁ?今頃電気で痺れてるんちゃう?」
「え?電気?なんで???」
「なんでやろーなー」
「お前、なんか知っとるんちゃうんか……?」
「シャオロン、世の中聞いたらあかん事があんねんで」
「お、おう……?」
コメント
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あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"好きぃぃぃぃぃ
うわわわわ好きいいいいい 陰ながらるかさんの方もちゃっかり見てたんだけど 戦闘シーン語彙力ドバドバやん好きスゴすぎ shaちゃんって優しいですもんねええ。 拷問官ンゴほんま好き