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「ジェットコースター、楽しかったね!」
「そうだな!」
ジェットコースターから降りた彩音が、興奮冷めやらぬ表情で楽しかったなどと感想を口にする横で、笑みを張り付けたまま肯定する優斗。
今の彼には、彩音の言葉をただ肯定するしか出来ない。心の底から楽しいなどと思っていなかったので、楽しい感想など「終わって降りるときにほっとした」以外見当たらない。
だが、隣で嬉しそうにしている彩音がいるのに、そんな態度を表に出すわけにはいかない。
もし弱気なところを見せようものなら「本当は嫌だった?」と言って無理して付き合わせたことを気に病み、傷ついてしまうかもしれないから。
なので、歩く際にちょっとだけフラフラしそうなのを、必死に耐えている辺り男の子である。
それに、ギネス級のジェットコースターに乗ったんだから、もう満足なはずだ。
次はゆっくりした、落ち着いた物を選ぼう。
「優斗君。お姉ちゃん次はあれに乗りたい!」
「おおう……」
それはバベルの塔がごとく高くそびえ立っていた。
その塔を、人を乗せた椅子が頂上まで登っていったと思ったら、一瞬の間の後に、高所から一気に落ちていく。
聞こえてくる絶叫は、まるで神の怒りをかってしまった愚かな人類の悲鳴のようである。
「それとも、あっちの方が良いかな?」
バベルの塔よりも遥かに高くそびえ立つ巨大な塔。
人を乗せた椅子が、物凄い速度で頂上まで飛び上がったと思えば、今度は一気に落下する。
あぁ、それはまさに人類の業、イカロスの翼である。
彩音が指さすのは、神代の昔に人類が犯した2つの禁忌。
なぜ人は罪を犯すのか、なぜ繰り返してしまうのか。
そんな下らない妄想に逃げたところで、現実から逃げ出す事は出来ない。
優斗君はどっちが良いと聞かれ、内心はどっちも嫌である。
どっちも嫌だが、高所から降りるだけのバベルの方がまだマシである。イカロスと比べれば、バベルの方が遥かに低いので。
どう考えてもバベル一択の状況に見えるが、そう簡単に選べるほど甘くはない。
彩音の目が、明らかにイカロスの翼を見てキラキラさせているから。言葉にしなくても分かる。あれに乗りたいと。
どっちの選択肢も捨てがたい、というか捨てたい優斗。
遠くから見る分には余裕そうに見えるが、そんな余裕はまやかしであることを先ほどのジェットコースターで嫌と言うほど分からされた。
何か、何か言い訳はないか。
ワクワクとした顔で見つめる彩音。
心地のよい風が、ふわりと彩音の前髪をなびかせる。
「彩姉。俺としてはどっちにも乗りたい気持ちで山々なんだけど」
「山々なんだけど?」
「彩姉、今日スカートじゃん」
「……あっ!」
一瞬だけ「?」を頭に浮かべ、すぐにハッとなる。
そう、風と共になびいた彩音のスカート。もしこれでむき出しの椅子に座り上下したらどうなるか。
「スカート抑えてれば、大丈夫じゃないかな?」
「そうか? あの人とか、見えちゃってるけど」
そう言って指さす優斗。
指さした先を、彩音が目を細め注視する。顔を少し前にやったり後ろに下げたり、必死に注視してみるが、スカートの中身が見えてるのかここからは分からない。
それもそのはず。優斗の口から出まかせなので。
「見えてる?」
「見えてるよ。ほら、今とか」
「えぇ……」
遠くだから良く分からない、だが弟は見えてるよと言って、何度も「ほら」と指さす。
自信満々に言われれば、確かに見えている気がしなくもない。
「あー、確かに見えちゃってるかも」
「だろ?」
心の中でガッツポーズを決める。
「だから、今日はやめといて、今度また一緒に来た時にしよう」
「うん。そうだね。その代わり絶対にまた一緒に来てよ」
名残惜しそうにバベルとイカロスを見た彩音が、ちょっとだけ残念そうな声で、しかし、また一緒に来てよと嬉しそうな声で言う。
「……はい」
結局問題を後回しにしただけではないかと疑問がよぎるが、今この場を切り抜けられた事をとりあえず喜ぶ事にする。
が、彼は気づいていない。
「じゃあ、今日はジェットコースターを網羅しよっか!」
ここは遊園地、絶叫マシーンはいくらでもあるという事を。
なんなら、次も一緒に来て、今度はもっとやばいものに乗らないといけないという事に。
「アーッ!!!!!!!!」
縦に横にとブンブン回され、気分はペースト状になったチーズである。
彩音が満足するのは、昼を過ぎた頃だった。