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「涼ちゃん、ちょっとだけいい?」
ふいに呼び止められた。
振り向くと、そこには、
優しい笑顔を浮かべた元貴が立っていた。
「……うん」
返事をするしかなかった。
心臓が、ドクドクとうるさく鳴っている。
「控え室じゃなくて、こっちこっち」
元貴は手招きして、
スタジオの奥、
小さな個室へと涼ちゃんを誘った。
そして、中に入ると、カチリと鍵をかけた。
「……」
涼ちゃんの背中に、冷たいものが走った。
元貴は、何も言わずに、
ふわりと微笑みながら近づいてきた。
「最近さぁ、涼ちゃん……ちょっと元気ないよね?」
そっと、
優しく、頭に手を置かれる。
撫でるような手つき。
まるで、本当に心配しているかのような、優しい声。
「……そんなこと、ないよ」
涼ちゃんは、俯いて小さく答えた。
けれど、元貴はすぐに、
涼ちゃんの顎に手を添えて、顔を上げさせた。
「ウソだよね?」
優しく、でも逃がさない手。
涼ちゃんは、息を呑んだ。
「……っ」
元貴の瞳は、
優しさの奥に、
鋭い何かを潜ませていた。
「滉斗とさ……」
耳元で、そっと囁く。
「スタジオで、気持ちよくなったんだよね?」
涼ちゃんの全身が、ビクリと震えた。
目を見開いたまま、言葉を失う。
——どうして、知ってるの。
(見られてた……?)
(全部……?)
震える涼ちゃんの頬を、
元貴の指が、そっと撫でた。
「大丈夫。怒ってないから」
甘く囁く。
まるで赦すかのように。
「むしろ……見せてくれて、嬉しかったな」
耳たぶにふっと吹きかけるような吐息。
涼ちゃんの膝が、かすかに震える。
「だって、あんな涼ちゃん、初めて見たから」
優しく、髪を撫でる指先。
逃げたかった。
でも、逃げられなかった。
元貴は、にこりと微笑んだまま、
涼ちゃんの細い身体に指を這わせ始めた。
「こうやってさぁ……ここ、触られたんだよね?」
ゆっくり、
胸のあたりから、腹にかけて。
滉斗に触れられたであろう場所を、
なぞるように、なぞるように、
いやらしく指でなぞる。
涼ちゃんの呼吸が、わずかに震えた。
「ここも……」
今度は首筋に指を滑らせる。
まるで、滉斗にキスされた場所をなぞるかのように。
「……ここも、滉斗に触られたんだよね?」
耳元に、
熱い吐息がかかる。
涼ちゃんの体は、ビクビクと小さく震えた。
「っ……やめ、て……」
かすれるような声で抗う。
けれど、その声には、
拒絶と同時に、微かな快感が滲んでしまっていた。
元貴は、それをしっかり感じ取って、
にやりと笑った。
「……涼ちゃん、可愛かったよ」
甘ったるい声。
それに、
身体が反応してしまう自分が、怖かった。
「ねぇ、涼ちゃん」
元貴が、さらに顔を近づける。
「俺にも、そんな顔……見せて?」
囁くような声。
ゾクッと、背筋に悪寒が走る。
だけど、それ以上に、
甘く、蕩けるような熱が、身体を包み込んでいく。
(だめだ、こんなの)
(でも、抗えない……)
涼ちゃんは、
ぎゅっと目を閉じて、
ただ小さく、首を横に振った。
「……そっか」
元貴は、ふっと笑った。
「……まぁ、 まだ焦らなくてもいいよ」
軽く、そう言いながら、
最後にもう一度、優しく髪を撫でて、
涼ちゃんから距離を取った。
「また今度、ゆっくりね?」
軽やかに、微笑んで。
涼ちゃんを残して、
スタジオの扉を開け、
何事もなかったかのように去っていった。
涼ちゃんは、
一人きりになった個室で、
膝を抱えたまま、
震える指先を見つめていた。