2年前俺には好きな人がいた。相手は一つ上の先輩でよく一緒に帰ったり遊んだりしていたが、付き合ってはいなかった。自分の気持ちを伝えて今の関係が壊れるのが怖かった。ある晴れた春の日「一緒に帰ろ!」と誘ってきたがその日は用事があり「ごめん、また今度!」と断った”また”なんてないのに。その日は先輩のためのプレゼントを買いに行っていた。帰り道落とさないように気を遣いながらゆっくりと家に帰った。家のドアを開けると母が暗い顔で俺に言った。理解できなかった。何を言ったのがよく覚えていない。覚えていたくなかった。先輩の誕生日のために買ったネックレスが地面に落ちる。あれだけ大切に持って帰ってきたのに何故か拾う気が起きなかった。その日から俺の世界は時間が止まってしまった。
その日は雨だった、桜もとうに散ってしまった頃俺はいつものように学校から家までの帰路を歩いていた。 朝起きて学校に行って帰ってきてご飯を食べて寝る。なんてことないいつも通りの日々、いつもと同じ日常の繰り返し。違うことといえば今日は今年に入って一番の大雨ということだ。幸い学校を出た時は雨足は弱まっていたが、のんびりと帰っていたせいかだんだん雨が強くなってきた。傘に水が当たる音が大きくなる。そんな中どこか雨宿りできるところを探していると、突然あいつは現れた。 黒く長い髪、白くて柔らかそうな肌、まるで本の中から出てきたようなその子を俺は知っていた。 「ちょっと君!」声をかけると黒くて大きな瞳がチラリとこちらを覗く。しかし、それ以外は全く表情を変えずにその子は次の角を曲がってしまった。 俺はまるで風に吹かれたような気がした。居ても立っても居られなくなり走り出した。大雨の中、その子ただ一人を探して。
しかしさっき角を曲がって行ったはずの彼女は見つからない。 どこに行ったのかわからない。途方に暮れていると偶然通った川の横の堤防の上に彼女が立っていた。
「綺麗ですね」夕暮れに河川敷で川を見てそう言う俺に 「綺麗だね。」とまだ傘を刺している彼女が言う。俺が傘を閉じた後に、彼女が俺と逆の手で夕日に照らされながら傘を閉じる。一つ一つの動作が儚く、そして懐かしい。夕日に照らされる彼女を見た時俺は探していたものを見つけた喜びと同時に半ば信じられず目を見開いていた。 「葵…なのか…」俺が混乱しながら自分の頭の中で思ったことを口にする。それに対して彼女は「2年ぶりだね、ただいま」と2年間一度も忘れたことのない声でそう言う彼女。止まっていた時計の秒針がゆっくりと時間を刻み出す時俺は2年前言えなかった、もう伝えられないと思っていた言葉を紡ぐ「あなたのことが好きです。」と
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!