翌朝、茶糖家の食卓で遅めの朝食、焼肉丼を摂(と)っていたコユキは、二人の妹達からせがまれたのだった。
もう数杯目のどんぶりを平らげたコユキは言うのであった。
「一緒にお寺に来たいってのは分かったけどさ、あんまり面白くないと思うわよ? オベンキョよオベンキョ! それも講師は現代教育も受けていない様なポンコツだからね! 見てくれ以外は本当に残念なんだよアイツ、老け専だし……」
「えーアスタさん格好いいじゃん、スタイル良いし優しそうだし、ま、うちの旦那ほどじゃないけどさ」
「第一ぃ、アタシ達ってアスタさん目当てじゃないからさぁ~、素敵なのは認めるけどぉ、うちの旦那さんには及ばないけどぉ」
一々幸せマダムをアピールされてイラっとしながらコユキは聞いた。
「んじゃ何でついて来たがるのよ? あんな所今更珍しくもないでしょうに…… 狙いはなんなの、正直に言いなさいっ!」
リョウコとリエは顔を見合わせて何やら目くばせをしていたが、やがてリエがコユキに向けて言ったのである。
「えっとね、狙いとか言うほどの事じゃないんだけどね、アタシとリョウちゃんの真なる目的はね和尚さん、善悪(よしお)ちゃんなのよ」
急速にコユキの顔色が変化した、少し青褪めた感じだった。
「え、何? 何でよ…… アンタ等善悪にちょっかい出す気なの? や、やめときなさい! 有閑マダムの火遊びじゃ、す、すまないわよ! は、はしたない!」
リョウコが可笑しそうに笑いながら返す。
「あははは、何よおぉ、そんな訳ないじゃーん、コユキやらしぃ~」
リエが安心させるかのようにコユキの肩に手を置いて言った。
「心配しないでユキ姉、取りゃしないわよ! その気があればとっくにモノにしてるわよ、アタシもリョウちゃんもね」
コユキは聞き逃す事が出来なかった。
「なによ、それ? アンタ等と善悪の接点なんかなかったでしょう? 思わせぶりは罪よ、罪、人間失格のツミコと同じなのよぉぅ!」
リエがケラケラ笑いながら答えたのだが、ツミコ云々はノータッチであった…… 世界は残酷だね……
「えーアタシの初恋の人ってヨシオちゃんなんだけどぉ、ユキ姉|傲慢《ごうまん》なんじゃないのぉ? 小学生の頃にラブレター渡したし!」
リョウコも言うのだ。
「そうだよぉぅ、アタシだってねぇ~、中学生の間、三年間、手作りチョコ送り続けていたんだからねぇ~、ヨシオちゃん格好良かったし、ねぇ、リエ?」
リエも重ねていった。
「うん、小学生くらいまで可愛かったけど、中学高校位までは格好良かったわよねっ! んまあ、和尚さんになった頃からは、ほら禿げちゃってさ、がっかりだったけどねぇ、昔は格好良かったわよねぇ、リョウちゃん!」
「そうだねぇ、禿げたからねぇ~、それまでは格好良かったけどねぇ~、んまあ仕方ないじゃないのぉぅ? 今やいい思い出の中の人だもんねぇ~」
コユキが耐え切れない感じで言った、もう我慢限界の風情であった。
「ムキィー! 善悪は昔も今も格好いいわよ! ってか可愛いんじゃないのぉぅ? 禿げ禿げ言ってるけど、あれ、剃ってるんだからねぇ? あるのよ、毛は! ある上で敢えて剃ってるんだからねぇっ? 馬鹿にするんじゃないわよ! 今だって善悪って滅茶苦茶格好いいんだからねっ! 毛もたっぷりなんだからぁっ! 判ったぁ!」
リエとリョウコはしめしめと言ったズルそうな顔を浮かべて答えたのであった。
「「そうだねぇ、カッコいいわねぇ~」」
コユキは妹たちの策略に気付かないままで答えたのである!
「そうよ! 格好良いでしょうっ!」
と、やれやれ、思いのままだなぁ、でもそれが良いんじゃないかな?
そう思ってしまわざる得ない、愛し合う二人の孫、私、観察者であった。
二人の妹の内、シャキシャキ担当のリエが言うのであった。
「だね! ユキ姉の相方、善悪(よしお)ちゃんの格好良さをこの目にする為にも今日は一緒に座学を受けたいんだよね、だから、連れってってよ、ユキ姉、良いでしょう?」
馬鹿なコユキは答えてしまったのである。
「んまあ、善悪の格好良さを見学したいってんなら、その、別に? 見に来たら良いんじゃないの? ほら、お寺さんって来るもの拒まずだからさぁ、んでも、いやらしい目で見るのはダメ、絶対なんだからねっ! オッケイなの?」
二人の妹は声をそろえて言うのであった。
「「オケイっ!」」
と……
かくして茶糖さんちの三姉妹は、仲良く幸福寺に向けて出掛けていくのであった。