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「『英霊』なんかじゃ、ないんだぜ」

 質素な鳥居の向こうにある、大きな菊紋の幕があしらわれた社を見ながら、ヨンスさんは言った。


「本当はみんな、普通の人生を全うしたかったんじゃないかって、俺は思うんだぜ。普通に働いて、普通に恋をして結婚して、普通に好きなこと楽しんで、普通に年を取って……でも、 戦争はそれを許さなかったわけだろ?」


 その眼差しは、険しくも────何処か悲しい。


「国のために死ぬことって……そんなに名誉なことなのか?俺からしたら、みんな犬死になんだぜ。国による理不尽な殺人なんだぜ」


「ヨンスさん…………」


「だけど……戦死した奴等を侮辱するつもりは、微塵も無いんだぜ。あの時代を生きた人間は、みんな真面目で必死だっただろうから。そんな人間を、決して馬鹿には出来ないんだぜ。でも……やっぱり哀れなんだぜ」


 それからヨンスさんは大きな溜め息をつき、俯いた。


「俺、最近まで兵役に行ってたからさ……やっぱり色々考えるんだぜ。戦争の必要性だとか、駒として消費される人間の尊厳だとか、殺し、殺される意味だとか……」

「…………」

「でも……俺のこうした考えなんて、この国では微塵も受け入れられないだろうな。この国の国民が、自分のアイデンティティの何処かしらを、国に委ねている限りは」


 それに言ってる俺自身、反日国の生まれだしな────自嘲気味に笑い、ヨンスさんは再び前を見た。 


「それでも、奴等の存在を忘れないことが大事だと、俺は思うんだぜ。あんな惨く悲しい死に方をする人間達が、二度と現れないためにもな……それはどの国の人間も、そうなんだぜ」


「…………そうですね」


「俺も……死にたくないからさ、戦争なんかで。何よりも……お前と別れたくないから。だから祈るんだぜ。今辛うじて平和な世界を生きている俺達を、どうか見守っていてくれって」


 そう言ってヨンスさんは、社に手を合わせた。


 私も彼に倣って手を合わせ、国の暴挙で死なざるを得なかった、彼等の御霊を悼んだ。

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