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「お願い!もう一回やらせて!、次こそ絶対!取る!」
紗理奈がギラギラネオンが光るUFOキャッチャーの前で、地団太を踏んで悔しがっている
「無駄だよ!アームが緩々じゃないか、あれなら何も挟めないよ、何回やっても取れないよ」
いつもの夕方の直哉の誘いで食事に出た後、ボーリングをしようと島一番の遊び場、プレイランドにやって来た紗理奈は
今目の前にある大きなレインボー柄の、ハローキティのぬいぐるみをどうしても取ると言って効かなかった
しかし直哉にはこのUFOキャッチャーの仕組みは、すでに分かっていて
景品が取られないようにアームに、仕掛けをしてあるのを見抜いていた、金をドブに捨てているようなものだ
今日のキャミソールのようなギャザーワンピースを、着ている彼女はシンプルに美しかった
後ろにまとめた髪が細く長い首をいっそう際立たせ、細いシルバーのネックレスが光っている
直哉はあのネックレスを歯で外す自分を、思い描いてこの後の夜を楽しみにした
紗理奈がもう一度チャレンジすると言って、機械にコインを入れた
アームを操作する紗理奈のすぐ後ろに、覆いかぶさるようにいる彼の存在を感じる
屈んで紗理奈にアームの仕組みを説明する、彼の息が耳にかかる、まるで抱きしめられているようだ
紗理奈の胸がドキドキした
結局大きなレインボー柄のキティのぬいぐるみを、その緩々のアームは一度は挟み、虹色の猫を持ち上げる、しかし暫くしたらことごとく落とすのだ
その度紗理奈は悔しがって金切り声を上げ、それを爆笑して直哉が紗理奈を抱きしめた、なぜなら少女のように悔しがる、彼女が可愛すぎるから
ある日の夕方紗理奈の家の玄関に、大きなレインボーキティのぬいぐるみを抱えて、直哉が現れた
紗理奈は奇声を上げて、彼に抱き着いた
たまたま仕事の帰り近くを通ったから寄ってみたら一発で取れたと彼は笑って言った
紗理奈はその彼の小さな嘘を、とても愛しく思った
いったいいくら使ったんだろうと思ったら、笑いが込み上げて来た、紗理奈は感謝の気持ちでキスをし
そして密かにそのハローキティのぬいぐるみを、「直哉」と呼ぶようになった
..:。:.::.*゜:.
「早く!紗理奈!もう始めるぞ!」
「待って!待って!これも食べたい 」
せかす直哉にクスクス笑ってアラビアの、陶器製のボールにポテトチップスを入れて、いそいそと紗理奈がリビングにやってくる
直哉は買って来たプロジェクターを、壁一面に映るように設置し、今夜は一日映画鑑賞マラソンだと言った
「この壁を見た時からここで映画が観れたらいいな、って思ってたんだ」
「おうちでは?観ないの?」
「一人の時はスマホやタブレッドで充分だよ、二人だからこそ大画面で観たいだろ?」
「でもあなたから次から次へと高価な物を、頂いてばかりだから、なんだか悪いわ 」
紗理奈はポテトチップスを一枚かじって言った
「その分君はうまい料理を作ってくれてるじゃないか、あれでも食費はかかってるだろ?それに俺はここの家の水も電気も使いまくっている」
そんなこと気にしてくれていたのね・・・
意外と彼は繊細だ、細かい所までよく見ている
もっとも性格的に人に借りを、作りたくないのだろうと紗理奈は分析していたが、それでも彼が気遣ってくれているのが素直に嬉しかった
「あなたが私のお料理をいつも褒めてくれるから、嬉しいわ、暇とお金を持て余した行き遅れ独身女が、ずっとお料理教室に通っていたけど、腕を披露する場所がなかったから、それを今楽しんでいるの 」
「前から思ってたけど、君は自分を卑下しすぎだよ、そういう言い方は良くないな」
直哉も紗理奈が膝に抱えている、ポテトチップスのボールの中から、一枚取って紗理奈の横に座った
「うまいな!チョコレートでコーティングしてある」
フフフ「美味しいけどカロリーおばけ」
直哉が紗理奈が用意したフルーツシャンパンを、口に含み舌で転がしている
紗理奈はワクワクしてシャンパンの味を直哉に聞いた、最近分かった事だが彼はかなりお酒に強い、知識も豊富だ
「どんな味?」
「トロピカルな香りの奥に、陽の光のような眩い何かがひそんでいる、それと牛のフンの香ばしさ」
「やめて!お腹が痛い、牛のフンを食べたことあるの?」
紗理奈がお腹をかかえてゲラゲラ笑う
「高尚なんだけど意味がわからないわ」
紗理奈が涙を拭きながら言う
「わからなくてもそれらしかったらいいんだよ」
紗理奈もそのシャンパンを一口飲んだ、牛のフンのイメージが離れなくやっぱり爆笑した
「ネトフリより俺達はアマプラ民だな」
「視聴リストにこれも入れて!一緒に観たいの」
紗理奈が壁に映っている、スクリーンを見ながらリモコンで操作する、そして二人はお互いの視聴リストを観て、暫く映画の話で盛り上がった
「ターミネーター」を見たことが無いなんて、信じられない!一気にシリーズ3まで観てもらうからな」
「それを言うなら、あなたトワイライトを知らないなんて大丈夫?バンパイアと人間の恋!あれはロマンスの王道よ!」
紗理奈はいたずらっぽく彼を見た
「こんなフリフリの世界観たことないよ!もっとババババッてアクションがあるのがいい、沢山人が死ぬんだ」
直哉は言った
「好みはいきなりテロリストの襲来からだな、そして誰が親玉かを推理するんだ、そしてコイツが最後にヒーローと一騎打ちをするんだなって冒頭から分かるのがいい、期待値が高まるだろ?」
「男の人ってそういう風に映画を観るのね、興味深いわ」
ふ~ん・・・と紗理奈がコクコク頷く
「それであえていうなら、途中で実は悪の親玉が違うヤツだったってのもいいな」
「ドラえもんは決まって映画の時は、スネ夫とジャイアンは良いヤツになるんだ」
クスクス・・・「そうそう・・そしてのび太は勇敢なのよね」
「しずかちゃんの入浴シーンは絶対必要だ!子供の時ドキドキして観てた」
「まぁ!そうなの?どうしてあんなシーンが、いつも入ってるか不思議だったのよ、あなた達みたいな人のためだったのね!」
紗理奈は驚いて彼を見たそしてまた笑った
「バイキンマンって意外にひどいよな、兄貴の子供達が観てる時に一緒に観たけどオイオイ・・・それはないだろって事を、よくやってるよな」
クスクス・・・「だから最後アンパンマンに、吹っ飛ばされた時にスカッとするんじゃない?悪が成敗されるのは昔から大衆の望みよ」
「水戸黄門」
「必殺仕事人!」
「ヒーロー戦隊ボウケンジャー」
「プリキュアはやっぱり初代が一番よ!」
ワハハッ「俺達その世代だな!」
二人はゲラゲラ笑った、こんな何でもない会話も彼とならこんなに楽しい
「私達・・・趣味も嗜好もまったく違うのね」
「でも君の嗜好を知るのは面白いな、たまには俺と全然違う考え方の人といるのもいいもんだ、8歳の時に初めて書いたっていう小説の内容を聞かせて」
紗理奈が目をキラキラさせて言った
「近所の農家の道端で猫の死体があったの、誰もが車に轢かれたと言ってたけど、私だけはこう思った
(もし轢かれたんじゃなかったら?)って・・・あの猫がもっと恐ろしい目に、あったんだとしたらどうだろう?って感じに私が色んな推理を口にするものだから、家族はうんざりして私を気持ち悪がったわ」
「その頃からハッピーエンドは書かなかったんだな」
直哉がソファーにゴロンと寝そべり、肘をついて紗理奈を興味深く見る
「そして部屋に私は閉じこもって、少なくても猫の変死体の9ストーリーは思いついたわ、ひとつ目はね―」
「わーーー!全部言のはやめて、今夜眠れなくなりそうだ」
直哉が耳を両手でふさいで首を振った、紗理奈がキャハハと笑う
「身の毛もよだつ猫の話を書いてからは?何を書いたの?作品の中で誰かが恋に落ちることはある?」
二人はじっと見つめ合った
「時々ね、あなたはアクションものでもベッドシーンが必要だと思うタイプね」
「どの作品にもベッドシーンは不可欠だ、明日には死ぬかもしれないって前夜が一番燃えるだろ?」
画面に出て来たセール情報に、紗理奈がウキウキして言う
「あ!今週ブラックフライデーよ!お気に入りリスト確認しなくちゃ!あなた何か欲しいものある?」
クスクス・・・「もしかしたら君は買い物中毒なのかな?セラピーが必要なほど?」
直哉も楽しそうに笑う
「買い物中毒ではないわ、でも美容医療中毒かも、独身で時間もお金もあったから、あらゆる美容医療を試してみるのが好きなの、千本の針がついたマシーンで顔中をぶっ刺すの」
「うっわ~・・・痛いのは俺嫌いだな」
「あら!痛ければ痛いほど効果があるのよ、あらゆる美容医療を試してきたわ」
「それでそんなに綺麗なんだな」
そっと手の甲で頬を撫でられる、紗理奈は舞い上がるまいとした
じっと見つめ合う、官能的なムードがぐっと濃くなって二人の間に漂う
「・・・・映画・・・・観ましょうか・・・」
「うん・・・・ 」
のんびりとくつろいだ雰囲気で照明を落とし、紗理奈は直哉にもたれ、直哉は黙って紗理奈の肩に腕を回した
紗理奈はそっと息を吐き、背中に当たる彼のぬくもりの心地よさに浸った
人肌って本当に気持ちがいい、もし夏が終わって二人がバイバイしたら、きっとこの肌が恋しくなるだろう