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「⋯⋯ねぇ」
「どうした?」
ソファに座ってかれこれ何時間が経っただろうか。どちらも動こうとはしない。かといって干渉しようともしない。スマホに目を落とすだけだ。
腕が痛くなり、肩から下ろす。すき間にすっと冷たい空気が通る。ふと顔を上げる。あいつはこちらに視線をよこし動かない。その瞳にすぐに腕を戻した。痛いけれどしょうがない。
「なぁ、トイレ行きたいんだけど」
「⋯⋯」
「行っていいよな」
「⋯⋯」
あいつは何も言わず、腰を引き寄せてくる。俺は一度置いたスマホを再度手に取った。
腕がしびれ、足先が冷えてきた。そろそろトイレにいきたい。
「トイレ行ってくるわ」
今度は許可は求めない。どうせ許可なんて出ない。
あいつはスマホをスクロールする手をとめない。声もかけてこない。じゃあ先ほどは何だったのか。乱雑に立ち上がり、トイレに向かった。
ドアを空け、ソファに近づく。こちらを一瞥すると片手をソファの背に乗せた。
そうだ、いたずらをしよう。広いソファなのだから隣に座らなくたっていいはずだ。一番遠いところに座る。そしてスマホでトーク画面を開く。適当に直近で話した慎太郎を選んだ。どんな文面を送ろう。『いま暇なんだよね。電話しない?』とか『今度ご飯行こうよ』とかどうだろうか。
気づくと横に樹がいた。スマホ画面に気づいたようだ。怪訝な顔をして、スマホを奪ってくる。
「あっ、ちょ」
取り返そうにも手が届かない。逆に俺の冷えた手先を温かい手でつつみ込んでくる。手に目をやってから、横にそらした。絡むように、舐めるように触ってくる。
口を開いたけどすぐに閉じた。そのかわり親指で樹の手をなぞる。あいつは少しほほ笑んでこちらを見つめてくる。どうも胸が落ち着かない。
「俺明日暇なんで、ご飯行きましょうか」
じっと見つめて、スマホを渡してくる。さっき入力中だったトークが消されている。俺がスマホを受け取ったことを確認すると、あいつはすぐに自分のスマホに目をやった。俺はスマホを閉じたり開いたりしたが、結局横に置いた。
樹の顔を見つめるが、あちらは見てくれる気はないらしい。樹のいじるスマホに目をやる。○◯◯◯◯というイタリアン料理店のホームページが表示されている。俺が前いきたいといった店だ。すでに表示されている予約画面に思わず息が漏れた。